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而鉄篇  作者: 伊平 爐中火
第2章(中編)それぞれ
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―テガの日誌―

歴1152年8月13日

 アルミアを発つ。同道するのは、渉外役のジズ、メッケ、兵としてオン、ズゾ、セッキ村のタキオ、デッソウ、馬丁としてメーコ。馬4頭。オン、メーコが騎乗。駄馬2頭。


8月14日、8月15日

 道行問題無し。


8月16日

 ソアキに着く。


8月17日

 鉄を幾らか持って鍛冶屋を回る。鉄の相場を調べるため。駄馬1頭で4000銭程度。


8月18日

 駄馬1頭とジズ、メッケ、兵2を残し、テガ、オン、メーコ、ズゾで公都へ向かう。駄馬1伴う。鉄を載せる。夕には着く。オン、メーコは、馬を伴って公都にある小規模貴族の共同厩舎へ。その後、アルミア家別邸に。私は父の家へと。


8月19日

 朝から別邸の借りている厩舎に向かう。オン、メーコの二人は結局厩舎で泊まったとのこと。彼らは公都に家族のいる者たちへと便りなどを渡しに向かう。ズゾはオン、メーコとともに行く。私は出稼ぎ先の交渉に向かう。

 付き添いとして、アルミア家家人、公都詰めのウルメン。

 私は鉄を馬に載せ鍛冶師ドンテン殿の元へ鉄を届ける。職人街は祝儀込みで多めに、という話でもあったが、相場通りの4000銭にて鉄を売る。

 出稼ぎの受け入れの話も告げる。直ぐに、知り合いの親方連中も呼んでいただく。以下、各々の特徴なども記しておく。私以外のものが使者として向かう時のため。

 鍛冶の親方ドンテン殿。大工道具が主。黒髪。背は中頃。顎鬚を蓄えた、がっちりとした男。公の場での公都訛りは薄い。

 鍛冶の親方ラゲン殿。刀剣打ち。研ぎが得手。白髪混じりを油で撫でつけ、髭を整えた、黄金刺繍の左眼帯の伊達男。

 鍛冶の親方ボモイ殿。鉄細工が主。蓬髪、不精髭、目の細い男。

 真鍮職人、工房番頭のビーブ殿。飾り物をやる。目力の強い、妙に顔の濃い、ひょろ長い男。

 青銅職人、工房番頭ドブオン殿。鍋など料理道具。日に焼け、鯰髭だけ目立つ、地味な男。

 煉瓦作りの親方ソルオ殿。日干しよりも焼しめた窯に使う煉瓦の仕事が多い。アルオの父親。がっしりとした、総白髪、長身の男。

 硝子職人の親方ジーゲン殿。貴族向けの仕事が多い。テモイの師。恰幅良く、髭は薄い、豪商然とした好々爺。

 陶工の親方ヴブ殿。壺、皿。庶民向け。手先の汚れ以外は、妙に小綺麗な紳士然とした老爺。

 大工の親方ギーオ殿。建築。堂々たる体躯、レンゾ、モルズをも凌ぐ、大男。天井に頭が擦る。

 木工の親方エイゲイ殿。車大工。名は男であるが女大将。刀傷で顔の崩れた。

 木工の親方イーゾ殿ら。箪笥、長持など。赤茶けた、鬱蒼とした髪、髭にくるまれた、矮躯。

 以上11人。錚々たる顔ぶれだった。

 各々方、7~10人程度の枠は用意してくれるとのこと。

 職人街に来たので他も巡る。

 羊皮紙職人のジボン殿。暗い長髪の男。土気色の顔色。痩せ型で、少々狷介さを感じさせる。トトンの便りを渡す。

 および機織り所を訪れタヌ様からの便りを渡す。相手はベシャ殿。装いは下町そのものだが、流麗たる貴婦人然とした中年の女。

 両人とも事情を説明した所、確約は得られなかったが、力は貸していただけるとのこと。

 

8月20日

 昨日に続き、共連れはウルメン。

 私の元働いていた金物屋へ行く。店主オグに事情を話す。店主オグは痩せ型、白髪混じり短髪の男。界隈では屋号の南洲屋で呼ばれることが多い。3人程度を雇ってもらえるとのこと。

 その後、周りの小売を幾つか回る。

 靴屋のレンコ。白髪、小柄の老婆。

 灯明屋のモビオ。黒い肌に、黒い巻き毛を編み込んだ、男名だが妖艶な長身瘦躯の女。

 薫物(たきもの)屋のイバ。怪しい目付きをした白子の女。病的に細身。

 各4人、合わせて12人。うち男7女5。

 カーレの手紙を服屋のトマ殿に渡す。トマ殿は服屋らしく小綺麗にした中年の女性。髪は赤茶けている。屋号のニシマ屋で呼ばれることが多い。3人分女の働き先を見積もってくれるとのこと。

