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ダンジョン

 今現在、冒険者ギルド第七支部は冒険者が数人いるくらいでいつもの賑わいが嘘のように静かだった。数人いる冒険者も他の冒険者を待っているようで、椅子に座っているだけで本当に静かだ。


「ねぇ、聞いたブレイクくん」

「何がですか?」


 そんな静かな中で冒険者ギルドで受付をしているブレイクに、同じく受付をしているレヴェンが話しかけてきた。


「エピック・ダンジョンが新たな階層に到達したんだって」

「あのSランクダンジョンですか。いや、初耳です。最近ですか?」

「うん。と言っても昨日の話だけど」


 世界各地でキッカケが分からないまま出現している地下迷宮(ダンジョン)。直近で出現したダンジョンで数百年前で、出現する条件も時間も分かっていない神々が作り出したものだとされている。


 このダンジョンは地下に続いており、深いダンジョンから浅いダンジョンなど様々であり、SランクからCランクまでランク付けされている。


 ランクが高ければ高いほど階層が深く、出現するモンスターのランクも高くなる。CランクやBランクであれば隠し階層がなければ全階層を制覇されているが、AランクやSランクとなれば三階層で超強力なモンスターがいることは普通であるため制覇されているダンジョンは今現在ない。


 そしてダンジョンが神々が作り出したと言われている一番の理由は、今のところダンジョンで出現する資源が枯渇する様子を見せないからである。五百年前からあるダンジョンの素材を取りつくし、復活すれば取りつくすを続けても、今現在でも資源は尽きていない。


 ダンジョンでは鉱石が取れるダンジョン、薬草が取れるダンジョン、そこでしか取れない素材があるダンジョン、動物が出現するダンジョンなど様々種類がある。


 地上で取れる素材であればあるほどダンジョンランクが低く、地上で取れない素材があればダンジョンランクが高くなる。そのため冒険者は狙ってダンジョン攻略に向かう人が一定数いる。


「エピック・ダンジョンは二階層まで到達していましたから、三階層にたどり着いたんですか?」

「そうだよ。二階層に到達したのが五年前だったから、他のダンジョンと比べると少し遅く感じるね」

「Sランクダンジョンですから仕方がないところはありますけど、エピック・ダンジョンにあまり挑戦する冒険者がいないというのも理由の一つかもしれません」

「あぁ、あのダンジョンって物量じゃなくて質で勝負してきている感じがあったからね。一体一体がSランクモンスターをもっと強くした亜種だからそれは挑む人もいなくなるか」

「冒険者も命が惜しいですから」


 ブレイクとレヴェンの間で少しの沈黙が続いた。二人とも同じことを考えているが、それを口にすれば自身に降りかかってくると分かっているためである。


「エピック・ダンジョンって、第七支部の担当でしたっけ?」


 だがいつまでも現実を見ないわけにもいかず、ブレイクが口を開いた。


「……うん、第七支部だね」

「ということは、ダンジョン調査って――」

「待って、言わないで! それ以上言えば本当に第七支部に来ちゃうから」

「……そうですね、Sランクダンジョンですから本部がやってくれるかもしれませんね」

「そうだよ、Sランクダンジョンなんだから、支部の人間がすることじゃないよね⁉ だよね⁉」

「そうですね……」


 もはや希望にすがっているレヴェンを見て、ブレイクはレヴェンに同意する他なかった。


 どうして二人がダンジョンの三階層到達からこんな暗い雰囲気になったのか、それは冒険者ギルドの仕事の一つにあった。


 各地に存在しているダンジョンはその国が管理しており、そのダンジョンが新たな階層に到達すれば踏破した階層のマッピング及びどのモンスターが出るのか、どんな資源があるのかを国に所属している冒険者ギルドに仕事が入る。


 そして各地のダンジョンの管理及び調査は冒険者ギルド本部及び第一支部から第七支部までの冒険者ギルドに振り分けられており、第七支部はSランクからCランクまで合計十のダンジョンの管理を命じられている。


