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クエスト完了後

 冒険者ギルドは基本的に外部から依頼を受け、それをランクに合っている冒険者に受注してもらい、外部の依頼を完了させる。


 クエストの種類は主に四つであり、討伐、採取、護衛、探索である。クエストとして圧倒的に多いのは討伐と採取である。


 商業ギルドや村が依頼する討伐クエストは、本来の生息域ではないモンスターがそこに居座り道中の邪魔をしてくるのが主な理由である。


 だが他の理由にも、鍛冶屋や錬金術師、ポーション屋が素材を求めて強力なモンスターを討伐してその死体から取れる素材を求めていることもある。


 討伐依頼や採取依頼のクエストが完了した時、基本的にその素材は直接依頼主に持っていくわけではない。そのクエストの素材がキチンと条件に合っているかを冒険者ギルドが確認し、良ければクエストが完了して冒険者は報酬が手に入る。


 そしてその素材は冒険者ギルドの職員が依頼主に送ることになっている。その方法は複数あり、多く取られる手段は宅配ギルドにお願いすることである。他には素材が大きく担当冒険者なら冒険者に手伝ってもらう方法や冒険者ギルドの職員が直接送ることもある。


「どうして私がこんなことをしないといけないんですか~」

「文句を言うな。仕事だ」

「仕事って、仕事が彼女なんですか~?」

「それならお前は仕事が彼氏か?」


 冒険者ギルドでAランクモンスターから取れる貴重な素材である淡い光を放っている手のひらサイズの星光玉を持ちながらブレイクは歩いており、その隣には茶髪をミディアムショートにしている文句を垂れ流している生意気そうな女性、ジュリア・ウォーカーがいた。


 ジュリアはブレイクの後輩に当たり、ブレイクが冒険者ギルドで唯一敬語で話さない相手であった。そしてその理由は誰が見ても明らかだった。


「あはっ、先輩は面白い冗談を言いますね。先輩とは違って友達がいっぱいいる私が仕事が彼氏なわけないじゃないですか~」

「そうかよ。それなら彼氏はいるのか?」

「保留なら数人いますけど今はいないですね。……あっ、ぷぷぷっ! もしかして先輩は彼女がいたことがないんですか~?」

「さぁ、どうだろうな」

「それはいたことがない人の言い方ですよぉ? そんなに恥ずかしがらなくても良いですよ~」

「うっざ」

「嫌よ嫌よも好きの内ですか~?」

「はいはい、好き好き大好き」


 さっきからジュリアにうざいほどに話しかけられているブレイクは適当に答えながら依頼主の方に歩いて行く。だが適当に答えてもジュリアはブレイクに話しかける。


「ねぇねぇ、先輩先輩」

「俺の先輩はラミレスさんとかジェームズさんとかだな」

「は?」

「何でもない。それで?」

「先輩って休みの日は何してるんですか?」

「引きこもり」

「ぽい」

「そうだろ? そういうウォーカーは何をしてるんだよ」

「そんなに私の休みの日が気になりますか~?」


 会話の至る所で言わなくてもいいような要らない言葉を入れてくるジュリアであるが、すでにブレイクはジュリアとは二年ほど働いている仲であるため気にせずに言葉を返す。


「気になるなぁ、可愛いウォーカーが休日に何をしているのか気になるなぁ」


 ブレイクがノリに乗ってジュリアにそう言うとジュリアは一瞬だけ動きが止まったが、すぐに答えた。


「そ、そんなに気になりますか~、それじゃあ仕方がありませんね~。気になる先輩のために答えてあげます!」

「気になるわぁ」

「その言い方うざっ。……いつもは友達と一緒に出掛けていますよ」

「へー、男友達なのか?」

「いいえ、女友達です。あっ、私がいつも男友達と遊んでると嫉妬しちゃいますか?」

「いや全然全く微塵も心の底からどうでもいい」

「そんなこと言って、気になっているんじゃないんですか?」

「俺の目を見てそれが言えるか?」


 ブレイクは止まりジュリアをジッと見つめて心底どうでもいいという死んだ目を見せびらかしている。だがブレイクと目を合わせたジュリアはそう言うわけにはいかず、心臓が止まりそうになっていた。


(沈まれ私の心臓! ただ見つめ合ってるだけだよ⁉ それなのにどうして心臓がこんなにバクバクしているの⁉)


