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而鉄篇  作者: 伊平 爐中火
第1章(前編)出立
17/139

―領都アルムを出て、公都アキルネに向かう、ハージン―

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秋の澄空、日傾きて、(なお)透徹す。太陽は西に有りて赤を放ち、天に昇るにつれ、白に青に群青に。その群青の中、星の幾らか次第に明を示す。木林に覆われた山間。赤く染まった斜面は西向い。緩やかな尾根谷を巻いて道はあり。天狗平、地元の猟師にそう呼ばれている、傾斜の一部緩やかになったところ。そこに荷車の一団がいる。頃合いから見て野営の準備だろう。

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 さて、急遽決まった公都行である。私のこれまでの仕事は領全体での外部からの物資調達だ。アルミア子爵領はほとんどが農民で、領内で賄えないものも多い。そういうものを時に行商から買い付け、時に自身の足で買い出しに行く。ただ、買い出しでわざわざ公都まで行くことはほとんどない。大体は隣のスルキア伯爵領まで行けばことは足りる。そんな役割だ。


 精々5人で領内全体の分を賄うため、扱う物資は多岐に渡る。橋や領館など公共施設の補修のための石材、羊皮紙やインクと言った公務に必要なもの、不作の際の輸入食糧、貴族の専売となっている塩の代理購入、兵士たちの武具の類、役畜やそれらを使うための馬具や馬車、種々ある。

 公都に向かう面々は、まず私ハージンとファズ。ファズは、まるで子爵家の財布を任されているように言うが、実際は出ていく金と入ってくる金、残っている金を勘定するのが役割で使途に関しては一切権限は無い。これに加えて、元鍛冶師のレンゾ殿と薬師のミネ殿。ここまでは既定通りだ。


 さらに、レンゾ殿の部下のテガ殿も一緒に行くことになった。彼は元々大衆向けであるが、金物を取り扱っていたらしく、金銀などの製品に関してもある程度は目は利く。買取に関しても、ある程度伝手があるようで、頼りにしている。割合派手なアイシャ殿を始めとした公都の人々や、田舎にはいない癖の強さを持つレンゾ殿やミネ殿らと比べると、子爵領にもいくらでもいそうな素朴な人だ。そういう意味で相性が良かったのか、領に来てから2か月経たず農家の娘さんと婚約したそうだ。既にアルム近郊のマヌ村の、相手の実家に住んでいるらしい。婚儀は来春になるそうだ。


 以上の5人に加えて、領軍から護衛として6人、荷物運びとして4人の農夫の子倅がついている。これで総勢15人の旅だ。

 4人の農夫の子倅はレンゾ殿と一緒に鉄を造っている者たちである。初めは新領主の友人の遊びだと思っていたらしいが、出来たものが良いもの、少なくとも自分たちが今まで作ってきたものよりは良いもの、であることがわかると率先して手伝い始めた。うち一人のセーメンは、今回の公都行きで、もし先方に許されれば、レンゾ殿の親方殿に弟子入りするそうだ。その様子次第で他にも弟子入りしたい人間はいるようだ。流石に、一気に何人も、というのは無理だろうから、レンゾ殿が資質など見極めて一人に絞ったらしい。


 正直なことを言おう。私はレンゾ殿はあまり得意では無かった。口を開けば、大声の公都訛り(厳密には公都の下町訛り)でよくわからない技術的なことを早口で叫ぶ。こちらの言い分もきちんと聞いてくれない。同じ公都訛り強い早口のアイシャ殿は理屈の通じる人間であるのだが…。そう言えば、二人は夫婦であったな。

 が、そんなレンゾ殿であるが、どうやら農民の子倅どもには評判が良いようだ。何よりも、百の言葉よりも、雄弁な結果を見せられたのもあるのであろうが、言ってみれば親方気質のレンゾ殿と若い素朴な農民の子というのも上手い組み合わせであったようだ。言葉は野卑で乱暴だが、それは実際そこらの村落の親どももそんなに変わらない。しかし、随いて行けば何等かの成果が与えられるだろうことを感じさせる態度、どちらかと言えば農民に嫌われている我々役人にも平気で怒鳴り込む気質。ただ己の畑以外にほとんど発展性を持たない、兵を連れた役人を見ればおどおどとしか出来ない、彼らの親なんかより余程頼もしく見えたのであろう。


「これは一杯食わされたかもな。」

 私は(ひと)()ちた。

 一応は公都行を賛成した。でも、価格を理由にレンゾ殿とミネ殿の必要物資を購入するのを諦めさせるのが、私とファズの打ち合わせであった。だが、どうにも子倅どもの、領民の、私の子供より少し上程度の彼らの、きらきらした目を見させられたら、そういうことにも躊躇してしまう。


 ファズはファズでミネ殿に怪我の手当てをされてしまった。全く、全く持って、されてしまった、だ。下町育ちとは言え、都会の垢ぬけた娘さんにそんなことをされてしまったら田舎者のファズには十分な懐柔となっただろう。兵たちも羨ましそうに見ていた。もう、そんな齢ではない私から見れば、そこに他意などない、いやむしろ半ば最近調合したもの試そうとする気配すらあった手当てであったが、それを言うのは野暮ってもんだろう。


 今は野営中だ。今回は荷物も多く、進む速さも制御が利きづらい。本当は納屋でも借りられればよかったのだが、今日は駄馬が泥濘に嵌ってしまったのをどうにかするのに時間をとられ、思ったより進めなかった。ただ、それでも大きくは予定はずれていない。あと、半刻もあれば村落というところで日が暮れてしまったので、野営をすることとなったのだ。

 こういう時は炊飯や設営といったのは兵の仕事だ。が、レンゾ殿は普通に設営を手伝っている。ミネ殿はでれでれとした顔の兵と共に今日農家から買った野菜を切っている。二人とも癖は強いが、厳しい面構えで野菜を切るミネ殿の後ろに仁王立ちしているだけのファズなどよりも好感は高いだろう。


 さて、天幕ごときに、「こいつぁいけねぇ」なんて、こだわり始めたレンゾ殿に兵が当惑し始めた。少し助けに入るとしようか。

安易に野営はしない方が良いです。経験上。

たまに、アニメやなんかで薄い布一枚だけ敷いて野営をしていたりしますが、とても寒くて寝られたものではありません。

ようよう考えてみれば地面は人間の体温より余程低いので地に臥せれば徐々に体温を奪われていくのが自然です。

野宿する際は地面との断熱に気を付けましょう。

段ボールなんかがオススメです。先人の知恵というのはいつでも役に立つものです。

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