表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

冒険者ギルドにて

 ブレイクがこの冒険者ギルド第七支部に男手として入ってからを含めると、約六年くらいになる。


 冒険者ギルドは国の管轄にあるため、乙女が目指す以外にも人気がある職業になっているが、性格に一癖も二癖もある冒険者と接するという点で男性には長く続かなかった。


 その点、ブレイクは非常に長く続いていると言える。


 この第七支部は他の支部よりも新しくできた冒険者ギルドで、支部長のグレイス、レヴェン、アリアナ、アリア・ブルックス、そして寿退社した前副支部長のキャロライン・クックの五人が初期メンバーと他の冒険者ギルドより年齢層は低い。


 六年ほど勤めているため、ブレイクはこの冒険者ギルドで人間関係を知り尽くしている。自身が受けている好意を全く分かっていないところが、好意を向けている側にキレられる原因となっている。


 この冒険者ギルドで一番仲が良いのはグレイスとアリアで、魔法学園からの友達とのことだった。


 逆に言えば、この冒険者ギルドで一番仲が悪いのはレヴェンとアリアナだった。この二人は同期で年は近いが、誰が見ても仲が悪かった。


「ねぇ、ブレイクくん。あたしの方が仕事ができるよね?」

「現実を教えてあげて、ブレイクくん。彼女が恥をかく前に」

「えっとぉ……」


 ブレイクの左隣にはレヴェン、右隣にはアリアナがおりブレイクに詰め寄っている両手に花の状態で誰が見ても羨ましい状況に見えるが、ブレイクにとってはとてつもなく嫌な状況だった。


 レヴェンとアリアナの仲が悪いことは冒険者ギルドでは周知の事実で、支部長でさえ仕事を一緒に入れないようにしているほどであった。ただ、どうしても人がいない時はレヴェンとアリアナが一緒に事務仕事をする状況が作られる。


 ただ、二人にしないように誰か一人は一緒に入れられ、ほぼ百パーセントでブレイクが一緒に入れられる。


 ブレイクは別に二人が嫌悪な雰囲気を出しているだけなら構わないと思っている。だが、二人は今の状況のようにブレイクを巻き込んで嫌悪な雰囲気を出してくるため嫌だと思っている。


「こんな事務的なことしかできないよ女よりも、愛想がある女の子の方が人気で仕事ができるって言えるよね?」

「こんな基礎や応用が全くできない女よりも、何事もこなせる女の子の方がまさしく仕事ができるって言えるわよね?」

「えっと……、その……」


 レヴェンとアリアナは決してお互いに顔を見ず、ブレイクの方しか見ない。ブレイクがどちらかに顔を向けようとすれば、向けられない方に顔を無理やり方向を変えられ、また一方に違う方向に向けられると、この状況は非常によろしくなかった。


 さらにブレイクにしか話しかけないという、間に挟まれている側からすればたまったものではない。


(最近来てないと思って油断していたが、どうするんだよこの状況……)


 レヴェンとアリアナをそれぞれ対応するのは嫌と言うわけではないが、二人を相手にするなら話は別になる。しかも二対一かと思いきや一対一対一という状況になっている。


「どうなの?」

「どうなのかしら?」

「その、ね? お二人はお二人で良いところがありますから、どちらが仕事ができるとか考えるのは野暮じゃないですか?」

「「どっち?」」


 ブレイクが二人を取り持とうとしても逆効果になってしまう。今度はいけないかと思ったブレイクであったが、今回もダメであった。


「ルイスって、絶対に自分が正しいと思っているよね? そんな女って誰も幸せにしないし、不幸にするだけだと思わない?」

「そ、そうですね……、あまり自分を押し付けてもッて!」


 レヴェンの言葉に同意しようとしたところ、アリアナに脇腹をつねられブレイクの言葉が止まる。


「ジェームズさんは誰彼構わずヘラヘラと接して、節操のない女みたいで見ているだけで気分が悪くなるわね。そう思わないかしら?」

「え、その、まぁ、勘違いを起こされても困りますしッて!」


 今度はアリアナの言葉に同意しようとしたところ、レヴェンに脇腹を殴られてブレイクの言葉が止まる。


(どうすれば良いんだよぉ! いや、幸い仕事は物凄い速度で終わっている。ここで抜け出しても何も言われないはずだ)

「あっ、少しトイレに――」

「ここで良いよ?」

「ここで良いわよ?」

「鬼ですか⁉」


 この場を抜け出すことも叶わず、ブレイクはこの場をどう切り抜けるかを考える。


(二人の仲について何か言うのは不可能だ。さらに言えば二人は絶対に会話しない。それこそキレていても俺に言ってくるだけだ。そんなに嫌なら視界に入らない場所にいればいいだろ!)


