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而鉄篇  作者: 伊平 爐中火
第1章(前編)出立
18/139

―公都アキルネ、ザッペン―

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蒼天とは当に斯くあるべし。草原の薄い緑は広く地平の彼方に丸くあり、低い木々にややその境界を侵食される。黄中天高く、万物を照らさんとす。その中に於いて源同じうする青の光は、時に白い雲に散り乱される。雲の白の五厘に対して、青の空の九分五厘。すなわち、快晴である。一行は荷車を引きつつ、石畳の道を行く。

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 いやー公都っての広いなあ。

 レンゾの兄貴に付いて、荷物運びとして公都に来たが、領どころか村からも碌に出たことのオイラは目を回しちまう。

「すげー」

「でぇーけーなぁ」

 一緒に来たタキオとジャコも似たような感想だ。

 一番参っているは、もしかしたら、ここで働くことになるかもしれないセーメンだ。

「へーあーはー、あ、えーへー、う、うおおおー」

 さっきから、口を開けっぱなしだ。レンゾの兄貴から聞いていたけど、思ってたのを超えてきた。レンゾの兄貴の説明も「でかいぞ」だけだったしな。鉱石の分け方とか、炉の作り方なんかは、わかりやすかったが、こいう説明は雑だと思った。


 ファゼイとか言ったお役人さんも、なんか矢鱈きょろきょろしている。ハージンのおっさんが教えてくれた。この人もほとんど領から出たことが無かったらしい。偉そうにしてたのに。オイラたちと同じかよ。兵隊さんたちも、恐々って感じだね。堂々としているのは、レンゾの兄貴とテガの兄貴、ミネの姉御、あとハージンのおっさんぐらいだ。


 テガの兄貴はレンゾの兄貴と比べると割とオイラ達よりの人だ。なんつうか、他の公都の人らにも会ったことがあるが、そん中でも一等地味だ。そんでも、このでっかい公都で平然としている。何だか、悪いけど見直してしまった。この人はコッコ姉の旦那さんになるらしい。二人とも大人しい感じだし、いい夫婦になると思う。


 ミネの姉御は今回初めて会ったが、レンゾの兄貴の姉妹分ってもんだから、姉御だ。背も低い、何か可愛らしい人だけど、道中でも草見て「うへへ」なんて笑ってた変な人だ。あと何か変な石とか拾って荷物増やしていた。石をひと舐めすると「これは役に立ちます」とかなんとか言って。荷物運ぶオイラたちの身にもなってくれよ。でも、ファゼイの野郎も兵隊さんたちもでれでれして止めない。それどころか、自分たちも何か拾ってきてた。大体、「それはゴミですね」って一蹴されてたけど。


 あとはハージンのおっさんだな。何かやたら偉そうなファゼイの野郎よりもハージンのおっさんはオイラは好きだな。お役人ってもっと偉そうで、きついのかと思っていたけど、おっさんはそんなことは無い。オイラたちが普段レンゾの兄貴と何してんのかとか道中結構聞いてくれた。鉄は鉄だろ?って感じのうちの親よりよっぽど理解がある。「オイラたちも皇国一の鉄を造ってやるんだ」なんて、言ったらにこにこしながら応援してくれた。お役人てのも色々いるんだな。


 さて、公都に着いたら、二組に分かれた。ハージンのおっさんとテガの兄貴と兵隊さんたちと、あとファゼイの野郎は領から持ってきたものを売りに行くらしい。残ったオイラ達と、レンゾの兄貴とミネの姉御でまずレンゾの兄貴の親方さんってのに会いにいく。炉の相談とセーメンのやつの弟子入りを頼みにいくためだ。


 で、工房に入ったらいきなりレンゾの兄貴が扉の向こうまで吹っ飛ばされた。

「てめぇ!レンゾどの面下げて帰ってきやがったぁ!」

 レンゾの兄貴も起き上がりながら大声で返す。

「親方ぁ!まず話を聞いてくれぇ!」

 白髪に白髭のムキムキ爺さんが怒鳴り返す。兄貴もでけぇが親方さんもでけぇな。公都の人は皆でけぇのか。いや、ミネの姉御はちっちぇえな。

「うるせぇ!たったの2か月で帰ってきた野郎と話す話はねぇ!」

 レンゾの兄貴がまた扉の向こうまで吹っ飛ばされる。あれ、骨の一つでも折れるんじゃあ、なんて心配していると、ミネの姉御が、

「流石レンゾくん、固いですねぇ。何で出来ているんでしょう。一回解剖してみたいですね。」

なんて恐ろしいことを言っている。でれでれしてたファゼイの野郎や兵隊さんは考え直した方が良いと思う。

 セーメンは、「え、俺ここで修行すんの?」なんて言っている。そら、そうなるだろうな。


 二人のやり取りは少しは落ち着いてきた。いくら何でも話が始まらないと思った。ミネの姉御が助太刀に入ったのだ。でも、その前にレンゾの兄貴は3回は吹っ飛ばされて、5回は木の棒で正面から思いっきり叩かれてた。でも、傷を負った様子は無い。え、やっぱこの人固すぎない?木の棒は真っ二つだった。

 何とか普通に話が出来る状態になったみたいだ。親方さんはレンゾの兄貴が速攻で独り立ちを諦めて帰ってきたと思ったらしい。ちょくちょくそういうのもいるみたいだ。

「まず、見てくれ。これを見てくれたら親方ならわかってくれるはずだ。」

 レンゾの兄貴は袋から鉱石と出来た鉄を出す。アニキの持ってる袋に何が入ってるのかと思ったら、そんなん持ってたのか。出したのは一掴みだが、袋は割とでかい。あれ、結構重いぞ。そんなん持って来るぐらいなら、オイラたちの荷物運び手伝ってくれても良かったろ。

 親方さんは、鉄鉱石と鉄を見比べた。次に、鉄鉱石を手に取って見る。軽く叩いたり、匂いを嗅いだり、舐めたりしてる。次に小槌で叩いて中身を出して、また矯めつ眇めつ見て、匂いを嗅いだり、叩いてみたり、今度は口に含んでみたり。次に鉄を見る。今度はまず叩いて、その破面を眼鏡をかけて見ている。オイラ初めて眼鏡見たな。話に聞いてたけど、あれが眼鏡ってんだな。本当にあるんだな。

「おい、レンゾ、この鉄でなんか作ってみろ。」

「ありがてぇ親方。」

 何だか話が通じたらしい。レンゾの兄貴はひょいと鉄の入った袋を持ち上げて奥に行く。

「セーメン、ザッペン、タキオ、ジャコ、来い。ミネはどうする?」

「うーん、じゃあ私も行きます。一度鍛冶場も見てみたかったんです。私はあまり鉄器は使いませんが、銀器何かも作ってるんですよね。」

「まあ、基本は同じだ。」

 え、ああ、今から鍛冶場に行く流れなのか。やっぱ付き合いが長いからかな。ミネの姉御もレンゾの兄貴の少ない説明で理解することが多いんだよなぁ。

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