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葛藤

26.葛藤


一方、瑞穂の方は、自宅に帰っても警察の取調べを受けたことで動揺していた。初めての体験だから仕方がない。いろいろな事が思い浮かんだ。一番心配になったのは、女刑事さんにとうとう見つかってしまったと思った。大高署でも、今日の取調べでも、女刑事に盛んにネックレスのことを聞かれた。パパからもらった形見のネックレスを着けて行ったのは失敗だったかもしれない。でもパパの遺体確認に行くのでパパの思い出としてどうしても着けていきたかった。前からパパはもう死んでいると覚悟はしていたが。

今川さんを殺すとき、きっと誰かにネックレスを見られていたのだ。ホテルでは誰にも会っていないのでホテル従業員ではないと思う。モンマルトルでの食事の時に店員に顔を見られている。それかもしれない。食事の時は今川と一緒にいたことをお店の人に全て見られている、警察が二人で行ったモンマルトルを見つけ出していればもうおしまいだ。でも今日はレストランのことは何も聞かれなかった。まだ、警察は知らないのだ。お店でなければタクシー運転手だ。マスクしてサングラスもかけ、帽子もかぶっていたので顔は見られていないと思うけど。

パパの仇討のためだったのでわざわざネックレスを着けて出かけたことが、どこか分からないが誰かに見られていて皮肉にもそれを女刑事に気付かれてしまったのか。どうしよう。これは、パパがもう逃げるのを諦めて自首することを勧めているのかもしれない。などと一晩中考えて眠れなかった。

翌日も、瑞穂は考え悩み続けていた。斎藤刑事の直感が瑞穂を追い詰めていったのだ。このまま、逃げられるか、いずれは警察に逮捕されるのかと。捕まるくらいなら自分を犠牲にしてもパパの名誉を回復できないか。このまま汚名を着せられたままではパパが可哀そう。瑞穂は仇打ちを成し遂げたのだが達成感が無くなっていた。仇討によって憎い今川に一定の汚名を着せることはできたのだが。

先日、パパを供養しママのいる墓に葬った。富士山の見える丘ではないがやはりママと一緒にさせてあげたほうがいいと思ったから。私はもう一人ぼっち。果たしてパパの人生は幸せで満足のいくものだったのか?パパの名誉が回復されないまま、私はこのまま、ピアノの先生で平穏に暮らすことができるのか。自分を犠牲にしてでもパパの汚名を晴らすべきではないかと。

瑞穂はママのことも思い出した。瑞穂の母、浅井加代子あざい・かよこは3年前に癌でなくなった。瑞穂が4年前に両親の家を出て名古屋で一人暮らしを始めた後だ。娘と父は仲の良い親子であったが、娘が家を出ていったのは亡くなった母が原因だった。母との不仲は瑞穂が大学を選択する頃から顕著になった。母は自分と違う価値観を認めようとしなかった。何かと娘に干渉してきた。瑞穂は自分が母にコントロールされていることがどうしようもなく嫌になった。進学の他、日常ささいな事でも監視され細かいことを口にされた。あなたのことを思って言っていると言いながら娘を束縛するのだ。反抗期は中学生の頃から始まりこの頃から既に母の束縛を感じるようになった。これが成人しても埋まらないまま、関係はますます悪化した。パパが大好きだからママに嫉妬されているとも思った。こうして悩みや心配事はパパだけに相談してきた。取り調べを受けた今、パパに相談すれば何と言うだろうか?

瑞穂にもっとしたたかさがあれば、警察の事情聴取で今日のように否認し続けて、逮捕を免れることができたかもしれない。しかし、父親ゆずりの優しさが逮捕につながるのである。


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