判明
28.判明
瑞穂が自首し自供したことにより、これまで捜査で分かっていなかったことが一つ一つ明らかになった。県警の取調室で自首した瑞穂が穏やかに話し続けた。目的であるパパの名誉回復が実現していくのを見て、安心してすらすらと話し始めた。織田刑事が丁寧に質問を開始した。「どうして今川氏を殺そうとしたのですか?あらためて教えてください。」瑞穂は素直に答えた。「元々、父とはいつもラインで毎日の出来事を伝え合っていました。父がいなくなる直前のやり取りでは、『信頼していた上司に裏切られ、責任を負わされた。自殺するが探さないでほしい。』と言う内容でした。私の携帯にまだ残っています。」と言うので斎藤が先ほど押収していた彼女の携帯を再度、瑞穂に渡した。これですと示しながら言った。「本当に亡くなったかどうかは遺体がないので半信半疑でした。ただ、どこかで生きていてほしいと願っていました。だから復讐することなど全く考えていませんでした。パパが上司というだけで誰のことかわかりませんでした。」「それではどうして今川氏を殺害することになったのですか?」と斎藤が尋ねる。「シクラメンで今川さんと畠山さんが話しているのを聞いてしまったからです。」「何を聞いたのですか?」と斎藤が尋ねる。「店の一番奥の席で二人だけでひそひそと話をしていました。それが聞こえてきたのです。畠山さんが『明日、記者会見しなければならない。どのように話して切り抜けたらいいだろうか?』」というようなことを言っていました。記者会見って何だろうと思い、注意深く盗み聞きしてしまったのです。」瑞穂は続けた。「今川さんが『社長は知らなかったと言えばいいんです。ただ事件を起こしたことは遺憾だ。製造現場と品質管理部署の独断でやっていたことだ。会社ぐるみではない。社長として目が行き届かなくて申し訳ない。現場では人手が足りないので、やっていたことにして証明書に押印していた。自動車は完成段階でも最終検査があるので問題ないと勝手な解釈をしていた。二度とこのようなことが発生しないように体制を整える。』というような事を言っていました。私がびっくりしたのは『今度も、浅井の時と同じように工場長に全責任を押し付けてトカゲの尻尾切りすればいい。』と今川さんが畠山さんに最後に言っていた言葉です。これでパパが言っていた上司というのが誰だかわかりました。」両刑事はこの瑞穂の供述を聞き、親の仇を知ってしまった理由をなるほどと理解した。
瑞穂が盗み聞きしてしまった時、またもや足利製作所において、大きな問題が発生しようとしていたのだ。この時はまだ、ボヤだった。これがやがて大きな不祥事へと発展し、瑞穂の自首と時を同じくして、今度は畠山社長が社長の座を降りることになる。瑞穂がシクラメンで二人のひそひそ話を聞いてしまった後、それから半年以上たった今、足利製作所ではこの品質検査不正問題が拡大して大騒ぎになっている。今回は会社ぐるみの品質データ偽装だ。自動車部品のブレーキパッドの最終検査工程で検査を省略し出荷していた。このため部品に強度不足の恐れがあった。原因は社内で慢性的に人員不足があり、検査業務に人員を割くことができずにいた。検査には手間暇がかかるのだ。そこで検査していないのにしていたことにしていたのだ。
一旦は、先の二人のひそひそ話どおりにことが運んだ。社長の記者会見と同時に朝倉正景工場長と品質管理部長の鳥居数広の2人が責任を問われ降格処分となっていた。今川も畠山もうすうす過去から気づいていたが製造部門に指摘することなく、利益優先で見て見ぬふりをして見過ごしていたのだ。最高責任者である社長が責任をとることは当然のはずなのだが。この時期、他の自動車メーカー、N自動車、H自動車、S自動車でも完成車の出荷前の最終検査において検査の省略や書類の改ざんが行われていたという不祥事が発覚していた。おかげで、部品メーカーの足利はOne of themでかたづけられ、この時、畠山社長が責任をとることはなかった。
話をもとに戻して、瑞穂の供述に戻る。
