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捜査本部

2.捜査本部


殺人事件という凶悪犯罪の発生により、愛知県警本部に「桶狭間ホテル殺人事件」捜査本部が開設された。捜査1課長直轄の捜査となった。すぐに第1回目の捜査会議行われた。席に着いた村井貞二むらい・ていじ捜査1課長から「被害者の身元は?」と言われ斎藤刑事が答えた。「被害者は、持っていた名刺から、株式会社足利製作所専務取締役、今川殿和いまがわ・とのかず65才であると判明しています。」「今、奥様に連絡がつきこちらに向かってもらっています。」と付け加えた。村井が「そうだな、到着しだい遺体の身元確認してもらうように。」と指示をした。「次に殺害方法と犯行時間は?」と聞くと織田刑事が答えた。「犯行時間は昨夜20時30分頃にチェックインしてその後まもなくと思われます。スーツ姿のままという着衣の状況からみてホテルに到着してすぐの時間と思われます。詳しくは司法解剖を待ってということになります。」村井が「当日の被害者の足取りはどうか?」「どうやってムーンライトに来たのか?」と立て続けに聞くと、織田が答えた。「その辺はこれからです。ホテルの駐車場に自家用車など該当車両が残っていないのでタクシーか何かで来たのではないかと思われます。」村井が「次に連れの女は誰か?何か特徴はあるのか?」と聞く。「誰も顔を見た者はいません。ラブホテルなので、極力、顔を合わせないようなつくりになっています。昨日の売上金をすべて提出してもらっています。これから鑑識で指紋照合しますので何かわかるかもしれません。」と織田が答えた。更に、村井が「防犯カメラはどうだ。何か写っているか?」と言う。「防犯カメラは地下駐車場に1つあるだけです。映像のデータを回収してきましたので、こちらもこれから鑑識で何か写っているかチェックします。」と織田が答えた。また村井が「女の特徴は分からないと言うことだが、逃走経路はどうだ?」と聞く。「今のところ全く不明です。徒歩で逃げたか、タクシーを拾ったかだと思われます。これもこれからタクシー会社をあたっています。」「殺害の動機は?何かわかったか?お金目当てか?それならの眠らせるだけで十分だが。それとも、お金の支払い上のトラブルか?二人の関係はどうだ?顔見知りか?それとも知り合ったばかりの女か?」村井から立て続けに質問されて誰も答えられずにいる。答えがないので、村井が「現場の状況はどうか?衣服の乱れは?被害者の財布は残っているか?凶器と死因は分かったのか?」と尋ねる。「お金は残っていました。現金約10万円とクレジットカードが数枚。お金は一部ぬかれたかどうかよくわかりません。10万も残っていたことから金銭目当てではないかもしれません。」「死因は被害者自身のネクタイで絞められたのではないかと推定しています。詳しくは解剖結果を見ましょう。」と各捜査員が報告した。


同日夕刻から県警の指定大学の法医学教室で司法解剖が行われ、結果が出た。それで直ぐ第2回目の捜査会議が行われた。解剖結果によると、死亡推定時間は3月10日の21:30-23:30の間であり、死因は絞殺による窒息死と断定された。凶器は被害者のネクタイで現場に被害者の首にからまったままになっていた。血中から睡眠薬の成分が検出されたことで、被害者は眠らされて抵抗できない状態で、ネクタイで首を絞められたと推察してよいとの解剖所見だった。

