表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
而鉄篇  作者: 伊平 爐中火
第1章(前編)出立
14/139

―アルム、領館、ササン―

-----------------------------------------------

日のとっぷりと落ちた、その時間帯でも、領館の、その茶卓の周りは灯火で人の顔を見るに十分明るい。階段下るにはやや暗いだろうが、家人寮に帰るの道々には贅沢にも灯火に照らされ、不自由しない。その明かり、未だ、当たり前な、何によって与えられるか、都会の生まれで十分に理解しない彼らは、そこにいるのである。

-----------------------------------------------


 ようやくタッソさんへの報告は終わった。あれで何とか通じたかはわからない。一先ず、予算を策定してくれ、ってことになったから悪い方向ではないはず。


 何故私がレンゾのクソ野郎のためにこんな骨折りしなければならないのか。

「ミネ、お前ぇえれぇな。薬作れるんか。」

と、レンゾの阿保面が言う。いや、薬師だろうが、当たり前だろうが。

「あったり前ですよ。レンゾくん。これでも薬師ですからね。オババに仕込まれました!」


 イマ姉の縛りから解かれた二人が早口で喋りだす。正直、この二人は割と似た者同士で、自分のやりたいことしか見えていない。タッソさんに暴言吐いたことも覚えていない。

「硝子の何やかんやが必要なんだな。俺も琺瑯なら何回か作ったことあるぞ。必要なら言ってくれ。細工モノの硝子なら伝手はあるんだが、アイツ呼んだら来てくれるかな。」

「あ!ホーローでも大丈夫なとこは結構あります!作ってくれますか?」

「こっち来てから、良い釉薬が造れるかは未だ試してねぇからなあ。でも取れそうなとこはもう見付けているぞ。釉薬は灰からも作れるしな。多分そこまで手間はかからねぇ。炉だけ用意しなきゃなんねぇが、二、三日あれば何とかなるだろ。どんなが必要だ?」

 その二、三日お前は仕事しないつもりか?ただでさえ、人手が足りてないってのは、さっきの話であったろ。


 セッテン兄が私の肩に手を置いて、首を横に振る。諦めとも、慈しみともとれない表情をしている。セッテン兄は大人だな。セッテン兄だって、何というか、自分のやっていることをこんな感じで話したいこともあるかもしれない。でも、こんだけ夢中になれるほどではない。だからこそ、ミネ姉にやらせてみたい、ってのが本心なんじゃないかと思う。正直、私はそういうふうに思えるようになるとは思えない。だって、アイシャ姉を盗った、レンゾ兄が憎い。何で、私は今、そんなレンゾ兄を助ける立場にいるのか。


 アイシャ姉とレンゾ…兄ぃが一緒になるって聞いた時は、私は目の前が暗くなるかと思った。だって、アイシャ姉は私の…私が…。

 だって、そうだろ。アイシャ姉がセブ兄に少し惹かれているのは昔から知っていた。でも、私は認めなかった。

 私は長屋生まれでも割と下の方だった。それは年齢的な意味だけでなく、親の職業的な意味でもだ。私の親の職は正直何だかよくわかない。父ちゃんは昨日城壁の修理に行ったかと思えば、今日は衛兵詰所への昼食運びってな案配だった。母ちゃんはも働いていた。母ちゃんは、今になってはわかるが、夜の仕事もしつつ、昼もそこらに手伝いに出かけていた。旦那がいるのに、人妻なのに、そういう仕事もしていたってわけだ。実際長屋に暮らせていたのも、偶然てぇぐらいで。本当はもっと…。

 実際、そこは少し無理してくれた両親には感謝が絶えない。


 でも、そんな感じで、だってどうしようもないじゃないか。子は生まれてくる親を選べない。別に親を恨んでいるわけではないが、もう少しあったんじゃないか、なんて思うこともあった。だって、別に裕福でもない長屋で、「あんまり、あそこの子とは…」、なんて…。

 アイシャ姉は、そんなん気にせず声をかけてくれた。アイシャ姉だって、どちらかと言うとこっち側の生まれだ。でも、長屋でもどちらかと言うと、上側の家庭の子と普通に付き合っていた。その中心にいたのはセブ兄だって、わかっている。セブ兄はどこか大人びたとこがあって、あまり親どうのこうのなんてのは気にしなかった。本人自身も片親であることもあって、っていうのもあったかもしれない。