「畠山さんと今川さんのひそひそ話が終わったようなので、私がひとりで二人の席に着きました。畠山さんは翌日、記者会見があるというので早々に店を出て行きました。畠山さんがいなくなり、今川さんと二人きりになったときに今川さんが話し掛けてきました。『ルミちゃんそろそろどうかね。おもしろい所をみつけた。一緒に行かないか?』とホテルに行くことをまた誘ってきました。前から行こう行こうと誘われていたのですが。」瑞穂は続けた。「私は『まあ、いやだわー、今川さんはどうやってそんな所、見つけるの?』と聞くと『私にはいろいろな知り合いがいて教えてくれるのさ。コロナでもずいぶん繁盛しているそうだよ。やっぱり男と女がやることはパンデミックでも変わらないな。』と自慢げに話をしていました。私はこの人は色々な女の人を誘ってはホテルに行っているんだと思いました。」
瑞穂が感情を押えながらも話し続けた。「その晩、仕事を終えて帰宅すると大好きなパパを死に追いやったのが今川さんだとわかり悲しくなりましたが、だんだん怒りが湧いてきました。パパはトカゲの尻尾のように会社から切られ、そのまま死を選んでしまった。それなのに張本人はその娘だと知らずにホテルに行こうと誘っている。悔しくて、悔しくて仕方ありませんでした。」と言って涙を流し続けた。「パパの会社のホームページに調査報告書というのが載っています。パパが失踪してからは何か手掛かりはないかと、上司とは誰かと思って、足利のホームページを見ていたのです。そこでこの調査報告書を見つけました。でも内容は、大きな損失はすべて、パパのせいというようなことが書いてあります。よって、たかって、パパひとりを悪者にしている会社が許せないと思いました。でもその時は、父は行方不明のままで何もできませんでした。」しばらく間があった。「シクラメンで私の前に現れた今川さんは絶対に許せない。パパが引き合わせたと思いました。またパパに似た伊達さんが会わせてくれたとも思いました。きっと運命だと思いました。こうなったら、彼の誘いに乗って仕返ししてやろうと考えるようになりました。」と段々感情を荒げて話し続けた。
更に続けた。「パパのラインには上司としか書かれていなかったのでそれが今川さんだとその日、初めてわかりました。『浅井の時と同じように』と言った今川の言葉が私の心を大きく揺さぶりました。この人がパパを死に追いやったんだ。パパはもう死んでいると思う。今川さんによって殺されたのだと。」「それで以前から誘われていたラブホに行くことに同意した振りをして彼をおとしめて、社会的制裁を受けさせてやろうと思いました。だから初めは、殺す気はありませんでした。そこで睡眠薬を用意しました。ホテルに行って睡眠薬で眠らせて彼の写真をとって、[ラブホで眠るセクハラ役員]とでも題してSNSに流して、彼に大恥をかかすくらいを考えていたのです。」
斎藤が瑞穂の心情に納得しうなずいて尋ねた。「殺す気がなかったのがどうして殺してしまったのですか?」斎藤から聞かれ、殺害動機となる話をし始めた。「それはホテルに行く前に食事をしていて、そこでまた、今川さんがその時、会社で問題になりかけていたあの話をしゃべり始めたからです。」「あの話ですか。それを聞かせてもらう前に、食事はどこでしましたか?」とずっと、警察にとって、わからずじまいになっていたフランス料理店について織田が尋ねた。「美味しいフランス料理のお店があるからそこに連れて行ってと私から今川さんを誘いました。そのあとホテル探検に行ってもいいわと。私がお店の予約をするからそこに来てくださいと言って待ち合わせ場所を決めました。錦3丁目の『モンマルトル』というフランス料理のお店です。」斎藤がモンマルトルと聞いて、確か捜査員が訪れているお店なのに、なぜ見逃してしまったのかと疑問に思った。織田もお店のことは後でもう一度、確認しようとその時思った。「お店がどこかは分かりました。それでは食事中に今川さんから聞いたあの話とはどんな話ですか?」と織田が聞き直した。「今、問題になっている足利製作所の品質不正問題です。その頃も、新聞で取り上げ始めていました。私が『畠山社長さんの方は大変ですね、記者会見までして。と言って、でも記事では工場長さんの責任にされていて気の毒だわ。』