 ミネの生家でもある湧雲津(わきぐものみなと)に向かう。屋号からは察せられないが薬師の店である。幾らかのやり取りをした後、ミネからの便りを渡す。事情を話せば幾らか心当たりのあるとのこと。また、手の者が訪れる旨を伝える。

 湧雲津の店主、ニクラ殿は深く皺の刻み込まれた老婆。私が幼い頃から既に変わらない姿であったように思う。


 次に料理屋界隈へと行く。

 ズブからの手紙をロビオ殿に渡す。ロビオ殿は料理屋の店主。朴訥とした目の細い男。やや小声の北方訛り。屋号アソンネルネで呼ばれることも多い。アソンネルネは沿海州の言葉で南海の塩の意らしい。4人ほどの仕事を見積もってもらう。

 セベル様および、他の公都組みも良く利用していた酒場、赤鼻亭に向かう。下準備をしていた店主ムッスにセベル様からの便りを渡す。店主ムッスは禿頭の髭男。屋号に反して鼻は赤くない。背は高い。

 通りを奥に入っていく。アイシャからの手紙をアイカ殿へと渡す。ともに事情を話し、協力を仰ぐ。快諾を得た。アイカ殿は、共に快活明朗な方。鉤鼻の老婆。

 また、ロビオ殿、ムッス、アイカ殿ともに二人とも幾つかの店に声を掛けておいてくれるとのこと。

 そのまま、通り二つ跨ぎ、食材卸しのまとまった界隈へ。まず、セッテンの手紙を肉卸しのゴイオ殿へ渡す。力仕事8人分。ゴイオ殿は恰幅良く、色の白い若い男。数年前、先代にして父ガイオ殿から跡目を継いだ。未だ、ガイオの店と言った方が通じる界隈もある。

 次に、ロビオ殿の紹介してくれた野菜卸しを尋ねようかと思ったが、最早日暮れ。明日以降にすることとする。


8月21日

 昨日と同様にウルメンと共連れ。オン、メーコが馬にてオンの実家に向かうということで、ズゾはこちらの手伝いに回った。

 朝一番にロイの手紙を魚卸しのムベ殿のところ向かったが多忙のようであった。先に別のところを回ることにする。

 昨日、話の出来なかった野菜卸しのオベ殿を尋ねる。幸い、準備の間の手隙であった。ロビオ殿からの紹介の旨、出稼ぎ先を探している旨話すと、幾つか仕事を見積もってくれるとのこと。また、話せばムベ殿はご兄弟であると言う。ロイからの手紙も託すこととする。出稼ぎ先に関してはまた後日となる。私は明後日には発つ故、また人をよこすことを伝える。

 ムベ殿は一見痩躯であるが筋肉質の上背のある男。髪は茶色の短髪。オベ殿は血色の良い、かなりの肥満体。体形は随分と異なるが、顔は良く似ている。

 河港の近くまで来たので、続いて、テッカ、ケヘレの頼りであるモボウ殿を尋ねる。モボウ殿は港のまとめ役であると言う。詰所は幾らかのいかつい男共に守られていたが、テッカの名を出すと通ることが出来た。

 モボウ殿に事情を話す。顔役の好意的であった職人街と異なり、少々張り詰めた折衝となる。しかし、セベル様の名と、その事情を話したら、以降は恙なかった。

 モボウ殿は、その威圧感とは裏腹に小柄で痩せ型の男。


 南西の衛兵所へ向かう。セベル様の伝手を元に衛兵分隊長のスグエレイ・ガッサイ様を尋ねる。本来は、先触れでも出した方が良かったかもしれないが、問題無かった。幾らかの労役を案配してくれるとのこと。また後日、アルミア家公都別邸に伝えてくれるように頼んだ。ガッサイ様は禿頭の偉丈夫。

 そのまま、南西の門に向かう。南西の門は外者も多く、人買いなども多くいる。ガッサイ様の紹介、セベル様の知り合いでもあるという人買い、メボン殿のところに行く。これには、副長であるソボウ殿が案内に付いてくれた。ソボウ殿は隻眼、隻腕、額に刀傷のある髭の大男。

 メボン殿は小柄、人畜無害の風体だった。人買いと言っても、買ったきり、売ったきりだけでなく、一冬の年季奉公の斡旋も行っているとのこと。そこで、32人分の約を得る。

 そのままテテの伝手である、傭兵隊長のジーブ殿の元へ。これもソボウ殿の案内。衛兵として、治安の悪いここらは良く弁えているとのこと。ジーブ殿は、とても傭兵隊長には見えない猫背痩せぎすの男であったが、目付きはそのものであった。テテの紹介である旨伝えると、傭兵の斡旋かと間違われたが、労役である旨伝える。糧食の荷運びに18雇ってもらえることとなった。