「今朝の会議ででたムーンライトの昨晩の売上金を鑑識に調査してもらいました。結果、被害者の指紋の付いた1万円札1枚が見つかりました。被害者が現金で支払ったので残念ながら売上金の中に犯人の指紋ないと思われます。」と織田が鑑識結果を説明した。「駐車場の防犯カメラについての分析結果ですが、カメラの映像には被害者らは映っていないので車での来場ではないと思われます。また、駐車場には不審車両は残っていません。」と齊藤が追加説明した。織田がこの数時間で調べた結果の説明を続けた。「女の逃走経路ですが、タクシー会社をあたっていますが、今のところ女を乗せたというタクシー見つかっていません。ホテルから徒歩7分位のところに名古屋市営バスの『桶狭間古戦場公園』や『桶狭間小学校前』というバス停があります。ただ市バスの利用は、夜9時以降は極端に便が少なく、最終便が名鉄有松駅行き10時30分ですからバスを利用したとは思えません。引き続き市バスの運転手を含め、周辺の目撃情報にあたります。もう一つの可能性は、ホテルから南へ徒歩15分のところにJR東海道線の共和駅があり、ここまで徒歩で行き、電車を使って逃走したことも考えられます。こちらは本数が多く、逃走に使った可能性は十分にあると思われます。この駅は、乗降客が多く、夜9時、10時でも人はかなり多いです。ただ、今はコロナの最中で電車に乗る場合は必ずマスクが必要ですから、マスクをしている人がほとんどだったはずです。マスク姿でも印象は残らないようです。」続いて齊藤から報告があった。「二人は行きにムーンライトまで何で来たのかという点ですが、自家用車ではないので、タクシーではないかと思われます。引き続き名古屋市内を含めて周辺のタクシー会社をあたってみます。」「被害者はムーンライトへは初めて来たのか?それとも常連客か?前にも使ったことがあったのか?それとも女の方が知っていたのか?」と村井が鋭く聞いた。「その点は重要なことと思います。今の所わかりません。」と織田が答えた。


翌日、織田右近、斎藤蝶々両刑事が被害者今川殿和氏の自宅屋敷へ向かい、唯一の家族である妻の今川佳子いまがわ・けいこへ事情聴取がされることになった。昨日は佳子に遺体の身元確認に来てもらったのだが、夫が亡くなった、しかもラブホテルでということで大変、動揺していて追加の事情を聞けない状態だった。そこであらためて、両刑事が今川の自宅を訪問したのだ。そこは名古屋市郊外の住宅地、桶狭間からもさほど遠くないところにあった。

両刑事が玄関前の門前に着く。「蝶々さん、夫婦二人暮らしにしてはずいぶん立派で大きなお屋敷だね。」と織田がつぶやいた。「それは名古屋を代表する名門企業の専務さんのお宅ですもの。」と斎藤が答えた。佳子に予め伝えてあった時刻きっかりに到着し、二人はチャイムをならして中に入って行った。

斎藤が佳子に気遣って最初に言った。「ご主人を亡くされご愁傷様です。昨日の今日でご心情はお察ししますが捜査にご協力ください。先ずは、ご主人の一昨日、3月10日の様子からお聞きしたいのですが?」と尋ねた。佳子夫人が「一昨日は、テレワークということで朝から家におりました。いつものように書斎でパソコンを使って仕事をしていたと思います。そして午後3時頃になって、急用ができたと言って会社に出かけました。夕食はいらないと言ったので誰かと外食の用ができたのだと思いました。」と答えた。「最近はテレワークが多いのですか?」と斎藤が聞く。「そうですね。半分くらいはテレワークでした。」「急にでかけたということですがよくあることですか?」と聞く。「いいえ、普通は終日テレワークか、または終日出勤で朝から夕方まで会社です。午後からでかけるということはありませんでした。」と夫の最後の様子を思い出しながら、佳子は答えた。「会社まではどのように行かれるのですか?」と聞くと「会社の車です。役員には会社から貸与された専用車があります。飲み会の日以外はそれに乗って出かけていました。昨日も車に乗って出て行きました。」と佳子が答えた。続けて「食事するのに車ででかけるとは少し変だと思いました。でも会社に車をおいて、それから飲みに行くこともありましたから、一昨日もそうだと思いました。」「誰と食事すると言っていましたか?」と聞くと「何も聞いていません。ただ、夕食はいらないとだけでした。」と答えて、佳子は誰と会食だったのか聞いておけばよかったと後悔した。