と言うと、今川さんは『会社というものはそういうものだ。組織を守るためなら多少の犠牲は仕方がない。トカゲの尻尾さ。誰かが生贄とならないとマスコミは納得しない。スケープゴートさ。』と言ったので、私はパパのことも何か話すかもしれないと思い、続けて聞いたのです。『前にも今川専務の担当するところで大きな事件があったと聞きましたが。』とそれとなくパパの事件を尋ねたのです。すると『誰だよ。そんな古い話をルミちゃんにしたのは?』と言うので、私が『結構な損失があって株主総会も延期になったとお聞きしました。今川専務は今でもこうして専務のまま健在で、責任を問われなくて済んでよかったですね。』と皮肉を交えて言ったら、『自分もあの時は一生で一番のピンチだった。でもひとり責任をとってくれる適任者がいてよかったよ。まあこれがサラリーマン社会の世渡りだよ。』と自慢げに言いました。私が『それでその人どうなったの?』と聞いたら、『さあ。行方不明になっているらしいよ。どこに居るのやら。』と言ったので、私は気付かれないように『まあ。怖い。私サラリーマンでなくてよかったわ。』と取り繕いました。」瑞穂は食事をしながらのモンマルトルでの今川とのやり取りを一言一言、鮮明に覚えていた。これを二人の刑事の前で話すにつれてまたもや興奮して泣き出しそうになっていた。「私は事実を知り、怒りの感情を抑えるのがやっとの状態でした。食事をするまでは殺す気はありませんでした。パパの死の真相が今川から語られ、食事が終わる頃には、これから行くホテルで決行しようと決意が固まっていました。でもどうやって殺そうかと迷いました。睡眠薬しか持っていなかったので。」「パパのことだけでも殺そうと思いました。そのうえ今の品質問題でも『トカゲの尻尾』と言われ、憎しみが増してきました。こんな人を生かしていたらパパと同じような犠牲者が何人もでると。どうやって殺そうかとこの後、ずっと考えていました。タクシーの中でもホテルについても。結局、首を絞めて殺したのは彼がネクタイをしたまま睡眠薬で眠りこけたからです。」と殺害を話した。瑞穂はこの時になると感情をコントロールでき、殺人に変わった心境と殺害方法まで正確に話した。二人の刑事は瑞穂の心の葛藤がよく理解できた。仇に関係を迫られ仕返ししようとした気持ちも、それに加えて、とうとう殺害してしまった思いも。
瑞穂の自供から当日二人が行ったフレンチレストランがわかった。モンマルトルは県警の聞き込みグループが一度、情報収集に訪れていた店だった。瑞穂の証言から再度、事情を聞きに行き、そこで謎が解けた。飲食店のほとんどは、コロナ禍で緊急事態宣言が出ているので、休業しているか、酒類の提供禁止となっていたので酒を提供しないランチまたはテイクアウト営業だった。ところがモンマルトルは緊急事態宣言下でも、酒類を提供して違法営業を行っていたのだ。表向きは休業し、休業補償として持続化給付金を県に申請し受け取っていた。隠れて営業していた上に給付金までもらっていたので警察官が訪れても、休業していたと嘘を言っていたのだ。
斎藤がもう一つ疑問に思っていた点を明らかにしようと話題を変えた。斎藤は彼女の当日の格好が気になっていたのだ。「食事をした後に行ったホテルですが、今川さんが決めたのですか?」「そうです。わたしは今川さんの誘うまま、タクシーに乗って付いていっただけです。その時はどうして殺そうかと頭がいっぱいになっていました。殺すことまで事前に計画していなかったので。」と言って続けた。「もちろんラブホテルなど行ったことはありません。モンマルトルを出て、近くで今川さんがタクシーを拾いました。」「タクシー内では、マスクの他に帽子とサングラスまでされていましたがどうしてですか?」と斎藤が頭に刻んだドライブレコーダーの映像を思い出しながら尋ねた。「元々、ホテルに行くところまでは覚悟していましたから。運転手さんに見られる恥ずかしさがありました。SNSで恥をかかせようと思っていたので顔は誰にも見られない方がいいと思っていました。店を出るとき帽子もサングラスも着けました。」「ホテルに着いたあと、どうやって今川さんを殺しましたか?」と今度は織田が殺害方法を聞く。