表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の裏ストーリー  作者: 千葉 都
3/3

『茜色の空の下で』

――― ラボルト家 ―――


「……お父様……」

婚約を破棄されたなんて言い出せないわよね。

「どうした。顔色が悪いぞ」

「…だ、大丈夫です。それより少しよろしいですか」

意を決して卒業パーティーでの出来事をお話ししました。

「辛かったな。少し静かなところでゆっくりするがいい。王都では騒がしすぎるからな。領地の方で静養するといい」

「心配してくださってありがとうございます。でもそんなにゆっくりもしてられないじゃないですか。早く次を決めないと、家にも迷惑をかけるじゃないですか」

「リリアーヌ。お前が気に病むことではない。私の方でキチンとするからお前は待っていなさい」

「……は、はい、分かりました。ところでお父様、ウチと王家との間は……」

「向こう次第だな。そのままなら周りが許さんだろう。それが分かっていれば何らかの動きがあるはずだ。お前を傷つけた賠償はしっかり頂くがな」

「無理をしないでくださいね」

「お前のためだ。無理などではない」


そのまま私は領地へと連行されていきました。それも領地のお屋敷ではなく、湖畔の別荘へです。私一人ではなく、学院時代の学友のシェフィルとエリーナも一緒にです。大丈夫だったのでしょうか。私が淋しくないようにとの事でしょうし、二人とも私が何もしていない、冤罪だということを知っていますから。でも彼女たちの予定は……



――― ラボルト領、湖畔の別荘 ―――


「お嬢様、何かあればすぐに仰ってくださいね。シェフィル様もエリーナ様も遠慮なく仰ってください」

「ええ、少しの間だと思うけどヨロシクね。何かあれば呼ぶから、それまでは、ね」



女性が三人いるのですから静かな訳がありません。静養って一体何なのでしょうか。

話題の中心は専らギルバート王子とアルピーナ嬢について。二人はその話題を避けようとしてくれているんだけど、どうしてもそっちに。特にギルバート王子を愛していたわけではなかったし、アルピーナだってあれだからねぇ。


結局は彼女の言っていたストーリー通りになったわけで、彼女的にはハッピーエンドなのでしょう。私から婚約者だった王子を奪うことができて、二人は結ばれた。これから結ばれるのか?いやあれは既に結ばれてるね。とんでもない奴等だ。で私は王都を離れ、領地に戻ると。彼女の言ってたグッドエンドそのものね。

そういえば他のストーリーってどんなんだろう。第1王子だってイケメンだし、一度パーティーで見かけたけど隣国の王子だって超が付くほどのイケメンよね。どれかのストーリーでは絶対攻略対象だって。間違いないわね。


流石に1カ月もすれば飽きてきますよ。お茶ばっかしてる訳にも行きませんからね。そんなことし続けてたらお腹はタプンタプン、身体はプクプクになっちゃうって。だから湖までお散歩したり、絵を描いたり、音楽を楽しんだり、お話を作ったり、お料理をしたり。色々と楽しんだわ。


「お嬢様、ご主人様よりお手紙が届いています」

「そう、見せて」


色々片付いたから一度王都に来るようにとのことです。ようやくこの優雅(退屈)休暇(軟禁生活)が終わります。


「シェフィル、エリーナ、ゴメンね。色々付き合わせちゃって」

「リリアーヌ様、そんな。私とても楽しかったんです」

「私もですわ」

「学院を卒業したら田舎の領地に戻されて、花嫁修業という名の小間使いをさせられるところだったんです」

「えーっ、私もよ。ウチはひどいなって思ってたけど、ウチだけじゃなかったんだ」

「婚約者がいると言っても学院を卒業してすぐに結婚する人なんて殆どいませんし、仕事に就く人でなければ実家の手伝いなんて当たり前ですよ」

「でもこの後は実家の領地に帰るんでしょ」

「いいえ。これが無かったら帰されたけど、今はリリアーヌ様の側付きって事になったんで、リリアーヌ様のお側で花嫁修業をするんです」

「じゃぁ私が王都に行くときは一緒に行くの?」

「そうですよ」

「私がラボルト領に行ったら?」

「ラボルト領にあるウチの家に行きます」

「私もです」

「公爵家より力のあるラボルト侯爵家ですから。多くの貴族、特に男爵家や子爵家はラボルト領に家を持ってますわよ。侯爵家とのつながりが欲しいですから。うちもそうなんですけどね」