 次はトゲンの伝手。これもソボウ殿が案内してくれた。南西の最も治安の悪いところ。ソボウ殿もやや顔を顰める。その奥にいた蛇頭(じゃとう)と呼ばれる男がトゲンの伝手である。伝えられていた通り、賄いを渡せば60の口の約を得られた。

 

 そのまま、ソボウ殿の案内で公爵軍の駐屯所に向かう。ソボウ殿とは、そこで別れる。軍と衛兵は似ていて異なる。折り合いの悪いこともあるらしい。

 案内してもらったものの、駐屯所にはそう簡単に入れない。門衛に、ササンの助言により頼れと言われたヨレ殿のことを聞く。折良く、門衛は気の利く男で、ヨレ殿は今日は非番であること、家は東一番通りであることを教えられる。礼を言って辞して、東二番通りの方に行く。

 東通りの入口でヨレ殿の家を聞き、訪ねる。ヨレ殿は若い頃はさぞかし持て囃されただろう中年の佳人であった。ササンの伝手である旨伝えると、随分と心配されたが、何とか要件を伝える。幾らかの労役に関して、心当たりのあるとのこと。約こそ得られなかったが、交渉は好調であったと言えるだろう。

 ヨレ殿のところへ向かう前に飛脚所にも行った。センの元働いていたところである。頭のロッテン殿にセンからの手紙を渡す。飯炊き程度なら、3人程度は雇えるだろうとのこと。

 ロッテン殿は飛脚らしく、小柄で細身ながら引き締まった体躯の男。


8月22日

 昨日と同様にウルメン、ズゾと共連れ。

 日数を考えると、本日が公都で折衝を行える滞在最後の日である。

 まず、ナナイの伝手であるオーボン殿の邸へと行く。ナナイの使者であることを示すことで入ることが出来た。通された室は豪奢。そこに座っていたオーボン殿は、気を付けなければ、どこにでもいる男としか見て取れない食わせ者であった。ナナイからの便りを斜めに読み、諾否も言わずに退出。後に番頭格と思われる男から、30用意する旨伝えられる。丁寧な証文まで渡される。

 オーボン殿は黄金街道沿いを主として行商の取りまとめ。自身で向かうことも多く、訪ねた際にいたは幸いであった。

 商家の邸のある界隈にいる。

 ヤメルの雇われていた孤児院の後見である商人、三苗(さんびょう)屋ログウ殿を訪う。孤児院の後見であり、豪商の四代目であるという。公爵家への出入りも許されている数少ない商人でもある。門構えは商家の邸の多くある辺りでも一等立派な石造り。前評判通りに大尽然とした御仁。鷹揚な態度。ヤメルの手紙を渡し、事情を話すと、その場でまず20の働き口を約してくれた。後に証文をアルミア家別邸に届けてくれるとのこと。加えて、幾らか声掛けも行ってくれるの言も得る。これも先の証文と合わせて別邸に。

 ログウ殿は河を利用した貿易商。河の行き来は手下が主で、自身は公都にいることが専らだと聞く。

 ソーカ、クリンの働いていた商家の邸を訪ねる。流石に、前二者に比べると小じんまりとした、しかし小綺麗な邸。使用人か幾人か。主の名はユーレン殿と言う。しばらく、商談で神丘自治都市群の方に赴いているとのこと。ソーカ、クリンの手紙を使用人に預け、後の交渉はウルメンに任せることとする。

 センの両親が住み込みの使用人をしている商家を訪れる。訪ね先が使用人であるため、こちらは裏口から。ユーレン殿の邸よりは幾分か大きい。センの父、ボン殿は主人に付いて外出中故不在。母であるセーシャ殿が出られる。センからの手紙を渡すと、大層喜ばれた。茶などを出すと言われたが固辞しておく。事情を話す。セーシャ殿は家内向きのことしかしていない故、斡旋は出来ないが、もし働き口が得られそうであれば、別邸に伝えてくれるとのこと。随分と惜しまれたが辞す。

 セーシャ殿は若く見える上品な婦人であった。


 最後に市を巡り、麦、糧食の値を調べる。ソアキと比べるとやや高いのは、ほとんどがソアキから運ばれたたものだからだろう。公都周辺ではほとんど耕作は行われていない。


8月23日

 公都発。テガ、オン、メーコ、ズゾ、駄馬1。

 ソアキ着。ジズと合流。


8月24日

 ソアキ発。ジズ、テガ、オン、メーコ、兵3、駄馬2。駄馬には麦を積む。オン、メーコが騎乗して先行。


8月28日

 アルミア着。

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