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ダンジョン調査

 冒険者ギルド第七支部、事務所にはブレイクを始め、レヴェンとジュリア、メラニーが仕事をしていた。ブレイクの左隣にはレヴェンが座っており、右隣はメラニーが座っていた。ジュリアはブレイクの正面に不貞腐れて座っている。


 この席は特に決まっておらず、誰がどこに座っても良いという感じになっている。


 先輩と後輩に挟まれているブレイクとすれば、端に座っておきたいところであったが、すでに三人が座っており招かれたことで挟まれた先に座っている。


「ねぇねぇ、せんぱ~い」

「何だ?」

「最近できたお洒落な服が売ってるお店に友達と一緒に行ったんですけど」

「あぁ」

「あっ、もしかして友達がいない先輩に言わない方が良かったですか?」

「いやいや、そんなことはないぞ。ウォーカーの話を聞いていると俺がボッチであることを再確認できる。俺は休日でも家にいるだけだからな」

「ぽい」

「そうか。で? 服が売っているお店に行ってどうしたんだ?」

「そのお店に良い感じの服があったんですけど~、それが高くて」

「ほぉ、買わなかったのか?」

「いや、買っちゃいました!」

「……そうか。まぁ、破産しないように〝一人で〟頑張れ」

「そんなことを言わずにお昼ご飯をおごってくださいよ~。今月金欠ですから~」

「自業自得だ。それよりもジェームズさんとフローレスさんは休日にお店に行ったりするんですか?」


 ジュリアがブレイクに話しかけ、それをブレイクがレヴェンやメラニーに話を振りながら仕事をしている中、支部長であるグレイスが事務所に入ってきた。そしてブレイクを見つけると声をかけた。


「サリヴァン、少し良いか?」

「はい、大丈夫です」

「その作業を終わってで良いから、支部長室に来てくれ。話がある」

「すぐに向かいます」


 グレイスはブレイクの言葉に満足そうに頷くと事務所から出て行った。そしてブレイク以外の三人がブレイクの方を見た。


「何か、したの?」

「何もしていませんよ」


 レヴェンはニヤニヤとした顔でブレイクに聞いたがブレイクは即座に答えた。


「もしかして苦情でも来たんじゃないんですか~。こいつは仕事ができないからやめさせろ! とか」

「少なくともお前よりもできるから心配ないな」


 ジュリアもニヤニヤとしながらブレイクをからかうが、ブレイクは即座に答えてその理由で辞めるのもありだなと思った。


「あの、先日私が失敗してサリヴァン先輩に手伝ってもらった件でしょうか……?」

「それは大丈夫ですよ。あれは完全に終わったことですからフローレスさんが心配することはないですよ」


 この中でメラニーだけが心の底から心配していることにブレイクはメラニーを心のオアシスとしての可能性を見た。できることなら、この先輩二人から何も悪影響を受けませんようにと願いを込めて。


「それじゃあ向かいますね」


 持っていた仕事をすぐに終わらせ、ブレイクは事務所から出て支部長室へと向かう。


(この道を通る時は大抵嫌なことしか起きていないんだよなぁ。一番は副支部長になった時だけど)


 悪いことではないことを祈りながらブレイクは支部長室にたどり着き、ノックをすると中から返事があったためブレイクは支部長室に入る。


「よく来た。そこに座ってくれ」

「はい」


 グレイスは支部長の席に座って紙を見ていたが、ブレイクが来たことで紙を置いて向かい合うソファーに座ることを促し、ブレイクはすぐに座った。


「それで、お話とは?」

「まぁそう急かすな。少し世間話と行こうじゃないか」

「世間話ですか?」

「あぁ、そうだ。他の子たちや担当冒険者とは世間話をして、私とはしないのか?」

「そんなわけがありません。ただそういう話をする人だと思わなかったので」

「良く言われるよ。私は見た目の割に人と話すのが好きなのでな」


 グレイスの話を聞き、ブレイクは顔には出さないが驚いた。ブレイクがここに入ってからグレイスとはあまり話したことがないため、グレイスのことを何も知らないことで驚くのも無理はない。


「副支部長になってみてどうだ? 変わったことはあるか?」

「いえ、特に変わったことはありませんね。担当冒険者さんたちにはおめでとうって言われたくらいです」

「そうか、まぁそんなものか。まだ副支部長としての仕事を与えていないからな」

「ということは何かすることがあるのですか?」

「いや、今のところはない。いずれは来るだろうから、その心構えだけはしておいてほしいということだけだ」

「副支部長の仕事ってどんなことがあるのですか?」

「そうだな……。月一で行われている冒険者ギルド会議には私と一緒に来てもらうことになっている。他には大手の依頼元に一緒に向かうこともある。基本的には私のサポートをやってもらう形だ」