殺害方法は犯人しか知らない重要情報なので改めて確認しようと思い聞いたのだ。「部屋に入ると今川さんは私に飛び掛かってきました。私が振り払って、シャワーを浴びたい、その前に喉が渇いたのでビールでも飲もうと言ってビールを勧めました。彼がトイレに行っているすきを見て、冷蔵庫からビールを出して、グラスに入れ、持っていった睡眠薬も入れました。」「睡眠薬は即効性のあるものです。インターネットで購入しました。コップ一杯のビールを飲むとすぐに眠くなったと言ってソファーで眠ってしまいました。」「そこで私はスマホで寝ている今川さんの写真をとりました。ホテル・ムーンライトのロゴ入りでいかにもいやらしい雰囲気のパンフも一緒に映るようにして。写真は私の携帯に保存してあります。結局、それを使うことはなかったのですが。」
「そのあとはどうしましたか?」と斎藤が聞いた。「手袋をして、彼のネクタイをそっとはずして、もう一度、首に巻いて締めました。」「抵抗しませんでしたか?」「薬が効いていたのでたいした抵抗もなく締めました。」「息がしなくなり、死んだと思ったので締めるのを止めました。その後、ビール缶、グラス、ドアーのぶ等、私が触ったところは拭きとって、忘れ物がないようにしてホテルを出ました。」
「ホテルを出たあとはどのように逃げましたか?」と斎藤が聞いた。「行きのタクシーの中から電車が見えたので、近くに駅があると思いました。線路沿いの道を見つけたので、歩いて駅へ行き、そこで電車に乗って自宅に帰りました。駅はJR共和駅です。」「その間、誰かに見られませんでしたか?」「何人か通行人とはすれちがいました。夜なので皆、急いでいるようで私に気を払う人はいなかったと思います。」「駅や電車でもマスクしてサングラスに帽子ですか?」と斎藤が尋ねる。「その姿だと、余計に怪しいので、帽子は丸めてコートの中にしまって、サングラスも外しコートのポケットに入れていました。電車の乗客は皆マスクしていたので、私もしていました。ホテルを出たあとすぐに、コートがリバーシブルだったので念のため裏返しにして着直しました。」瑞穂の話を聞いて斎藤が納得した。近隣の防犯カメラになぜ、ベージュ色のコートを着た女性が映っていなかったかを理解できた。「コートの裏側は何色ですか?ベージュですか?」「いいえ、表はベージュですが、裏は黒です。黒にして着ていました。」斎藤が服装についてまた聞いた。「当日着用していた帽子とサングラス、それにリバーシブルのコートはどこで入手しましたか?」「帽子とサングラスはいつも使っているアマゾンで事前に買いました。ホテルに行かなければならないので恥ずかしく、途中で誰にも見られたくなかったのです。帽子はディープ・ハットというもので、できるだけ顔が隠れて見えないものを選びました。つばが広くて大きいのですがコンパクトに携帯もできるものです。サングラスはマスクをするので曇らないものがいいと思い、曇り止めの偏光レンズのものです。ノーブランドで安いものです。コートは古いもので元々持っていたものです。昔、パパに買ってもらったものです。今でも家にとってあります。」大好きな父親に買ってもらったコートだけは処分できずに自宅に持っていることを斎藤は納得した。「ところで帽子とマスクはどうされましたか?」「先程申し上げましたように、帽子、サングラスではかえって怪しいと思われるので、帽子は丸めて、サングラスも外してコートのポケットにしまいました。その後、自宅に帰って翌日廃棄しました。今はありません。」織田が確認のため聞いた。「フランス料理のお店の中では、サングラスと帽子はどうしていましたか?コートは当然、脱がれたと思いますが。」「おっしゃる通りです。食事中に帽子かぶって、サングラスはおかしいので両方とも外して、コートのポケットにしまっていました。コートは入店のとき、預けてお店を出る時に着用しました。」これを聞いて、織田は食事中、彼女はずっと素顔を晒していた、だから店員は確実に彼女の姿を見ていたのだ。お店が虚偽の証言をしなかったら、もっと早く見つかって事件は早期解決できたと思った。
