敗北
25.敗北
瑞穂を帰らせて、両刑事はそれぞれの印象を話し合った。
「蝶々さん、全面否認だったね。こちらの負けかもしれないな。」と織田が残念がって言う。「でも収穫はあったわ。彼女はまたもや嘘をついていた。気付きました?」「気付いたよ。シクラメンに勤め始めた時期だろう。コロナで職を失ったように言っていたが彼女がシクラメンに来たのはコロナになる前で世の中がまだ平穏なときだ。それに雅子ママは、伊達さんから瑞穂がパパがいなくなって落ち込んでいると聞いている。だから、瑞穂は父親の失踪を知っていたということだ。更に、今川氏が足利の専務であることは、シクラメンの美帆さんが彼女に話したと証言している。知らないというのは真っ赤なウソだ。」「右近さん、その点もそうね。犯人でなければ嘘をつく必要がない、彼女ますます怪しくなってきたわ。やはり真犯人だと思います。」「仲良しの親子ならメールのやりとりをしていて、父親の失踪の原因がアシカガ・ファイナンスで起きた損失事件であり、それで父親が責任を負わされたことを父から直接聞いて知っていたと容易に想像はつく。」「右近さん、本日、彼女は今川氏がシクラメンの客であり顔見知りであったことは認めました。いろいろ矛盾することを言っていました。でもそれだけでは彼女がムーンライトに行って今川氏を殺したという決定的な証拠にはならない。別の目撃情報など証人や物証がでてくればいいのだが、ネックレスを見てひらめいたという私の感だけで逮捕は難しいわ。」 「それに、村井課長から言われたとおり、今日はドライブレコーダーのことは彼女に話さなかったがそれでよかったと思う。」「そうね。映像を見せてもきっと、私じゃないと否定されるだけだわ。」




