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事情聴取

24.事情聴取


事情聴取に先立ち、村井課長から二人に追加の指示が出されていた。「警察にとって唯一の切り札のドラレコ映像は使うな。こちらの手の内が分かってしまう。」浅井瑞穂が県警に呼び出され、任意の事情聴取が始まった。

「この人を知っていますか?」と斎藤が今川の写真を瑞穂に見せた。「知っています。勤めているシクラメンのお客さんです。」と取調べ室の椅子に姿勢よく座った瑞穂が答えた。「そうですか。名前は知っていますか?」「さあ、なんていう名前でしたか。聞いたと思いますが思い出せません。」ととぼけて知らないふりを装う瑞穂だった。斎藤が言う。「今川殿和さんといいます。」「そうでした今川さんでした。」と今思い出したように言った。「今川さんもあなたのお父さんが勤めていた足利製作所へ勤めていたのですが知っていましたか?」「今初めて聞きました。お客様がどこの会社に勤めているかは興味ありません。時々自分から名刺を出すお客様もいますが今川さんからはもらっていません。」と瑞穂は慎重に言葉を選び答えた。斎藤は瑞穂が嘘と言っていると知っていて尋ねた。「それでは今川さんとお店以外で会ったりしたことはありませんか?」「ありません。ただのお店のお客様です。」と瑞穂が言うと斎藤が話題を変えて質問した。「あなたがシクラメンで働くことになったのはどうしてですか?」「シクラメンのママの北条雅子さんのご主人が先に亡くなった俳優の伊達政人さんです。ご存知ですか。」「はい。有名人ですから伊達政人さんは存じています。」「私は伊達政人さんの大ファンでした。伊達さんに私がコロナで職を失い困っている。どこかで働くところはないかとメールでお願いしたところ、彼からシクラメンを紹介してもらいました。」「そうでしたか。あの有名な伊達さんの紹介ですか。有名な映画俳優さんがそんなに簡単に紹介してくれるんですね。」と斎藤が少し皮肉っぽく言った。斎藤も織田もコロナ禍であればシクラメンも休業していて、シクラメンでの勤務を紹介するのはおかしいとすぐに気付いた。時期がおかしいのだ。雅子ママから、伊達がシクラメンを紹介したのはコロナ前だと聞いていた。ママの証言と食い違い、更に疑惑を増した。「有名俳優さんがよく紹介してくれましたね。」と斎藤が続けると「伊達さんのファンクラブに入会していたものですから。ファンクラブへはインターネットで入会登録し、年会費1万円を払うだけです。会員から伊達さんあてにメールを出せます。」と瑞穂はすらすらと答えた。「シクラメンに勤めるようになった経緯はよくわかりました。ところで桶狭間にあるムーンライトというホテルはご存知ないですか?」と斎藤が核心をついた質問をした。「全く知りません。殺人事件のあったホテルですか?」と知らないふりをして聞き返した。「そうです。そのホテルで今川さんが今年の3月10日の夜、殺されたのです。」「テレビや新聞でニュースを見て、桶狭間で殺人事件があったことは知っています。でもどこのホテルかまでは知りませし、また、殺されたのがシクラメンに来ていたお客様の今川さんだとは知りませんでした。警察は私が今川さんを殺したと疑っているのですか?」と瑞穂がむきになって言った。「では今年の3月10日の晩はどこで何をされていましたか?」と斎藤が聞く。「アリバイですか?もう半年以上も前のことで何も覚えていません。その頃は、コロナで大変な頃ですよね。シクラメンもお休みでしたし、多分、ピアノ教室が終わった後は家にいました。ひとり暮らしで証明できませんが。途中どこかで買い物くらいはしたかもしれません。」と答えた。

瑞穂はこうして全部を否定した。今川のことはシクラメンの客であることは知っていたが名前は知らない。勤務先も知らない。桶狭間のホテルも知らない。犯行日のアリバイも分からないと。

斎藤がもう一つの切り札を使った。「お父が亡くなったことはご愁傷様です。今日は着けていらっしゃらないですが、お父様のことで大高署でお会いしたとき白いネックレスをしていらっしゃいました。お父様のプレゼントだと伺いました。」とネックレスと父親の話を持ち出すと瑞穂の顔色が少し変わったように思えた。斎藤が続けて「浅井さんは大変お父さん思いなんですね。お父様があのようになってしまった理由は何だと思いますか?」と話題を変えて聞いた。「父がなぜ行方をくらましたのかはよくわかりません。別居していましたし、もう最近では連絡もとっていませんでしたから。警察から連絡を聞いて初めて知りました。まさか、富士の樹海で自殺していたなんて。」と前と同じ答えをした。「富士山は子供の頃、よく夏休みに家族で出かけていました。父は富士山が大好きだったから富士山の近くで眠りたかったのだと思います。」と続けた。「失踪された原因について、お父様から何か聞いていませんか?会社のことでも何でもいいのですが?」と聞くと「何も聞いていません。最近は連絡とっていなかったので。」と用心深く同じ答えをした。「警察には感謝しています。父を見つけてくださって。先日、父の供養も行い、母と同じお墓に入れました。二人とも一緒になって喜んでいると思います。ありがとうございました。」と儀礼でお礼を述べ帰っていった。


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