表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
而鉄篇  作者: 伊平 爐中火
第2章(中編)それぞれ
103/139

―ナナイの日誌―

歴1152年8月15日

 希代の凶作ということで、後世にその状況および我らの取った対策を伝えるために、日誌を付けることになった。筆取るは、仕官して間も無い、私ナナイであるが、諸々状況考えると致し方ない。

 元、渉外のまとめであるハージンは、出稼ぎ先となる傭兵業、我らが領の兵どもを通す、その道行の各領に筋通すために遊説に出た。仕官して未だ日の浅い私やコーセンでは諸侯への面通しもなく、この任は務まらない。故に、まとめであるハージン殿の欠くに至った。

 コーセンと比べて、やや務めの短い、しかも女である身の私がまとめをやることになったのは、私がセベル様の譜代であることによるものである。正直、身に重いものであるが、命受けたならば、任を全うするしかあるまい。


8月16日

 昨日スルキア方面から帰って来たコーセン、フォングの話を聞く。懸念通り、スルキア方面での麦の値は上がっているようだ。ただ、絶望的なほどではない。現在、内務と出納の方で、使える金の概算を決めている。こちらとして必要額の概算を進める。

 タヌ様の方ではそろそろ冬麦の収穫も終わることとて、各村に調査を出したとのこと。


8月17日

 三日前の幹部級の寄合、およびこの二日間における関係各所での調整で概ねの役の割り振りは決まった。その役の概ねを記しておく。

 私、ナナイがこの危機の対策における統括とも言える立場となった。用務は主として、糧食の輸入、産物の輸出、出稼ぎ先、この機に当たっての金銭の出納、以上の差配である。

 タヌ・ファラン様。ファラン家の御息女であり、当主の妹御であられるタヌ様は、この危機に当たって内の取りまとめとなることとなった。兄君であらせられるタッソ・ファラン様は、より上の家宰であるため、他の用務に多忙であるため、この機に当たっての用務はタヌ様が当たられることとなった。用務は領内の収穫状況の把握、出費の把握および、備蓄・輸入による糧食の配分である。

 タヌ様の下にはフスク、メーベンなどの譜代の臣に加え、私と同じく公都より来た面々が着く。

 次に渉外役として、他領にて仕事を行う者どもである。

 スルキア方面では渉外役のコーセンを頭として、下に渉外役のフォング、精錬場のゲッセイが主たる任を負う。ソアキ方面は渉外役のジズを頭として渉外役のメッケを付ける。ここに精錬場のテガ、ズブが順に手伝う。

 渉外役をスルキア、ソアキ方面に分ける必要があったので、歳順を考えてコーセン、ジズとした。コーセンをしたのは元スルキアの行商であり、そちらに明るかったからである。ジズは残った方に付けたのみである。領内の人員を考えれば、公都近辺で行商をしていた私がソアキ方面に一番明るいだろうが、領内のまとめを私が預かることになった以上致し方あるまい。

 その他、仕入れた麦の勘定など、渉外役たちの事務を行う者として、ヨーシャ、ジシャ、バッケン、ラジン。これに出納役からキリオが手伝いに来た。ヨーシャは先代の渉外役のまとめであるボッケンの妻、ジシャとバッケンはその娘と息子。ラジンはハージンの息子である。バッケン、ラジンは未だ子供であるが、人手不足であるため、手伝いに上がらせた。先々代の頃から仕えている長老格であるキリオの働きに期待する。

 概ねは以上である。以降、必要に応じて記す。


8月18日

 ハージン遊説に発つ。およそ一月の見込み。


8月19日

 ゲッセイ帰還。彼は正式に仕官したわけではないが、精錬場の方で雇った形になっている。アルミア領で作った鉄の値や需要などをレンゾとともに聞く。レンゾ自身の評価よりも値は高く、駄馬で運ぶ量の鉄二頭分で麦三頭分。ただし、需要のほどは難しいとのこと。