 これまで幾度となく経験してきたレヴェンとアリアナがいる状況で、ブレイクは未だに解決策が見出せていない。


「せんぱ~い! 少し良いですか~?」


 そんなところにジュリアが事務所に入ってきて、ブレイクは微かな希望をジュリアに見出した。上手く行けばジュリアと一緒にここから抜けられる。


(いいタイミングだ! いつもはうざいだけだが今回だけは良いところに来た!)

「あぁ、どした?」


 心の中では非常に笑顔なブレイクだがいつもの感じでジュリアに返事をした。だがジュリアはブレイクを見て、両端の二人を見た。その二人は早く帰れという目で睨みつけてきた。


「し、失礼しましたぁ……」

「うぉ、ウォーカー? 何か用事があったんじゃないのか? おーい、おーい!」


 ジュリアは二人の睨みに怖気づき、事務所から出て行った。その際にブレイクがジュリアに声をかけるが一切聞かずにどこかへと行ってしまった。


「さぁ、ブレイクくん? 話を続けようか?」

「ブレイクくん? 話はまだ終わっていないわよ?」

「……はい」


 流れに任せてジュリアの後を追おうとしたブレイクだが、レヴェンとアリアナに肩をつかまれてそれは叶わなかった。


(あぁ~、支部長~、ブルックスさん~、どっちでも良いから来てくださ~い!)


 この二人の仲を一喝できるのがグレイスとアリアであるため、二人が来ることを願ったブレイクであるが、二人はそもそも第七支部におらず今日は帰ってくる予定ではないため来ることは絶望的であった。


(いや待て。二人はお互いに嫌っているということは、俺がこの二人に嫌われることをすればいいのではないか? 共通の敵を持てば一致団結するかもしれない……!)


 もはや打つ手がない状態のブレイクはとんでもないことを考えていた。


(それで二人に嫌われて、ここに居づらくなってやめる。これは良さそうな手じゃないか? 別に俺はここをやめても良いわけだ。貯金もあるし、数年くらい働いてなくても生きて行けるし、その間に魔導技師になれば大丈夫だ)


 ブレイクがこんなことを考えるくらいには切羽詰まっていた。平たく言えば、女性に挟まれ、かつ間接的に喧嘩をしている二人に挟まれている状況にストレスを感じているのだ。


「ねぇ、ブレイクくん。あたしの胸はどう? そっちの女よりもとてもいいと思うの」

「ブレイクくん、そんな誰でも触らせている汚らわしい胸より、私の胸の方が良いと思うわよ?」


 レヴェンとアリアナはまるで息が合っているかのように同時にブレイクの腕に抱き着いて、その大きな胸をブレイクの腕に押し付ける。


(おいぃぃぃっ! 童貞にその刺激はきついってぇぇっ!)


 ブレイクの両腕が幸せを堪能しているが、ブレイクとしては早くこんな意味の分からない状況を抜け出したかった。


(本当にやらないといけないのか……? いや、やらないと俺の精神がヤバい。やるのも滅茶苦茶嫌だが、それ以上にこの場に居続けることの方が精神が死ぬ!)


 ブレイクは意を決して二人に嫌われるような行動を取ることにした。


(ルイスさんが嫌っている男は分かる。ヘラヘラしていて節操がない男だ)


 それなりに付き合いがあるだけはあり、ブレイクはアリアナが嫌っている男の特徴は分かっていた。そしてレヴェンの嫌っている男の特徴も。


(ジェームズさんはきつく当たってくる人が嫌いだ。この二人はお互いの嫌いなタイプに当てはまっているから最初から仲が悪かったって聞いたな)


 二人の嫌いなタイプは正反対であるため、別個で言うのはこの場では露骨すぎると思ったブレイクはとりあえずスケベな男で行くことにした。


「そ、それくらいだと全然分かりませんよ~。もっと押し付けてくれないと」


 ブレイクは生まれてから一度も言ったことがない言葉を声を上ずらせながら放った。そしてそんな言葉を言ったため、ブレイクは耳まで真っ赤にしている。


「こう?」

「こうかしら?」

「えっ……⁉」


 ブレイクの思惑とは異なり、レヴェンとアリアナはブレイクの腕に力強く抱き着いてきていることで胸の柔らかさが伝わってくる。


(どういうこと⁉ どうして気持ち悪いって言って離れてくれないんだよ⁉ そうか、まだ足りないのか⁉)