今度は織田が気まずそうに話題を変えて尋ねた。「ところで、お答えにくいかもしれませんが、ご主人はホテルに行くことなどありましたか?」「全く、知りません。場所が場所だけにただびっくりしています。」と佳子はうろたえて答えた。斎藤が「これもまたお答えにくいでしょうが、ご主人には誰か付き合っている女性などありましたか?」と今度はズバリ聞いた。「そちらの方はよくわかりませんが主人はよくもてた方だと思います。飲んで帰ってくるとタバコの臭いやら、香水のにおいやらすることがよくありました。主人はタバコをすわないのですが。」「最後にご主人は誰かに恨まれるようなことはありましたか?あるいは最近何か変わったことはありませんでしたか。」と聞かれ「心当たりはありません。また変わったこともありません。」と佳子は答えた。

佳子にお礼を言って、織田と斎藤は今川邸を出た。その足で、被害者の勤務先、足利製作所に向かった。今川の自宅から足利本社はそう遠くない。車で20分位のところでにあった。

両刑事が足利製作所本社に到着後、受付で、「今川専務の車が会社駐車場にあると聞いて確認に来ました。」と言う。総務部員の森成利もり・しげとしが出てきてこれに立ち会った。「役員の駐車場はこちらです。今川専務の車はこちらにあります。」と森が示すと織田が尋ねた。「いつから止まっていましたか?」「さあ、わかりません。守衛が時々見回るので確認します。」「車の中を見せていただいてもよろしいですか?」と織田が森に言う。「少しお待ちください。キーは専務がお持ちのままと思います。スペアーキーを守衛室で保管していますので取ってきます。」と言って席を外した。数分後、守衛の警備員を伴って「キーをどうぞ。」と手渡すと警備員が説明した。「専務の車ですが、10日の夕方5時に見回ったときには駐車してありました。それ以降そのままだと思います。」織田が「後で、鑑識が来て調べさせてもらいますので車は触らないようにそのままにしておいてください。」と言うと森と警備員は「わかりました。」とうなずいた。続いて斎藤が「専務の車は社内の掃除はしていますか?特に消毒とかはどうですか?」と尋ねると森が「洗車は時々しています。車内は特にしていません。消毒液が備え付けてあるので専務が自分で使っていらっしゃったかどうかです。」と答えた。二人はコロナ禍なので毎日、車内も消毒液で拭いているのではないかと心配して聞いた。拭いていないと聞いて、指紋など何かでてくることを期待した。

結局判明したことは、今川は一昨日3月10日午後3時に自宅を出て、会社から貸与されていた自分の車、T社製レクシスαに乗り、会社まで来て車を停めた。そのあとは、彼を会社内で見かけたという情報がないので、会社に車を停めてここから交通機関ででかけたのだろう。その後、午後4時頃、社員が今川を最寄りの駅であるJR大府駅で見かけたとの目撃情報も得られた。名古屋方面のホームに立っていたということだから名古屋に向かったのではと思われる。被害者が持っているだろうという車のキーは被害者の上着のポケットから見つかっている。


両刑事は、せっかく足利本社に立ち寄ったので、次に、被害者今川専務担当の秘書の山口さやか(やまぐち・さやか)にも面会を求めた。彼女はこの日は出社だったのですぐに会うことができた。

二人は、2階にある秘書課の隣の応接室に通された。「立派な部屋ね。右近さん。これ誰の絵か知っていますか?」と斎藤が織田に話しかける。「いや、知らない。絵画は全くわからない。」と言う。「フランス、印象派のモネの睡蓮だと思うわ。もちろん、模写だと思うけれど。」と応接室に掛かった絵画について話しているうちに山口が「お待たせしました。」と言って入ってきた。「お忙しいところ、突然すいません。今、今川専務の車を見せていただきました。そこで担当秘書である山口さんにもいろいろとお話を伺いたいと思います。」と織田が切り出した。