8月20日

 ゲッセイの報告を改めて、セベル様、タッソ様、タヌ様に上げる。

 現時点でのスルキア方面の収支を考えると鉄を運べば十分儲けが出る。ただし、麦の供給、鉄の需要を考えるとどこまで持つかはわからない。


8月22日

 タルネン男爵領に行っていたフォングが戻る。道の修復が終わるまでの間、スルキア地方で買った麦をタルネン男爵領の倉庫を借りて備蓄するのは問題無いとのこと。


8月24日

 昨晩コーセンより、ゲッセイとの役割分担に関しての報告を受ける。

 しばらく、コーセンはスルキア領都スルクで、ゲッセイはスルキア東部で麦を集めるとのこと。本格的に領内に運び込むのは道の修復が終わってからになるだろう。


8月25日

 コーセン、ゲッセイ、スルキア領へ発つ。


8月28日

 公都およびソアキへ遣いに行っていた者たちが戻る。ジズ、メッケ、テガ、オンである。他に同道幾人か。明日ジズから報告を聞く。


8月29日

 私は渉外役のまとめとしてジズ、メッケから報告を受ける。

 ソアキ方面の麦の値はやはりスルキア方面に比べて遥かに安かった。鉄の値も高かったとのこと。およそ鉄1に対して麦3。荷運びの費用を考えても,わずかにソアキの方が儲けが多い。

 

8月30日

 公都に行っていた者どもは昨日、各上役に報告。その内容をまとめて、セベル様とタッソ様に報告。


9月1日

 領内の状況の確認に出ていたフスクとメーベンが帰還したとのこと。直に内務役でまとめたものが来るだろう。

 ジズは再びソアキへ。次は麦を買って来るはず。


9月4日

 タヌ様直々に領内の麦の取れ高と、出稼ぎに出る人員をまとめたものを報告に来る。

 加えて、領外で鉄が思ったより高く売れるということがわかって、精錬場に鉄の増産の指示を出したようだ。売り方もあるのだから、事前に相談して欲しかったのだが。


9月5日

 運ぶものが多くなりそうなので、アルムの職人たちに荷車を造るように言いつける。


9月6日

 フォングに指示を出して、道が出来た後すぐに鉄を運べるように道の出来ているところまで運ばせることにした。普請に出ていた者が泊まっていた小屋がいくつかあるから、そこに留め置くことにする。

 道が出来るまで後数日か。既に別方から来た手伝いは引いて、兵どもだけでやっているはずだ。


9月10日

 セベル様の命で皇都に遣いに出ていたトレイが戻った。出稼ぎ先として皇都300が使えるそうである。実際に計画を練ってみると、皇都に300もの人を送るのはかなり辛いのであるが。

 出稼ぎ先の各村の配分は内務の仕事なのでタヌ様にお願いしておく。

 そして遂に道が通じたとのこと。明日からフォングがタルネン領に集積した食糧を運ぶ。ここからが勝負だ。


9月12日

 タルネン男爵領に集積した食糧を運んできた。今季の食糧輸入の第一号だ。食料の受け入れのまとめはヨーシャに頼んだ。今回のもので、およそ40人分。


9月13日

 ソアキ方面からジズの雇った労役が食糧をもたらす。こちらは駄馬と労役だけで運ぶしかないから、スルキア方面に比べると少ない。だが麦は安い。


9月14日

 ジズの雇ったソアキ方面の荷運びは、テガに任せて鉄を持ってソアキに戻らせる。

 コーセン戻る。食料は23人分。


9月15日

 コーセンの報告を聞く。麦の手配は順調であるが、不作の噂を聞くこともあるとのこと。


9月16日

 ゲッセイの連れて来た労役、コーセンの連れて来た労役、合わせてコーセンが鉄などを積んでスルキア領へ。総勢70人ほど。


9月17日

 ジズが自身の連れて来た労役を伴ってソアキへ発つ。


9月18日

 しばらく、出入りが激しくて遅れていたが、コーセンから得られた情報をセベル様、タッソ様、タヌ様と共有しておく。

 出ていく労役の面倒まで私が見ていたのでは身が持たないので、メッケをまとめということにしておく。出ていく労役に持たせるもののほとんどは鉄である。些か心配ではあるが、精錬場の人間の助けがあるのであれば、何とかなるだろう。


9月19日

 ハージン、一月振りの帰還。詳しい状況は明日であるが、大きな問題はなかったようだ。長い道行の後で酷ではあるが、明日朝から報告を聞くこととする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