「なるほど……」

(うわぁ、めっちゃ嫌だなぁ……)


 グレイスの話を聞いてブレイクは心の中で嫌な顔をする。副支部長であるからそうなることは薄々分かっていたが、それでも嫌なものは嫌だった。


「なに、心配するな。サリヴァンならしっかりと役割をこなしてくれると信じている。自信を持て」

「は……、はい……」

(そういう不要なプレッシャーを出してくれるのをやめてくれませんか⁉)


 全くこなせる自信がないブレイクであるが、ここで何かを言えるわけがなく心の中で叫びを収めた。こういうところで拒否しないからこそ、ブレイクは今ここにいる。


 そんなブレイクを露知らず、グレイスは口を開く。


「サリヴァンがここに来て六年くらいになるか」

「そうですね。二年の時に来たのでそれくらいかと」

「最初は男手が欲しくて来てもらっていたが、まさか副支部長にまでなるとは思わなかった」

「はははっ、それは自分もです……」


 ブレイクは冒険者ギルドに働きたくて正式に雇われたのではなく、最初はブレイクの母親とグレイスが知り合いだったことから、女性しかいない第七支部の冒険者ギルドに男手が欲しかったグレイスがブレイクのことに目を付けて男手要因として働き出してもらうことになった。


 その当時、強制ではなかったため断ることもできたブレイクであるが、魔導具を作り出すためには素材を買うお金が必要であったためそれを了承して冒険者ギルドで手伝うようになった。


「言い方は悪いが、当時のキミのことをそこまで評価していなかった。キミのお母さんからは、キミは勉強をするのが好きだということしか聞いていなかったからな」

「あー、まぁ、自分をどう言えば良いのかと言われたらそう答えるしかないですからね」


 当時も今も変わらず、ブレイクは知識を蓄えるのが好きであった。それは魔導具を作るのに当たり、素材となる鉱石や魔力改変などの様々な知識を知っていなければいけないため、魔導具を作りたい一心で色々な知識を蓄えてきた。


「男手として力仕事をしてもらっていたが、あれは他の受付嬢がいなかったから代わりに受付をしたのが始まりだったか?」

「はい。その時の冒険者が今の紅髪の絶拳(レッド・ナックル)さんですね」

「あぁ、そうだ、彼女だったな。次の日に彼女が悪鬼のような顔で来た時は、キミは何をしたのだと思ったが、まさかその顔で頭を下げて担当冒険者にしてくれと言ってくるのだからその場にいた全員が驚いて口を開けなかった」

「自分もまさかその一回がキッカケで冒険者ギルドで本格的に働き始めるとは思いませんでした」


 当時のブレイクにはすでに≪ロードマップ≫と≪鑑定lv5≫のスキルを取得していたため、それを元にやるべきことをレッド・ナックルに言ったところ見る見るうちに実力をつけたことで、ブレイクの最初の担当冒険者となった。


「幸い、キミは魔法学園に在学中で冒険者ギルドで働くのに必要な資格を取れる状況だったから早々に取れたのは良かった」

(その件は本当に根に持ってますから、お忘れなきように……)


 魔法学園で上位の成績で在学していたブレイクは、何も知らされないまま資格試験を受けさせられ無事に合格したことで冒険者ギルドで働くことができるようになった。


 そもそもブレイクは最初から深く働くつもりはなかったため、知っていれば資格試験など受けることはなかったが、なし崩し的に本格的に冒険者ギルドで働くことになった。そのことをブレイクは根に持っており、いつかグレイスに反逆できる日を待っているところだ。


「前から一度聞きたかったが、キミはどうしてあれほどの知識を蓄えていたんだ? それこそスキルが発現するほどの知識を。普通なら勉強が好きだからという理由ではあれほど多岐にわたるスキルは発現しないはずだ。発現するとしても一つのスキルならあり得る話だが」


 一番聞かれたくないことをグレイスから聞かれ、ブレイクは一瞬だけ固まるが、あらかじめ用意していた答えを思い出して口を開いた。


「そういう体質なのかもしれません。スキルについては良く分かっていませんから」

「……体質か。そうだな、スキルは色々と分かっていないところがあるから分からないんは当然か」


 人々が認識しているスキルは、いつから存在しているのか不明で一説には神が人間の能力を可視化したものと分かっているが、突然スキルが出現したりと、どういう原理なのか未だに分かっていない。


