ポラリスと緑のラジオ
「やぁねえ、また流れ星だわ」
さんさんとかがやく夜空を見上げて、ポラリスは小さくため息をつきました。このところ、毎晩です。こうも流れ星ばっかり降ってきては、夜が明るくってしかたありません。ベッドにもぐっても気になって眠れないし、うっかり庭に落ちてきた流れ星をかたづけるのが、とっても大変なのです。
『今夜は夕方から雨、夜になると明け方まで星が降るでしょう……』
首から下げた深緑のラジオが、時々ピーピーガーガー鳴りながら、そんな風にポラリスに言いました。彼女はあきらめて星グラスをかけ、星傘を開き、夜道を歩き始めました。
明るい夜です。最初の森を曲がり、赤いすい星が南の空を横切っているのを見届けた後、ポラリスは小さな村の入り口にさしかかりました。村では、くたびれた顔をしたクリスマスの飾りが、まだあちこちに残っていました。この間、この村にもサンタが来てくれたばかりなのです。
「こんばんは」
「こんばんは」
ポラリスは村の外れで掃除をしていたおばさんにあいさつしました。流れ星が明るいから、子供たちは夜になっても眠らず、いつまでもプレゼントのおもちゃで遊んでいるのです。道ばたに散らばった、破れたプレゼントの包み紙や、白いふわふわを箒で掃き、おばさんがため息をもらしました。
「嫌だねえ、また流れ星よ」
「本当に……」
ポラリスはおばさんは顔を見合わせて苦笑しました。二人は少し世間ばなしをして、それからポラリスは村を西から東へ横切りました。星足はだんだん強くなって来て、ときどき夜空が真っ白になるほどでした。青いもく星が北の空にプカプカ浮いているのを見届けた後、しばらく歩くと、明るい光に包まれた駅が見えて来ました。小さな駅は、おおぜいの人でにぎわっていました。
「こんばんは」
「こんばんは」
たくさんのお客さんと押し合い圧し合いしている駅員さんが、ポラリスに頭を下げました。もうお正月も終わったというのに、星が降り止まないから、駅が閉められないし、電車も休まるヒマもないのです。
「嫌ですね。また流れ星ですよ」
「本当に……」
駅員さんはお客さんの波に飲まれて消えていきました。ポラリスは駅を右から左に通り過ぎ、再び歩き始めました。紫色の金星が東の空でくるくる回っているのを見届けた後、ポラリスは一軒の家を見つけました。山のふもとにある、石造りのえんとつを屋根につけた、小さなおうちでした。家の前に、小さな女の子がいて、ポラリスを見ると手を振りました。
「こんばんは」
「こんばんは」
毛糸のぼうしとマフラー、それに手ぶくろをした少女が、ポラリスを見上げて言いました。
「もうクリスマスもお正月も、終わっちゃったんだよ」
「そうね」
「今日は何にもない日なの。これからしばらく何にもない。あ、見て。また流れ星」
「本当に……」
「今日は、私の誕生日なのよ。流れ星、降り止まないね……」
少女が目をかがやかせて言いました。
『今夜は夕方から雨、夜になると明け方まで星が降るでしょう……』
首から下げた深緑のラジオが、時々ピーピーガーガー鳴りながら、そんな風にポラリスに言いました。
流れ星は、それからもずっと続きました。記念日にも、記念じゃない日にも。どんな人の上にも、ずっと、ずっと降り続けましたとさ。おしまい。