 第七支部が管理する二つあるSランクダンジョンの内の一つがエピック・ダンジョンであり、踏破したダンジョンの調査が命じられるのは時間の問題であった。


「もう、現実を見ましょう、ジェームズさん」

「……そうだよね。いい加減現実を見ようか……」


 踏破してもダンジョンにモンスターが一定時間で生成されるため安全ではない。だが安全ではないという理由で冒険者ギルドの職員が嫌っているわけではない。


 このダンジョン調査はとにかく過酷なのだ。冒険者ギルドの職員は戦闘員ではないため、相当の冒険者が安全と言えるくらいに護衛につく。調査員が少ないと感じれば冒険者ギルドの増員も可能となっている。であるから、絶対に安全と言うわけではないが、比較的に安全となっている。


 ではどうして過酷なのか、それは最低でも五日、最高でも一ヶ月間その階層に入っていなければならないのである。


 ダンジョン調査とは、言い換えればダンジョン制覇とも言え、その階層に調べ終わっていないところが何もないかを確認する仕事である。


 過去にダンジョンに隠し通路があり、その先にあった伝説級の宝物が他国に渡ったことで徹底的に調査をすることになった。


 隠し通路の開く条件はさまざまであるため、調べ尽くすためにも最低でも五日、最高でも一ヶ月、広ければ数ヶ月の期間を要する可能性があるのだ。


 そういう仕事は比較的にがさつな冒険者に任せることはなく、冒険者ギルドの職員がやることになっている。


「ジェームズさんはどれくらいダンジョン調査を行ったことがありますか?」

「う~ん……、五十回はないと思うけど、それくらいかな。ブレイクくんは三十回くらいだったっけ?」

「良く知ってますね。はい、三十三回です」

「こうして考えれば、あたしの方が冒険者ギルドで働いているのが長いのに、ブレイクくんのダンジョン調査が多いね」

「男職員ですからそういう仕事が他より回ってくるんだと思います。割り当てやすいという理由もありそうですけど」

「Sランクダンジョンの調査はやったことあるの?」

「いや、ないです。Aランクが最高ですね。ジェームズさんは?」

「一回だけあるよ。……地獄だった」


 レヴェンは過去にあったSランクダンジョンの調査を思い出したのか、青い顔をしている。そもそもSランクダンジョンはあまり踏破されないため、Sランクダンジョン調査が来ることはない。


「冒険者が一緒に来ていたけど、Sランクダンジョンって怖いんだよねぇ。安心してくれって言ってくれるけど、怖いものは怖いから」

「あー、AランクダンジョンだとSランク冒険者が来てくれれば安心しますが、SランクダンジョンだとSランク冒険者までしかいませんからね」

「そうなの! しかもSランクダンジョンの調査に向かおうとする冒険者がそれほどいないから十分な人数を揃えられない時があるから、そこも嫌なんだよね~」

「Sランクダンジョン調査の報酬はかなりしてましたよね。まぁ、それは自分たちも同じことですが」

「でも、罠とか不意に起こることはランクが高くなるほど死亡率が高いから割に合ってない感じはするかな~」


 冒険者も職員も命がけの調査は誰も望まない仕事であった。ただCランクダンジョンでも報酬は破格であるためCランクとBランクのダンジョン調査は金欠の人には人気だ。


「ジェームズさんに調査の仕事が来ても自分がしますから大丈夫ですよ」

「えっ、本当⁉」

「はい、ジェームズさんよりも自分の方が適任ですから」

(まだ行っていないからSランクダンジョンに行ってみたかったという気持ちはあったからな)


 Sランクダンジョンは死のリスクがある分、それだけ宝物が眠っている可能性が高い。それはこの世界でまだ発見されたことのない素材があるということで、ブレイクの夢を叶えるのに役立つ可能性もあった。


「本当に良いの?」

「はい。自分は≪隠密≫を得意としていますから逃げるのが専門です。ですからジェームズさんがいいのなら自分が行きます」

「……本当に?」


 Sランクダンジョン調査を進んで行う人はおらず、レヴェンは三回も聞いてしまったがその度にブレイクが頷いた。


「ジェームズさんが行くと決まったわけではありませんからね。もしかしたら他の人になるかもしれません」

「そうだよね、まだ決まっていないからこういう話をするのは先だね」


 そう話すレヴェンの表情は非常に穏やかであった。もし自身にダンジョン調査が来てもブレイクがしてくれることになったからだ。ただ、レヴェンに一つの考えがよぎった。


(もしかして、あたしのために無理して引き受けてくれているのかな? それにもしブレイクくんが行って、ケガでもしてきたら……)


