夢
冒険者ギルドは、午前九時から午後九時の十二時間開いており年中無休で回っている。ブレイクの場合、週に五日働き二日休んでいるが基本的にどこに入っても良いと支部長に言っているため、土日が休みである場合は少ない。
「くぅぅっ……あぁっ……」
ブレイクは出勤の日に起きる時間よりも一時間ほど遅く起き、体を伸ばす。休みであるためいつものような憂鬱な気分はなく、自分がしたいことができる最高の一日が始まる気持ちだった。
二階にある自身の部屋から出て一階に降りると、ブレイクの母親と弟はすでに家にいなかった。今日はブレイクが休みなだけで平日であるため母親と弟は仕事に出かけている。
「……腹減った」
ブレイクは冒険者ギルドで見るようないつものキチンとした姿ではなく、本当に休日の男性のような顔をしている。冒険者ギルドでもう少し頑張らなければ、人並みに仕事をこなせばブレイクは自身が望む地位と体力が残っているはずだった。
(さてと……、今日は何をするかな……)
顔を洗い朝食を済ませて部屋着へと着替えたブレイクは部屋に戻って今日はどうするかを考える。
(素材はある、アイデアもある。だが成功するビジョンが見えない)
部屋にある椅子に座ったブレイクは死んだ目をして考えるが、いつものブレイクを知っている人たちでは考えられない焦りの表情をしている。
「……〝ロードマップ〟起動、目標地点を〝ブレイク・サリヴァンが魔導技師になる〟に設定」
ブレイクがそう呟くが、ブレイクの目の前にいつも出現するロードマップが一切出てこなかった。それを見て少しため息を吐き、再び口を開く。
「はぁ……〝ロードマップ〟起動、目標地点を〝ブレイク・サリヴァンが属性付与を獲得〟に設定」
先ほどと同じようにブレイクの目の前に何も出てこなかったことに、机を叩きそうになるがその気持ちをおさえて険しい表情をする。
「くそっ……!」
ブレイクが獲得している〝ロードマップ〟というスキルの強みは、ブレイクの知識から必要な道を最短で示してくれるという点。
反対に弱点は、ブレイクの現在所有している知識からたどり着けなければ〝ロードマップ〟が起動してくれない。もちろん抽象的で答えが人によって違っていても起動しない。
そのためブレイクは魔導具の製作に行き詰れば気分転換に知識の獲得に向かう。日々知識を蓄えているブレイクでも、魔導具に関するスキルや目標を一切ロードマップが示してくれない。それこそブレイクには才能がないと言わんばかりに。
才能、あるいは取得可能スキルと言われているものは存在している。取得可能スキルは文字通りその人が取得できるスキルで、その適性がなければどれだけ頑張ってもスキルを取得することができない。
「はぁぁぁぁ……、何でだよ……!」
だがブレイクは分かっている。その取得可能スキルは人格に作用しているため、その人がなりたいものに対して取得可能スキルが解放されて行く。そのためブレイクが今まで見てきた冒険者も妥協することなくスキルを取得することができていた。
ただ、自身の認識と深層の思いに差異があれば取得可能スキルは違ってくるが、その差異さえ修正すれば取得可能スキルの問題はなくなる。
「……俺のなりたいものは、魔導技師じゃないのか……? いや、そんなはずがないだろ、たぶん」
そのためブレイクが魔導技師になる道筋が出ないのはブレイクが魔導技師になりたくないという結論も出せるが、深層意識でもなりたいものが魔導技師と証明されているためその結論は間違っていた。
「ふぅぅぅぅぅ……、やるか」
こう考えていても仕方がないと思ったブレイクは、魔導具を作り出す作業に取り掛かる。魔導具製作を家族にも秘密にしているため、押し入れから隠している魔導具製作に必要の道具を取り出す。
ブレイクが取り出したのはブレイクの腕に合うように金属で作られている手から肘までの青色の籠手であった。ブレイクはそれを装備してフィットしているのを確認する。
「出来は……まぁ良いか」
少しだけ気になるブレイクであるが、これから起こることを思うとそれくらいは些細なものであった。ブレイクは籠手を外して、机の上に置く。
そして押し入れから取り出した箱から目的の物を取り出した。取り出した物は手のひらに収まるくらいの大きさの美しい青い光で輝いている魔石だった。
「今度は、上手く行ってくれよ……!」
ブレイクは籠手の上に魔石を乗せ籠手に魔力を流し込むと、魔石は青い光を一層強くさせて光が籠手に向かっているのが見て取れる。
しばらくして魔石からの光はなくなり魔石はただの石となった。対して籠手の方は青い光が段々と収まって行き何の変哲もない青い籠手になった。
(さぁ、ここからだ! 試作番号459起動!)