斎藤が尋ねた。「まず、事件当日3月10日の今川専務の一日の行動を聞きたいのですが。」「専務はこの日はテレワークの日でした。それで、私も会社には来ていません。二人ともテレワークなので専務に直接会っていません。テレワークの日にはいつもしていることですが朝一番で、専務の当日のスケジュールを確認するため、秘書の私から1日のスケジュール表をメールでお送りします。この日もメールを送ったところ、専務からすぐに折り返し『了解しました。』との返信メールをもらっています。」山口は持参してきたノートパソコンにある今川からの返信メールを二人に見せた。山口は続けた。「専務のこの日のスケジュールは、前日の9日の夜遅くまで労働組合三役と飲み会であったので、午前中は予定を入れず空けていました。午後は1時から2時まで人事部との入社式の打合せがオンラインで入っていました。その後は予定がなく、どうされていたかは分かりません。私は専務が午後もずっと在宅されていると思っていました。」「1日の予定は分かりました。山口さんは専務のご担当と伺っていますが今川専務はどんな方でしたか?」と斎藤が聞く。「非常に仕事熱心な人でした。熱心な余り厳しく言うこともあったようです。私には秘書でもありそんなに厳しく言われたことはありませんが。逆に、気をつかってくれて少し遅くまで仕事しているとそろそろ帰りなさいとか言ってくださいました。」と秘書でもあり、亡くなった専務に気遣いしながら答えた。「専務が亡くなられてお仕事は変わりますか?」と斎藤が質問すると山口は寂しそうな表情になり、「そうですね。しばらくは専務の書類の整理をしなければいけないと思っています。その後は担当の変更があると思います。」と言った。「そうそう、書類の整理をされていて何か気になるものがでてきたら何でもご連絡ください。些細なものでもかまいません。」と斎藤が頼んだ。

織田が「午後1時から人事部とオンラインで打合せされていたということですから、出来ましたらその時の人事部の人にも確認とりたいのですが。」と頼んだ。山口が人事部に電話をし、しばらくして人事部長の大久保悟おおくぼ・さとしがやってきた。

織田が尋ねると大久保は、「確かにオンラインで今川専務と会議をしていました。4月1日に予定されている入社式をどうしようという打合せです。例年は本社の大講堂で、新入社員と役員が集まって歓迎の入社式を行うのですが。大人数での集まりは密ですから、今年も、昨年に続き実際の開催は断念して、オンラインでやることを含めて打合せしていました。結局2年続けてオンラインの入社式でいこうということになりました。」と答えた。斎藤が「専務の様子はどうでしたか?」と聞く。「いつもと変わらず、でした。『そんなことは君たちでしっかりと議論してから案を出しなさい。』とか言われ、最後には発言順序で叱られました。オンライン入社式ですから一人ひとり順番にしか発言できません。通常は社長からスタートするのでしょうが、奇抜に新入社員代表が一番初めに発言するという企画を出したのですが。気に入らなかったようです。いつものように怒鳴られました。」と大久保は答えた。「叱られることには皆、慣れているのでいつもと同じで、特に変わった様子はありませんでした。」と付け加えた。このことから両刑事は、人事部のオンライン会議終了までは在宅しており、今川に変わった様子がなかったことを確認した。