前述のとおり、モンマルトルの違法操業が瑞穂の証言で発覚し、お店に対する強制捜査が行われた。休業していると偽って、実は営業し、協力金を1日当たり10万円受け取っていたのだ。
一通りの供述を終え、今度は、瑞穂の方が、前から思っていた疑問を二人に投げかけた。「私の方から伺ってもいいですか?」「何でしょうか?」「私が犯人というのはどうして分かったのでしょうか?今川さんと行ったレストランからですか?」「いいえ。」と斎藤がはっきりと否定した。犯行後、瑞穂にはただ1点、警察に見つかるかもしれないという不安があった。それだから何れ近いうちに逮捕されると覚悟したのだ。それは、直前にモンマルトルで今川と食事をしたことだ。モンマルトルに入ると入り口でコート、帽子をクロークに預け、マスクもサングラスも外し素顔のまま今川とテーブルを囲んでいたのだ。すべて店員に見られている。だから、警察がモンマルトルを見つければ今川と一緒にいた自分にすぐに辿り着くと思っていたのだ。
瑞穂は斎藤からそのことを否定され、それでは他に何故なのと思い返したがどうしても思い当たらない。「レストランでなければ、このネックレスからわかったのでしょうか?初めて刑事さんに会った時にネックレスのことをいろいろと聞かれたものですから。ネックレスがきっかけですか?ネックレスを誰かが見ていたのでしょうか?」と斎藤に聞き返した。「タクシー運転手が胸に白く光るものを見ています。ただ、不鮮明で多分ネックレスであろうとしかわかっていませんでした。」と自供を終えていたので斎藤が事実を話した。その時、瑞穂はレストランでもネックレスでもない、従って警察は今でも何も分かっていなかったのだという捜査の実態を悟った。自首したのは間違いだったのかと一瞬落胆した様子を見せたが素直に「そうですか。」と答えた。
「最後に何かいいたいことはありますか?」と斎藤に聞かれ、瑞穂は「パパの失踪の原因はラインをもらっていたので分かっていました。探さないでと言っていたのでそのとおり探さず、失踪届も出しませんでした。パパの哀れな姿を見たくなかったし、信じたくもなかったから。富士山はパパも私も大好きです。樹海で発見されたと聞き、パパは昔家族で行った富士山のふもとでひっそり眠りたいと思って樹海に行ったのだと思いました。」と涙を流し続けてパパの思い出を語った。「前は見つからなければよかったのにと思っていました。パパの遺体が見つからなければ警察も私に辿り着けなかったと思います。でも見つかったということはパパが名誉を晴らしたいから出てきたのだと思い直しました。今はパパの汚名を晴らすことができて何も言うことはありません。ありがとうございました。」と涙を拭いて、晴々とした表情に戻った。胸にはネックレスが白く輝いていた。
こうして瑞穂の供述を終えて、捜査上不明であった点が全て明らかになり、織田、斎藤の両刑事も心が晴れた。そして今度は斎藤が自分のパパについて大いに語り始めた。「右近さん、私もパパとラインしているから瑞穂さんの気持ちがよくわかる。私のパパは、斎藤道三郎といってお隣の岐阜県警で刑事をしています。凶悪犯を何人も捕まえて、県警本部長賞を何度もらっています。部下にも厳しいので皆からマムシの斎藤刑事とも言われているらしい。でも私にとっては、小さいころから自慢のパパ。怖いけれど優しい尊敬するパパ。私はパパに憧れて刑事になったの。」「そうだ、蝶々さんのお父さんも刑事だったね。父親と娘は結構、うまくいくんだね。僕にも3歳の一人娘がいるから、将来もうまくやっていきたいよ。これが娘だ。」と言って、織田が携帯に保存している写真を斎藤に見せる。「まあ、可愛い。右近さんに似ている。右近さんもいいパパになるわ。きっと。」とまじまじと写真を見ながら続ける。「パパはもうすぐ定年なの。『警察官は危険だから早くやめろ。』とか、『早く、いい人連れて岐阜に帰って来い。』とかよく言うわ。そのくせ、『感染しないように気を付けて仕事しているか。』とも言うんです。支離滅裂でしょう?でも心の底から私のことを思っていることがよくわかる。だから、私は瑞穂さんと彼女のパパのこともよくわかるの。」と言って締めくくった。