「そ、そうなんだね。初めて知ったよ」

「リリアーヌ様のおかげでラボルト侯爵家とのつながりができたってうちの父は大喜びでしたわ」

「と、とりあえず王都へ行きましょうか」



――― 王都ラボルト邸 ―――


「お父様、只今戻りました」

「おお、リリアーヌ。ゆっくりできたか。少しは癒えたか」

「おかげさまで。シェフィルとエリーナもいてくれたからね」

「そうか。二人には感謝しないとな。ところで王家との間で話がついたぞ」

「そうですか」

「気にならないのか?」

「気にならない、ことはないですけど……。お父様がガッツリやったのでしょう」

「そんなことはないぞ。私は陛下の話を聞いただけだ」

「陛下と直接?」

「あぁ。陛下がここへ来てな、平謝りだよ」

「……」

「ギルバート王子はな、なんとかって言う子爵の所に婿に出されることになった。もちろん王位の継承権はない。結婚も向こうでするらしい。一旦別の貴族の養子になってから婿に出されるみたいだから、王族でもなんでもなくなるらしい」


けっこう厳しいよね。アルピーナはギルバートと王子、どっちを愛してたんだろう。王子だったら大変かもね。私の事じゃないからいいや。


「それとお前への賠償だが、流石に金で済ますという訳にもいかないらしく、ガロスの名誉市長ということになった」

「誰がです?」

「お前だよ、リリアーヌ」

「えっ?」

「だからお前がガロスの名誉市長なんだ。名前だけだけどな。実務は市長と行政官がやるし、あそこは流通の要所ということもあって国の直轄市だ。国も絶対に不正を起こさせまいと躍起になっている」


ガロス市。この国第2の街で王都から1日ぐらいのところにある。第2と言っても人の数でいえばこの国一番である。王都が要塞のようであるのに対してガロスは開けた街だ。街壁もなく自由に出入りができる。そのため多くの人が集まり、そして多くの物が集まる。その割に治安はよく、悪い事さえしなければ非常に住みやすい街だ。犯罪者には住みにくいが。

人が多く、物も多くそして安全。つまりこの街には膨大な金が落ちる。

そんな街の名誉市長、なんだそうだ。


「やることと言っても大きな式典の時にちょこっと顔を出すぐらいなもんだ。それでも名誉職とは言え市長だから手当はそれなりに出る。これで勘弁してくれって事だ」


そういう事ね。結局のところお金を払うしかないんだけど、中途半端な額で済ますわけにはいかないし、かと言ってそれなりの額を払うには無理がある。まさか分割でって訳にもいかないし。迷惑料として名誉職を与えることで、賠償金にもなるし瑕疵物件じゃないですよというアピールにもなる。むしろ優良物件だよね。

でも王家ってそこまでウチを重く見てるんだね。


「最後にお前に縁談だ。ロベルト王子が是非にと言ってきている」

「でもそれって……」

「ああ。間違いなく向こうはお前が欲しいのだろう。ロベルト王子は3年前の一件以来婚約者はいない。だが今回の一件で区切りをつけて、名乗りを上げたのだろう」

「私は代わりですか?」

「そうかも知れないし、そうではないかもしれない。彼の気持ちがどうなのかは私にはわからない。だがな、貴族の婚姻などそんなものだ」

「分かってます。でも余りお話ししたこともなくって……」

「これから誘いが来るのであろう。いきなり婚約でないのが、二人の間を少しずつ詰めていけばいいという事の表れであろう」

「そうですね。私ももう大人ですからちゃんとできますよ」

「これは内緒の話なんだが、実はな、ブリュアーノからも話があった。陛下が来た少し後に使者が来たんだ。お前には悪いがそっちは断った」



ロベルト王子かぁ、どんな人なんだろう。チョッと逢ってみるのも楽しみかも。それにしてもお隣の王子様からもだったなんて。ホント何があるか分からないわよね。

アルピーナの言うようにここは『茜色の空の下で』の世界なのね。アルピーナはストーリーの主人公をストーリー通り攻略したけど、私はゲームの中のキャラじゃない。この世界で生きてるんだもん。だからストーリーなんて関係ない。


でももしかしたら、裏キャラ専用の隠しストーリーなのかも……




<完>


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 政略結婚なんだから、本人の意志とは関係ないものが働いているって考えないのでしょうか?それも王家の人間が… アルピーナさんはゲームの知識はあるみたいですが、この婚約破棄騒動の後の詳細までは…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