(あぶねぇ~。普通に頑張って勉強したって言ってもそれならどうして勉強していたんだって話になるからこの回答がベストだな)


 グレイスが納得してくれたことにブレイクは安堵した。魔導技師になることを誰にも言わないと決めているブレイクは、答えがつまらないように用意周到に考えているのであった。


「さて、世間話はこれくらいで良いか。呼び出した用件についてだ」

「あ、はい」


 ようやくグレイスは本題に移ってくれるらしく、ブレイクはグレイスの口からどんなことが言われるのかドキドキして、嫌なことじゃありませんようにと心の中で祈った。


「先日、第七支部の管轄にあるエピック・ダンジョンの第二層が踏破されたことは知っているか?」

「はい、聞きました」

「それなら話は早い。サリヴァンはまだSランクダンジョン調査に向かったことがなかったな?」

「はい、ないです」

「通常、ダンジョン調査は本部からの指名で行われるが、私が無理を言ってブレイク・サリヴァンをダンジョン調査に行ってもらうことになった」

「よく無理が通りましたね」

「それはキミの名前を出したからな」

「自分の?」

「キミは理解していないだろうが、キミが思っている以上にキミの名前は本部に知られている。実力のない冒険者を一級の冒険者にキミがしたことを、冒険者自身が言って回っているから噂が出回っている。だから冒険者ギルド本部に引き抜かれそうになったことがあったな」

「そう言えばそういうことを聞きましたね」

「本部や他の支部では〝ヒーローメイカー〟や〝クイーンメイカー〟と呼ばれていると聞くほど、キミは有名になっている」

「……そこまでですか」


 グレイスから聞いた話に戦慄して、今度会った担当冒険者に黙っておくように言っておかないと話が今以上に広げられると思ったブレイクであったが、とっくの昔に手遅れである。


「本部にキミの名前を出した時に、本部もキミのことを気になっていたようでな。本部所属の冒険者を一人つけることでキミの指名を許可してくれたよ」

(それは……、俺に指名が来ることは問題ない。だが本部所属の冒険者が来ることは本部に目を付けられる可能性があるということか。ていうか俺に付いてくる冒険者は一人だけなのか?)


 ブレイクはグレイスから言われた言葉に色々と考えているが、結局本部から冒険者が来るということはあまり良くないのではないかという結論に至った。


「エピック・ダンジョン調査は今から二週間後だ。Sランクダンジョンであるから、それ相応の時間がかかることを覚悟しておいてくれ」

「はい」

「それなら話は終わりだ、仕事に戻ってくれ」

「はい、失礼します」


 グレイスの話が終わり、ブレイクは支部長室から出て行く。そして少し歩いた廊下でため息を深く吐いた。


(なんか、最近もここでため息を吐いた気がする……)


 Sランクダンジョンに向かうことは嬉しいはずのブレイクであるが、グレイスの話を聞いて死んだ目をしながら歩き始めた。


 ブレイクが事務所に戻るためにトボトボと死んだ目をしながら歩いていると、視線の先に見知った顔を見たことで死んだ目を直す。


 事務所の扉を開けようとしていた、横顔からでも分かる美しいとしか言いようがなく、女性でも見惚れてしまう腰まである長い黒髪の美人な女性がそこにいた。


「ルイスさん」

「あら、ブレイクくん」


 ブレイクが声をかけたことで、美人な黒髪の女性、アリアナ・ルイスは少し驚いた顔をしてブレイクの方を見た。それにブレイクは驚かせてしまったのかと申し訳なく感じた。


「すみません、驚かせましたか?」

「いいえ、そんなことはないわ。ブレイクくんが事務所にいると思っていたから驚いただけよ。それよりもどこに行っていたのかしら?」

「少し支部長に呼ばれていて」

「支部長に? どんなことを話していたの?」

「次のSランクダンジョン調査に自分が選ばれたということを伝えられました」

「あぁ、エピック・ダンジョンね。いつ調査に向かうの?」

「二週間後です」

「ふ~ん……」


 遠慮なくブレイクに色々なことを聞いているアリアナは冒険者ギルドの受付嬢として活躍している女性で、第七支部でも冒険者ギルドの仕事ならブレイク以上にできる人である。


「ブレイクくん、服が少し乱れているわよ」

「本当ですか?」

「私が直してあげるからジッとしておいて」

「ありがとうございます」


 そう言ったアリアナはブレイクに大義名分を得て近づき、乱れてもいない冒険者ギルドの男性用制服の乱れを直すふりをする。


(……酔いそうなくらいにいい匂い……)

(ふふっ、ブレイクくん……)