ただの石になった魔石を専用の箱に入れて籠手を装備したブレイクは、再び籠手に魔力を流し込む。それと同時にブレイクは頭の中で魔法性質を使うイメージを浮かべ、手のひらに集中する。
すると籠手の手のひらから魔力以上の球体状になっている高エネルギーが出現したことでブレイクは集中しながら笑みを浮かべるが、その瞬間、籠手が粉々に砕けて高エネルギー弾はその場で爆発した。
「くそがッ!」
ブレイクは即座に自身の部屋に防音のスキルと衝撃吸収のスキルの透明な壁を作り、外に何も聞こえないようにしたことで爆発はブレイクの部屋の中だけに収まった。
「……はぁ、失敗だ」
ブレイク自身に爆発での怪我はないが、459回目の失敗に精神的にやられているところがあった。
「……はぁぁぁぁ」
部屋の外には何も影響が出ていないが、部屋の中が爆発で荒れていることにも深くため息を吐いてしまったブレイクは何とか無事だった椅子に座って片手で顔を覆いながらうなだれた。
「結構自信があったんだけどなぁ……」
籠手の素材にしろ、魔石の相性にしろ、ブレイクのチョイスは誰が聞いても驚きの声を上げるものだった。だがブレイクに才能がないためにその二つが失われた。
「ッ!」
爆発で未だに防音が聞いている部屋の中でブレイクは机を殴りつけたが、一向に気分が収まることがなかった。
「……はぁ、頑張るしかないか……」
イライラが止まらないブレイクの視線の先には、自身が思い描いた全身鎧の各部に様々な魔法性質を付与している鎧の設計図だった。
ブレイクは鎧を身に纏い、空を飛び人を助け生活を豊かにする神のような魔導具を幼少期に思い描いた。ブレイクはその幼少期に思い描いた設計図の鎧を見るたびに、夢を体現させないと、こんなところでイラつく時間はないと言い聞かせる。
(俺に知恵が足りなかっただけだ。いや、実験も何もかもだ。だからこれが限界だとは思わないぞ)
まだまだ夢を諦めるつもりがないブレイクは、とりあえず家族にバレないように部屋の片づけを簡単に行い、壊れた家具を買い直すついでに情報の宝庫である図書館に向かうことにした。
☆
(賑わっているな、俺の心とは違って)
ブレイクが外に出ると多くの人が行き交って賑わっており、その光景がブレイクの心とは全く違っていたため死んだ目をしながら歩く。
(図書館には情報がいっぱいあるが、それでももう読んでいない情報がなくなってきているな。冒険者ギルドにある本も大体読み終わっている。王都か別のところに行かなければ変化を望めなくなるが、できるだけここから離れたくないという気持ちがあるんだよなぁ……)
ブレイクは基本的に引きこもり体質であるため、できることなら家の中で済ませたいという気持ちが大きい。ただ情報を吸収するという点では必要なことであるため躊躇はないが、それがここから出るとなると話は別になってくる。
(商業ギルドに外の本が売られていないだろうか。頼めば行けそうだが、そこまでするのはなぁ、という気もする)
そしてブレイクは仕事でなければとにかく人と関わりたくないと思っている。あくまでも冒険者ギルドで働いている時のブレイクは仕事をしているブレイクである。
(まぁ、そうは言ってられないか……)
引きこもり体質のブレイクであるが、さすがにここまで失敗が続いているため焦らなければならないと思っている。引きこもりは一旦出張してもらうしかないと考えている。
(今やれること……、知識の蓄積、魔導具の素材の取得、魔石の取得、スキルについて調べる、この四つくらいか。今回は知識の蓄積だな)
「はぁ……」
ブレイクは夢に向かって進んでいるのかどうかが分からずに思わずため息を吐いてしまう。知識の蓄積は確かに分かるが、自身が魔導具を最初より上手くできているのか分からなかった。
むしろ最初と同じであるため進歩していないのではないかとブレイクは思ってしまう。
(あぁ……、ダメだ。自分で禁止にしているのに頭の中で無理という単語しか出てこない)
完全に負の感情に呑み込まれているブレイクは、正常の意識に戻すために深呼吸を何度もすることで精神を落ち着かせる。
(今日は無駄な一日にしよう。こんな状態で何かしたところで意味がない。毎日頑張っている自分への休息日と行こうか)