 自分の代わりに行ったブレイクに何かあればどうしようという考えが浮かんできた。それならば自身が行った方が良いのではないかと考えた。


「ね、ねぇ、ブレイクくん」

「はい」

「本当に大丈夫なの? 無理、とかしてないよね?」


 レヴェンは非常に不安そうな表情を浮かべてブレイクに問いかけた。それをブレイクは本気で自身のことを心配してくれているのだと理解した。いつもは軽い感じのレヴェンであるため、ブレイクは少し驚いた。


 ブレイクはそんなレヴェンを元気づける言葉を持ち合わせていないが、自然と笑みが浮かべてきた。


「大丈夫ですよ、自分が無理とかしたことありますか?」

「うん、ある。何ならいつもしてる」

「えっ? どこら辺がですか?」

「自覚ないの? ブレイクくんはいつも無理をしているよ。担当冒険者のことやクエスト書類作業とか書類確認において、全部無理をしていると思うよ」

「……そうですか」


 ブレイクからすればそれらが無理をしているとは思わなかったため、レヴェンから言われたことに意表を突かれた顔をする。


「ま、まぁ、命にかかわることですから無理をすることはありませんよ。だって死ぬ気なんてありませんから」

「本当に本当?」

「本当に本当です。自分には夢がありますから、こんなところで死にはしませんよ」

「夢? ……それは聞いたことがなかったかな。どんな夢なの?」

「それは秘密です」

「えぇ~! 教えてくれてもいいじゃんか~」

「それは無理です」


 会話していくことでレヴェンの不安そうな表情は消えていき、今度はブレイクの夢について興味を持ち始めた。


「どうしても?」

「どうしてもです」

「どうしてもどうしても?」

「どうしてもどうしてもです」

「……先っぽだけで良いから」

「先っぽだけってどういう意味ですか?」

「……これは手強いね~」


 実を言うとブレイクは自身のことをほとんど他人に話したりしない。そのためレヴェンは隙があればブレイク自身にプライベートのことを聞くが、それでもあまり話してはくれない。


 そして今回は生きていく上で大切な夢であるため、レヴェンは何とか聞き出せないかと躍起になる。


「それは冒険者ギルドでやれること?」

「さぁ、どうでしょうか」

「どういう感じの夢なの?」

「夢にどういう感じってありますか?」

「今も目指しているの?」

「まぁ、そうですね」

「夢は何?」

「秘密です」

「あたしの夢はお嫁さんだよ~」

「それはそれは、随分と可愛らしい夢ですね」

「はい、ブレイクくんの番だね!」

「すみません、言えません」


 こうしてしつこく聞いてもブレイクは一切答えようとしない。ここで救いなのがいくらブレイクに聞いてもしつこいと怒られないため、めげずにレヴェンや他は聞いているところがある。


「もぉ! いつになったら言ってくれるの⁉」

「さぁ、夢が叶った時だと思います」

「教えてくれたらあたしが手伝えるかもしれないよ?」

「いえ、自分の力で叶えるので大丈夫です」

「……本当に手強いね」

「レヴェンさんはしつこいですね。しつこくても教えませんよ?」


 全くと言っていいほど夢について引き出せないことから、ブレイクが本当に教える気がないのだとレヴェンは思った。


(魔導技師になる夢は別に恥ずかしいことではないが、それが実現不可能となれば何を言われるか分からない。応援してくれてもそれが実のならなければ応援してくれた人にも申し訳なくなる。だから俺は叶うまで言わない)


 ブレイクは叶えられるかどうか分からない状態であるため、誰にも言わないようにしている。だが基本的に自分のことを言うのを好きではないブレイクは夢など大層な目標を言うつもりは最初からない。


「……そっか、それならもう聞かないね」

「それはありがたいです」

「でもあたしが手伝えることがあったら何でも言ってね。顔だけは広いから」

「ありがとうございます、その時は頼りにさせてもらいます」

「お姉さんに任せなさい!」


 頑なに教えずに冷たくしたことにブレイクは少し罪悪感を覚えたが、レヴェンの方はいつか夢のことを聞き出してやると目に闘志を宿しているのだった。

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