 もはやジュリアがブレイクの目を見つめ続けることは不可能で、ジュリアは目をそらして口を開き歩き始めることでブレイクも歩き始める。


「そうみたいですね、今は」

「今とか後とかないから」

「えぇ? 本当ですか~? 我慢しちゃってるんじゃないんですか~?」

「我慢? 何に?」

「ほら、私の可愛さに」

「はいはい、かわいいかわいいー」

「うっざ」

「さっきからその声の〝うっざ〟はやめてくれない? 傷つくから」

「先輩も言ってるじゃないですか」

「俺のは良いんだよ。言っても効果がない相手なんだから」

「本当に、そう思っていますか?」


 珍しく真面目な顔をしているジュリアであるが、ブレイクは冷たい表情をしながら頷いた。


「ひどーい! 可愛い後輩を傷つけた酷い先輩がここにいる!」

「それは大変だ。仕方がない、ここは俺に任せて先に行け。これはきっと役に立つはずだ」

「玉を渡そうとしないでください! それに私一人だけだとあの人会ってくれないじゃないですか!」

「傷つけてしまったんだ、何とか会ってもらえ」

「そもそも私が行くのがおかしい話じゃないですか! 私が傷ついているんですよ⁉」

「それはそれは……」

「途中でやめないでくださいよ~!」


 こんな感じで職場でもブレイクとジュリアはいつも会話している。冒険者ギルドで一番ブレイクと話しているのはジュリアである。


「ついたぞ」

「うげっ、もう」


 そうこうしている内にブレイクたちの目的の場所である、壁にツタが生えている少し年季が入っている家にたどり着いた。


 付いたことで二重の意味で嫌な顔をした。来たくなかったという意味とブレイクと二人きりの時間が半分なくなったという意味の二つであり、もはや諸刃の剣である。


「それじゃあ俺が持っていくから」

「待ってください。私が持っていきます」

「おぉ、珍しく頼もしい顔をしている」

「珍しくは余計です」


 ブレイクを制止してジュリアが前に出た。そしてブレイクから星光玉を受け取って家の扉の前に立つ。


「すみません、先輩。声だけはお願いしても良いですか?」

「あぁ、構わない。というかそれなら俺がした方が――」

「いいえここは私がやりますから先輩はお声掛けだけお願いします」

「あ、あぁ」


 普段では考えられないジュリアの圧を感じたブレイクは素直に了承して、いつも放っている言葉を少し離れた場所から家に向けて放った。


「ジェネシスさん! ジェネシス・グディレスさん! 依頼された素材を持ってきました!」


 ブレイクがそう言うと家の中から誰かがせわしなく動いている音が聞こえてきて、その足音は家の扉の近くまで来た。


「ブレイク!」


 そしてフードを深くかぶった声からして女性が嬉しそうな声音で勢いよく扉から出てきたが、目の前にいたのはブレイクではなくジュリアであった。ジェネシスと呼ばれた女性は、ジュリアを見て固まっている。


「先輩じゃなくてすみません。でも良いですよね、先輩じゃなくても素材は渡せますから。はい、これが素材――」


 ジュリアが笑顔でそう言いながら素材を渡そうとするが、状況を理解できたジェネシスは素材を受け取らずにすぐさま家の扉を閉めた。


「帰れ! お前など必要ない!」

「えぇ? どうしてですか~? 素材を受け取ってもらわないと私はここから帰れないんですけど~」

「後ろにいるブレイクにかわれ! そうじゃなければ絶対に受け取らないぞ!」

「困るんですよねぇ、そういう駄々は。いい大人なんですからいい加減にしてくださいよ」

「最初に言っているぞ! 私はブレイクからしか受け取らないと! それを守っていないのはそちらの方だ!」


 頑なにジュリアから受け取ろうとしないジェネシスに、ジュリアは苛立ちを覚えた。そもそもジュリアはこうして全く相手をしてくれない態度が嫌いであり、一刻も早くジェネシスから離れたいと思っているが、そうすればジェネシスがブレイクに近づく恐れがあるためこうして自身が渡そうとしている。


「先輩も忙しいんですから、受け取ってください! 私の手から!」

「忙しいのならブレイクが渡してくれれば良いだろうが! 早くブレイクに替われ!」

「嫌です~! ブレイク先輩のお手を煩わせるわけにもいけませんから~!」

「何度言えば分かるのだ! この女郎は!」

「女郎で結構で~す!」

(なんだ、この不毛で子供じみた争いは……)


 ジュリアとジェネシスのやり取りを見ているブレイクはどうしてこんなやり取りになっているのか理解できなかった。


(俺が渡せば済む話じゃないのか?)