 でも私に声をかけてくれたのはアイシャ姉だったんだ。だって、嬉しかったんだ。だって、正直私も物心つくか、つかないか、って年齢だったけど、アイシャ姉は私に、どうしようもなく、家の前で砂で、特に何をすれでもなく、砂の山を築いたり崩してたり、するしかなかった、私に、だって「一緒に遊ぼう」って…。


 アイシャ姉が、酒場の給仕って職についた時、私は憂鬱だった。私の母親と同じ職だ。アイシャ姉は持ち前の明るさで、もしかしたら何とかやっていけるのかもしれないって、思ったけど、だってもしかしたら、アイシャ姉の子供まで、私みたいに惨めな思いをするのかもって考えたら…、私の父親みたいにどうしようもない(嫌いではなかったけど、大人になってわかる、つまり甲斐性のない)男と一緒になって、そんな生活なんて考えたら…。

 だから、私はアイシャ姉がレンゾ兄と一緒になるって聞いて、暗い思いとは裏腹に、実は少し安心した。レンゾ兄はあんなんだけど、公都で一、二を争う鍛冶屋で、若手でも、その…腕のある方だって、気に入らないけど、聞いていたから。心配いらないって。

 でも、セブ兄に付いていって、名前も聞いたことも無いような子爵の、その領地に行くって聞いて。それで、どうするのさ、って。普通に考えて、公都で一番になれなくても、そこそこの鍛冶師とかになれば、生活には困らない。長屋住まいどころか、一軒家も持てるかもしれない。私はアイシャ姉が幸せになってくれれば、幸せだ。だって、同じ女の私にはどうしようもないところもあるから。


……


 何だか、久しぶりにアイシャ姉に会ったら、何だか、変な感じに、思いが込み上げてきた。別に、公都にいたときだって、そこまでしょっちゅう会えていたわけではないのに。

 はーアイシャ姉、アイシャ姉、この想いは、もしかしたら、もう届かないんだね、なんて。


 少し、アイシャ姉とのことを考えていたら、熱くなり過ぎた。気付いたら少し涙ぐんでいた。セッテン兄は表情は変わらない。でも、私が、私の思考が、今どこに行っていたか、それとなくわかっているんだろう。今、なんだかんだ言って意気投合している二人も、だって知っている。この二人だって、アイシャ姉に、救われた、ことがあるなんて、ずっとアイシャ姉を見てきた私は知っている。


 でも、この二人は言うんだろうな、って思う前に、

「おい!ササン!てめぇ、泣いてるじゃねぇか!これぁタッゾの野郎だな!シめてやる!」

「ササンちゃん!泣いているじゃなですか!タッソさんに強く言われたせいですね!これは言ってやらなきゃいけません!」

 タッソさんは何も強くは言っていない。そもそも、事情を聞かれただけだ。

 でも、この二人にはそんなことはわからない。私が少し涙ぐんでいたのを見て、直前に話していたタッソさんが原因だと勝手に思っただけだ。

 実に単純だ。

 ああ、もし私もこうなれたら、この二人のように、こうなっていたなら、もう少し世界は、単純で、美しく、楽しく、苦痛の少ない、ものであったのかもしれない。

 私はアイシャ姉のように、美しく、レンゾの頭を蹴ることは出来ないから、思いっきり頬をはたいておいた。

どうしても中世での灯火としてイメージしがちなのが蝋燭ですが実は高級品で宗教的な場なので使われていたのがメインでした。

では何が用いられていたかと言うと所謂ランプです。ランプの精のアレですね。

繊維質の灯芯と油溜まりからなり、灯芯に吸い上げられた油が先端で燃えるというものでした。

発明は紀元前7000年とも言われています。

この構造は18世紀末から19世紀中頃まで変わらず用いられていました。

照明はその後19世紀中頃からは白熱電灯、20世紀中頃からは蛍光灯、21世紀に入ってLEDへと目まぐるしく進歩していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