今日は精神的に参っていることもあったブレイクは、無駄な一日を過ごすことを決めた。ここのところブレイクは成果が出ないことに焦って根を詰めていたため、こうして精神がやみそうになっていた。ブレイクの選択は正しいと言える。
「……えっ?」
いつも行っている図書館には行かないと決めたのは良いが、ブレイクが行く場所は近くの食料品店、冒険者ギルド、図書館の三つだ。そのため無駄な一日を過ごそうにもどこにも行くことができないのだ。
「休日って、なんだ……?」
ブレイクはどうやって休めばいいのか全く分からなかった。休むと言えば、家の中で魔導具を製作という思考回路に至っている時点でブレイクはかなりいかれていた。
「……帰ろ」
少し考えた結果、ブレイクは家に帰ることを決意した。外に出て何かするということを考えることができなかった結果だ。
(この調子だと女性と遊びに行く時は絶対に呆れられるな。まぁ、女性と遊びに行かないから良いんだけど)
自虐を交えながら心の中でそう思いながらブレイクは帰路に就こうとした。
「あれ? ブレイクくん?」
「えっ? ジェームズさん?」
ブレイクが振り返った先には、いつも冒険者ギルドの制服として着ているズボンではなくスカートなため新鮮に思える私服をバッチリと決めた綺麗なレヴェンがいた。
「こうやってブレイクくんと外で会うのは初めてだね」
「そうですね。自分があまり外に出ないので機会もありませんから」
「そう言えばそう言っていたね」
ブレイクはこうしてプライベートで同僚と会うことが好きではないため、ものすごくではないがこの場から離れたいとは思っている。
(こんなところでブレイクくんと会うなんて運が良い! ……服、変じゃないかな?)
一方のレヴェンは職場以外でブレイクと出会えたことを嬉しく思っていた。今日はバッチリと服装を決めているレヴェンであるが、特に誰かと会うわけでもどこかに行くわけでもなかった。それでも何となく気合を入れて服装を決めた結果が良かった。
「それじゃあ自分はこれで」
「ちょっと待って」
流れるようにブレイクはレヴェンと別れようとしたが、レヴェンに腕をつかまれて引き留められた。
「どうしましたか?」
「ブレイクくんはこれから何か予定があるの?」
「まぁ、あると言えばありますし、ないと言えばないような気がしますが……」
職場の先輩であるため適当な嘘をつくのに何か抵抗を感じたブレイクは具体的に答えずにぼかして答えたが、それが良くなかった。
「その言い草はなさそうだね」
「まぁ、ないと言えばないですね。強いて言えば家に帰るくらいで」
「それならあたしとお出かけしない?」
「えっ、そんな綺麗な姿をしているんですから、ジェームズさんは今日どこかに行く予定じゃないんですか?」
(ブレイクくんが綺麗って言ってくれた! ……やばっ、こんなことで嬉しくなるなんて男への免疫が低くなっているのかな……?)
ブレイクがさりげなく放った言葉にレヴェンは表情こそ変えないが嬉しく思っていた。ブレイクを好きになってから、レヴェンは男と遊ぶことを一切しなくなった。
ブレイクと会話しているアプローチしてくる男と食事には行っているが、それはしつこく言い寄ってくる男で、一回だけ食事に行ってダメ出しして帰るだけにしていた。
「ううん、どこにも行くつもりはないよ。ぶらぶらしていただけ。どうせなら親睦を深めるためにどこかに行こうよ」
「……いえ、自分といても楽しくないと思いますので遠慮しておきます。ジェームズさんはお友達と楽しんでください」
引きこもり体質でボッチ体質のブレイクが誰かと遊ぶことは年に一度あるかないかくらいにブレイクは誰かと遊びたくないと思っているため、それとなくお断りする。
「大丈夫大丈夫! ブレイクくんといるだけで楽しいから!」
レヴェンはブレイクの腕に抱き着いて引っ張って歩こうとするが、こんなところで駄々をこねるのは良くないと思っているがわずかばかりに抵抗しているブレイク。
「お洋服屋さんとか、アクセサリーショップとか、屋台が色々と出ているから見て回ろう?」
「……はい、分かりました」
これ以上抵抗するのは醜いと思ったブレイクは大人しくレヴェンに付いて行き、夜遅くまでレヴェンと歩き回ったり食事をしたりした。
(絶対に、もう迂闊に外に出ないぞ)