 どうしてこんなやり取りをしているのかイマイチ理解していないブレイクは、こういう感情には少し疎いところがあるため冒険者ギルドの職員が苦労しているところである。


「私が――」

「ブレイクが――」

(えっ? いつまで続ける気なんだ?)


 いつまで経っても誰が渡すかを揉めているジュリアとジェネシスを見て、ブレイクは手早く終わらせる方法を選んだ。


「ウォーカー、俺が渡すから俺に渡してくれ」

「先輩は下がっていてください! これは女の闘いなんですから!」

「えっ? 素材を渡すだけで何でそんなことになっているんだ?」

「良いから先輩は下がっていてください!」

「でも早く終わらせないとまだ仕事が残っているんだが……」

「そんなものは私が手伝ってあげますから!」

「いや、手伝っているのはいつも俺だろ。仕事が終わらないのはウォーカーだ」

「その時はブレイク先輩が手伝ってくれるから大丈夫です!」

「いっつも手伝う前提で話すのをやめてくれない……、まぁ手伝うけど」


 一番に仕事が終わるのは支部長のグレイスで二番目に仕事が終わるのは副支部長のブレイクと、地位が高い順で仕事が終わる。


 だが冒険者ギルドの仕事は新人や不慣れな職員は終わらせることができないため、ブレイクがいつも手伝っている。見過ごすことができないブレイクは同僚に甘々であった。


「ブレイクがそこにいるんだろう! ブレイク~! 早くこいつとかわってくれ!」

「こう言っているけど? ていうかいつまでもここにいたら支部長に怒られるぞ」

「……仕方がありませんね、ここは最終手段を使うしかありませんね」

「最終手段?」


 ジュリアがそう言うとブレイクに抱き着こうとしてくるが、ブレイクは軽々と避けた。


「何で避けるんですか~」

「いや、何か反射で」

「こんな可愛い後輩が抱き着いてきたら抱き返してくるのが普通ですよ~」

「いや、知らんけど」

「ほらもう一回チャンスを上げますから、今度は受け止めてくださいよ!」

「いや、そのチャンスは要らんな」


 再びジュリアがブレイクに抱き着こうとするものの、ブレイクはひょいひょいと避ける。


(なんかありそうで怖いんだよな。痴漢か何かで突き出されてお金を要求されそうで怖い)


 最近セクハラの告発が増えていることもあり、ブレイクはボディタッチや距離をゼロにすることすらしないようにしていた。


(どうしていつも避けるのこの先輩⁉ 普通の男なら受け止めてくれるのに!)


 一方のジュリアはボディタッチすらさせてくれないブレイクの鉄壁の守りに少し怒りを覚えていた。だがそんなジュリアを露知らず、ブレイクはジュリアが無防備に持っている星光玉を取った。


「意味が分からんから俺が渡す」

「あっ! 返してください! 奪うなら他のモノにしてください!」

「いや、意味が分からん」


 ブレイクは玉を奪って来ようとするジュリアを肩を持って抑えながらジェネシスに向かって声をかける。


「グディレスさん、自分が渡しますから出てきてください」


 ブレイクがジェネシスに向かってそう言うが、扉の近くにいるはずのジェネシスから反応がなかった。


(……あぁ、そういうことか。あまり名前で呼ぶのは慣れてないんだよなぁ……)


 ジェネシスから反応がない理由をすぐに理解できたブレイクは、今度はジェネシスの性ではなく名で呼ぶことにする。


「ジェネシスさん、出てきてください」

「よく来たブレイク!」


 ブレイクがジェネシスの名前を言うとジェネシスは嬉しそうな声音で飛び出してきた。そしてジェネシスを家に連れ込むために腕を掴もうとする。


「そうは問屋が卸しません!」

「なに⁉」


 先にブレイクの腕をジュリアが引っ張りジェネシスがブレイクの腕を掴めなかった。さらにジュリアは星光玉をブレイクから奪いジェネシスに投げた。


「これで依頼は完了です!」

「希少な素材を投げるな――ってどこに行く気だぁ?」


 ジェネシスが慌てながらも上手く受け取ったことを確認しながら、ジュリアはブレイクの腕を引っ張ってジェネシスの家から離れる。


「ブレイク⁉ 覚えておけよそこの女ァ!」


 ジェネシスは家から出ることがないため負け犬の遠吠えみたいなことしか言えず、無事にブレイクを連れ出すことに成功したジュリアであった。


「ふぅ~、無事に成功しましたね」

「いや、無事じゃない場合がないだろ」

「先輩は少し自分の身を案じたらどうなんですか⁉ 少しそこら辺が緩すぎますよ!」

「いや、それをウォーカーが言うか?」

「私はしっかりと男を手懐けているから良いんですよ!」

「……可哀想に」


 ジュリアに腕を抱き着かれながら引っ張られているブレイクは、なぜかジュリアに怒られている状況になっていることが理解できなかった。


 さらにジュリアの周りにいる男たちが犬のように扱われていることに哀れに感じたブレイクであった。


「良いですか先輩、女は狡猾で賢くて隙あらば狙ってくる生き物なんですよ? 先輩みたいに耐性がない人がいたら、野に翼を折られて放たれている鳥と同じで肉食動物に狙われてしまいます」