足利本社を後にした二人は署に戻る途中、斎藤が運転する織田に話しかけた。「右近さん、大久保人事部長の話から、今川氏は大変なパワハラだったようですね。彼ははっきり言わなかったが怒鳴ったり、叱られたりするのに慣れていると言っていたわ。専務はいつも部下にパワハラしていたと思うの。それも事件に関係しているかもしれない。」「そうだね。被害者は、よくいるパワハラ男だったのかもしれないね。警察にもいるが。」と誰かを想像しながら答えた。また斎藤が話し掛ける。「会社はテルワークできていいですね。通勤時の感染リスクや、職場が密にならないようにできるだけ出社する社員数を押さえるために、テレワークを推奨して在宅勤務をさせている。足利のような大企業は政府の要請にすぐに応えてテレワーク対応ができる。でも、私達、警察官は在宅勤務もテレワークもできないわ。新型コロナ感染症がどんなに流行していても警察官の仕事のやり方は前とほとんど変わらない。マスクと手洗いくらいしか対策がないわ。」と嘆いて言った。「そうだね。蝶々さん。警察官は事故現場や事件現場に急行して、不特定多数の人に会わなければ仕事にならない。相手が感染しているかどうかも分からない。それに容疑者を確保する時や、取調べの時は、ソーシャルディスタンスなんて絶対にとれない。犯人とは格闘して逮捕しなければならない時もある。密そのものだ。だから、警察官は感染リスクが高い。感染しないように常に気をつけないといけないね。ほーら、手の消毒をしなさい。」と車両に備え付けのアルコール消毒液を斎藤に手渡した。斎藤が手に消毒液をかけながら続けた。「パトカーの中も密だし、考えてみれば、署の取調べ室も、逃走防止のためにドアーも窓も閉めたままやっている。まさしく密室そのものだわ。警察は3密だらけね。県警の剣道場も昨年は1年間も閉鎖して使えなくなっていたわ。最近、換気装置を付けて、感染対策をして復活したので、また剣道始めました。しばらくやっていなかったので身体がなまってしまってあちこち痛い。」とまた嘆く。「確かに警察は大変リスクの高い職場だから、今後もいろいろと考えて、感染しないよう改善していかなければならないね。ところで近頃、犯罪の種類も変わっているらしい。」と織田がハンドルを握りながら、話題を変えた。「一つはテレワークが急に進んだことで、サイバー犯罪が増加しているらしい。警視庁からもサイバー犯罪についての通達が来ている。急に皆がリモートを使ってやりだしたので、いつもの堅固に守られたオフィス環境と違って脆弱な自宅パソコンのネットワーク環境になったんだ。それを狙ってハッカーなどの犯罪者が横行しているようだ。県警のサイバーセキュリー対策課の連中が言っていたよ。」「そうね。パソコン端末を電車の中に置き忘れたとか、自宅や自家用車に置いていたパソコンが盗まれたなんていう事件も増加していると聞くわ。」「パソコンをどこか、スタバのようなところでやっていて後ろから覗かれていたなんていう事件もある。気を付けないと会社の機密が盗まれるよ。」織田が更にコロナ禍の犯罪の変化について話す。「金融機関なんかでは、お金を扱っているので自宅で社員が何か不正操作をして横領なんかしていないかを監視するしくみを創ったそうだ。トレーダーとか投資銀行の話だけど、時々抜き打ちで突然、社員の家に個別訪問することもあるそうだ。」斎藤も関連した話を持ち出す。「先日、大手電器メーカーS社系列の生命保険会社で社員が逮捕された事件があったわ。何でも在宅勤務中に会社の米国にある銀行口座から正規の取引を装って数百億円を別の口座に送金して詐取していたそうです。幸いにも別の社員が多額の送金記録を見ておかしいと気付き、事件が発覚したという。」「だから在宅中の監視も必要だね。社員を信じていないことになるが犯罪抑止には仕方がないな。」と織田が言うと斎藤が思い出したように続けた。「犯罪は誰も見ていないとか、見られていないと分かるとついつい手を染める人が増えるというわ。警察官になったとき、犯罪学の新人教育で教わったわ。人間は弱い生き物。」織田が運転しながら更に続けた。「空き巣や窃盗も増えているが、手口が変化しているようだ。外食が減り、自宅にデリバリーサービスで食事をとることが増えているからそのふりをして空き巣に入りやすい家を探しているそうだ。また、宅配業者のふりをしてマスクして顔を見られないと思って犯罪の事前の下見をしている。行動が大胆になっているそうだ。」「右近さん、最近、町でよく見かけるウーバー・イーツのオートバイや自転車の格好をして?交通課からは彼らの危険運転で交通事故が多くなっているとも聞くわ。」しばらく間をおいて、更に、「右近さん、東京都なんかは、買い物に行くのも少人数でと知事が呼び掛けているから、子供を置いてお母さんが買い物にでかける。その間の子供だけの時間をねらった窃盗も増えているそうよ。留守番している子供が窃盗犯に出くわしたら大変だわ。でもそんなケースもあるみたい。」「想像するだけでぞっとするね。」と織田が言う。

段々、車が署に近づく。今度は斎藤が話題を変えた。「家庭でもDVが増えている。中でも配偶者によるドメステックバイオレンスが増えたとか。夫婦二人とも自宅にいる時間が増えるから、仲の良くなるカップルもあるけれど反対のカップルもいる。」そうこう話しているうちに車は県警本部に着いた。


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