 ブレイクはアリアナの匂いに少しクラクラしてアリアナにされるがままになって、少ししてアリアナは離れた。


「はい、できたわよ」

「ありがとうございます、次からは気を付けます」

「このくらいなら良いわよ、いつでもしてあげるから」

「それはルイスさんに悪いですよ」

「そんなことはないわ。ブレイクくんは私にとって必要な人なんだから」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


 ブレイクはアリアナのことをとても尊敬しており、ブレイクが新人だった時に面倒を見ていたのがアリアナで、働いているアリアナの格好良くて美しい姿に見惚れていたくらいだ。


「それで自分に――」

「ブレイクくん、次の休みは何をするかって決まっているのかしら?」

「いえ、決まっていません。それがどうかしましたか?」


 ブレイクがアリアナに自身を探していた用を聞こうとしたところ、それにかぶせて休日のことを聞いてきた。ブレイクは気にせずにその質問に答える。


「そうなの。ブレイクくんは女の子から人気があるから休日の予定が埋まっているのかと思ったわ」

「そんなことないですよ。でもお世辞はありがとうございます」

「お世辞じゃないわ。彼女がいてもおかしくないと思うくらいよ」

「ははっ、アリアナさんでも冗談を言うんですね。自分が女性から好意を受けることがないのでその冗談は失敗ですよ」


 ブレイクは異常なまでに他者からの自己評価も低いため、こういう会話になってしまう。それこそ相手をイラっとさせるほどに否定してくるのを気が付いていないのが質が悪い。


「そんなことないわ。私が彼女として申し出たいほどには、ブレイクくんは人気よ?」

「そ、そうですか……」


 突然のアリアナの冷たい声音でブレイクは少し後ずさりして今回は否定せずに頷いた。それに満足して頷いたアリアナは言葉を続ける。


「どうかしら、私を彼女にするのは? どうせならお嫁さんにしても良いわよ?」


 その言葉でアリアナがブレイクに接近するが、ブレイクはそれと同じくらいに離れて中々アリアナが接近するのを許さなかった。


「いえいえ、ルイスさんには自分よりも相応しい男性がいっぱいいますよ。ルイスさんは美人で仕事ができてしっかりとしていますから」

「相応しいとか相応しくないとか、誰が決めるのかしら? それは当人たちが決めることよ。それともブレイクくんは私では不満なの?」


 どんどんと追い詰められているブレイクはアリアナに体を押されて壁に背中をぶつけ、アリアナはブレイクの顔の横の壁に手をついて、壁ドンをした。


「……ルイスさん、からかうのはやめてください。勘違いしちゃいますから」

「勘違いしても良いのよ? それとも、彼女がいるのかしら?」


 アリアナは目から光を失わせてブレイクを見ると、ブレイクは肝が冷えるのを感じた。アリアナのことを尊敬しているブレイクだが、たまに起こるアリアナのこの状況については意味が良く分かっていないため恐怖している節がある。


「い、いえいえ! 自分は人生で一度も彼女なんていたことがありませんから」

「そう、それは何よりよ」


 そう言ったアリアナは元の表情に戻ってブレイクから離れた。そのことにブレイクは安堵してアリアナを見る。


「ごめんなさい、からかっているつもりだったのだけど、度が過ぎちゃったみたいね」

「いえ……、大丈夫です。少しだけ驚きましたけど」

「でもこれくらいの方がドキドキして刺激があるでしょ?」

「ていうか、どこからからかっていたんですか?」

「さぁ……、どこからがいい?」


 アリアナの妖艶な笑みに、ブレイクは心臓が破裂するのかと思うくらいにドキドキが止まらなかった。


(ルイスさんと言い、ジェームズさんと言い、こういう感じでからかってくるから少し苦手だ)


 ドキドキを悟らせないために平静を保ち、ブレイクはアリアナに話しかける。


「それよりも、自分に何か用事があったのですか?」

「あぁ、そう言えばブレイクくんに指名があったから来たのよ。うっかりしていたわ」

「ルイスさんでもうっかりすることがあるんですね」

「それはあるわよ。人間だから」


 実際、アリアナはうっかりしていたわけではなく、しっかりと覚えていた。だがブレイクに自身との時間を強制的に優先してもらった。


「自分を指名してきたのは誰ですか?」

「レッド・ナックルのアレンさんよ」

「……すみません、今すぐに行きます」


 ブレイクはアリアナからその名前を聞き、顔を真っ青にして一言アリアナにそう言って走り始めた。その後ろ姿を眺めているアリアナは、ぼそりと呟いた。


「もう……私を差し置いて行くなんて、お仕置きね……」

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