「そこは心配するな。俺を美味しそうに見える肉食動物はいないからな」

「は?」

「えっ? 何でそこでキレているんだ?」

(はぁぁぁぁっ……、この先輩は本当にどうにかしないと……)


 ジュリアはブレイクの自己評価の低さに一瞬だけキレそうになる。ブレイクは自分が女性から好意を受けるはずがないと信じ込んでおり、それが病的なまでであった。


「良いですか先輩――」

「あっ、サリヴァンさん!」


 ジュリアがブレイクに自己評価を改めさせようと口を開いた瞬間、少し息を乱して汗だくになっている長い金髪をお嬢さま結びではなくお団子にしている女性、オータムがブレイクに話しかけてきた。


「こんにちは、サンチェスさん」

「こんにちは、サリヴァンさん。お仕事ですか?」

「はい、依頼の素材を送り届けたところです。サンチェスさんは走り込みですか」

「はい、サリヴァンさんの言いつけ通り走っています。今は≪疾走≫のスキルを手に入れました」

「≪疾走≫ですか。まだ一週間も経っていませんが早いですね。その調子なら≪疾風≫になるのも時間の問題ですね」

「はい! こうしてスキルが手に入って進化していくのを実感しているとワクワクします。今までどれほど無駄な時間を過ごしていたかを実感しています」

「スキルを手に入れる条件やスキルが進化する条件を知っていればそんなこと容易いですからね。この調子で頑張ってください」

「はい、頑張ります」


 ブレイクと会話したことでオータムは元気よく走り去っていった。ブレイクはオータムの後ろ姿を見えなくなるまで見つめていたが、すぐに見えなくなったことでジュリアの方を向いた。


「それで? 何か言いかけていただろ」

「……先輩って、本当に熱心に冒険者と関わりますよね」

「そうか? 熱心というほどでもないと思うが、まぁ仕事だし」

「本当に不思議な先輩ですね」

「何だよ、その奇異なものを見る目は」

「褒めているんですよ!」

「絶対に褒めていないから、それ」


 冒険者ギルドの受付と担当冒険者はそれほど深いものではない。担当冒険者が何かしたいがどうすれば良いと聞かれれば、受付はその担当冒険者の能力に見合った方法を提示する。


 その他にも無理なクエストに向かおうとすれば止めたりするが、基本的に冒険者の自由であるため完全に止めることはできない。


 そんな中でブレイクは担当冒険者に合わせたカリキュラムを組み上げることで、担当冒険者を強くしているのが有名である。


 ただ、そんなことをする冒険者ギルドの職員はブレイク以外に存在していない。狙っている担当冒険者でない限りそこまで時間は割かない。冒険者ギルドですることはいくらでもあり、忙しいからである。


「褒めてますよ~! 冒険者のために一生懸命にするブレイク先輩は格好いいですから!」

「……そんなに格好いいものではないだろ。頑張るのは冒険者で、俺はその道筋を立てているだけ。そんなことを言われたら逆に気持ち悪くなる」

「そんなことばかり言っていると、逆に相手を不愉快にさせますよ。現に私は不愉快になっています」

「そうか、それは何よ――痛いッ、脇腹をつねるな」

「先輩は私に対しては一言多いですよね!」

「ははっ、そっくりそのまま返してやるよ」


 敬語で話していないだけはあり、ブレイクはジュリアに遠慮なく話している。だから最終的にはジュリアにつねられたり足を踏まれたりなどしている。


「もう、この先輩は……。私じゃなければ女の子に嫌われていますよ。でも、先輩が一生懸命なのは本当です。だから副支部長になったんですから」

「俺としては不本意だがな」

(本当に、眩しいな。こんなに真面目にできる人は……)


 ジュリアはブレイクのことを敬愛の眼差しを送りながら冒険者ギルドに帰り、支部長に怒られたことは言うまでもない。

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