ベテラン転生者な女王様の野望
むかしむかし、ある異世界に、ベテラン転生者な女王様がおりました。女王様は、それはそれは頭が良く、民衆にも好かれておりました。女王様に王権が移ってから貧民層はなくなり、国民は皆富み、犯罪発生率も他国にくらべるととても低くなりました。それもこれも、転生知識をフル活用した女王様のおかげでした。
そんな女王様には、密かに抱えている野望がありました。その野望を叶えるために、誰も文句の言わないような善政を敷き、決して不利にならないような条約を他国と結び、その長すぎる人生経験ゆえに肥えた人を見る目で直々に領地や国庫、政治を任せられる人物を選びました。そのおかげで女王様の支持率は先代の王たちにくらべるととても高く、また、公私をきっちりと分けていたので、新年の挨拶や新たな条例を発表するときと、お忍びで街にやって来たときのギャップに萌えている国民の数も天元突破しておりました。
ある日、女王様は臣下の一人を呼び出しました。
「国民へ重大な発表がある。城のバルコニーの準備と、国民への通達をよろしく頼む」
それを聞いた臣下がなにを発表するのかと尋ねましたが、女王様は答えてくれませんでした。女王様がこのように発表内容を事前に教えてくれないのは初めてでした。呼び出された臣下が同僚に問うても、皆首をかしげるばかりです。やがて、女王様の謎の発表の噂は国中に広がりました。ある者は女王様のご結婚が決まったのだと言い、またある者はなにかのイベントを開催するのだと言いました。
国民は、だれ一人として女王様を疑いませんでした。あの女王様にかぎって悪いことはしないと、そう信じきっていました。
そうして迎えた発表の日。城のバルコニーの前の広場には、女王様のお言葉を今か今かと待っている王都中の住民が集まっていました。その光景を満足そうに見下ろしていた女王様は、ついに口を開きます。
「来月のこの日!この国でパンを食べることを禁ずる!!」
その場は騒然となりました。女王様の治める国はパンが主食だったので当然です。また、女王様の真意もわかりません。そんな混乱した国民のうち一人が、女王様に問いかけました。
「なぜですか!?パンを食べてはいけないのなら、私たちはなにを食べればいいのですか!?」
何千何万といる民衆の声から、女王様はその問いをはっきり聞き取りました。そして、その整った顔立ちに笑みを浮かべ、堂々とおっしゃいました。
「パンがないのなら、ケーキを食べればいいじゃない!!!」
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女王様の野望。それは「パンがないならケーキを食べればいいじゃない」と言うことでした。このところ女王様は貧民街にばかり転生していてその機会がなかったのです。
何はともあれ、女王様の野望は達成できましたし、国民も穏やかな者ばかりなので、その国は一年に一度の謎のパン禁止デーとともに、幸せに暮らしましたとさ。