「う、腕だから全く分かりませんね~、触るとかしないと分かりませんね~」


 この状況にブレイクは混乱してブレイクが言わないと思っていた言葉を再び口にする。レヴェンとアリアナはブレイクの顔を真っ赤にしてそう言っている姿を見て、同じことを思っていた。


(ははっ、顔を赤くしてかわいい! どうせあたしたちから離れようとして言ったんだろうけど、逆に利用させてもらおうかな)

(ふふっ、顔を真っ赤にして可愛いわね。私たちから離れようと思っているのだろうけど、その言葉を利用しない手はないわ)


 二人はブレイクの手を取って自身の胸に誘導しようとするが、さすがにそれをしたら後戻りできなくなると感じたブレイクは寸前のところで抵抗する。


「あれ? どうしたのかなブレイクくん? 触らないと分からないんじゃないの?」

「ほら、抵抗しないで。ブレイクくんが言ったことなんだから」

「えっと、確かに言いましたけど、何と言うか……」

(なんか思っていたのと違う!)


 まさか積極的に来るとは思っていなかったブレイクは嫌われることを忘れ去ってこの状況をどう切り抜けるかを考えながら手を胸に着地しないように抵抗する。


「前言撤回しますからッ! 手を放してくれませんか⁉」

「ダメだよ、自分の言ったことに責任を持たないと」

「ダメよ、女の子にそんなことを言ったんだから最後まで責任を持たないと」

(同じことを言いやがって! 仲が悪い癖にこういう時だけ息が合っているんだから!)


 一向にブレイクの手を放すつもりがないレヴェンとアリアナであるが、ブレイクの手は着々と二人の胸に近づいている。


 ブレイクの力が弱いわけではなく、二人の力が強いため近づいているのだ。冒険者ギルドでは冒険者を捕らえる場面が出てくるためある程度の実力が必要となっている。


 ブレイクは暗殺者タイプであるが、レヴェンとアリアナは接近戦タイプであるためブレイクより力がある。


(くぅっ! やっぱり変なことを言うんじゃなかったァ!)


 今更後悔しているブレイクは、この展開を変えるために苦し紛れに言葉を放つ。


「そんなにするとか自分のことが好きなんですか⁉」

「今更? こんなことを誰でもするわけがないよ?」

「えぇ、好きよ。それが何か問題あるのかしら?」

「冗談も大概にしてくださいよぉ!」


 ブレイクの言葉にレヴェンとアリアナは肯定したが、自身に向けられる好意を信じていないブレイクは冗談だと切り捨てる。


「冗談じゃないわよ。こんなにもブレイクくんのことを愛しているんだから」

「冗談じゃないよ。今までこんなにも人を好きになったことがないってくらいにブレイクくんが好きだよ?」

「ッッッ⁉」


 アリアナとレヴェンはブレイクの耳元でそう呟くと、ブレイクは全身に痺れるような感覚が一瞬で流れた。もはやこれに身を任せてもいいのではないかと、そう思ったが、一瞬のところで気を確かにした。


「すみません!」


 ブレイクは二人に両手をつかまれている状態で、持っているスキルである≪脱出≫を使う。するとアリアナとレヴェンから離れた場所に立っていた。


「そういうのは好きな人にやってあげてくださいぃッ!」


 二人にそう言ったブレイクは事務所から走り去っていく。ああいう風にやられても、冗談で、からかってやっているのだと思っているブレイクであった。


「……逃げちゃった」

「……逃げてしまったわ」


 レヴェンとアリアナはブレイクが飛び出した扉の方を向いてそう呟いた。こうして二人が二人しかいない空間にいることは全くなかった。


(ああして押せば何とか行けそう。既成事実まで持っていけるかな?)

(ふふっ、押しに弱いことは分かっていたけれど、あそこまで頑なに好意を向けられていることに気が付かないものなのね。手強いけれど、押せば何とか行けそうかしら)


 レヴェンとアリアナに会話がないが、二人は同じことを思っていた。先ほどの行動も二人が合わせていた行動ではなく、同じことを思っていたから二人でブレイクを責めることができた。同族嫌悪としか言いようがない二人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