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ホーリー・ダンジョン

 ダンジョン調査はAランク、またはSランクであれば本部に話が通り、本部から実績のある支部の冒険者ギルドの職員が選ばれる。


 だが、BランクとCランクはランクと危険度が低く踏破される階層は多いため一々話を通していては渋滞してしまう恐れがある。そのため、BランクとCランクのダンジョン調査はその支部が独自に人員を派遣していいようになっている。


「準備は良いか? ブレイク」

「いつでも良いですよ」


 Bランクダンジョン〝ホーリー・ダンジョン〟の五十五階層が踏破されたことで、ブレイクはSランクダンジョン調査のウォーミングアップのためにダンジョン調査の同行をSランク冒険者のスカーレットにお願いしたところ話し終える前に承諾してくれた。


 ダンジョン調査は立派な仕事のため、冒険者ギルドでの給料も入りなおかつダンジョン調査の報酬も入るため、安全が保障されていれば美味しい仕事であった。


 BランクダンジョンでSランク冒険者を同行してもらえるのならこの上ない安心を持つことができるとブレイクは思ってスカーレットにお願いした。


「それじゃあ行くか」

「はい、今日はお願いします」

「ブレイクのためだ、任せとけ!」


 合法的でスリルがある場所に二人きりで行けるダンジョン調査に、スカーレットは胸がときめいていた。何せいつもはブレイクが誰かに頼む前に、Sランク冒険者(どろぼうねこ)が現れるためスカーレットに話が行くことがなかった。


 だが今はそのSランク冒険者が誰もこの場所にいないため、スカーレットが独り占めできるということでとても上機嫌であった。


「背中に乗って行くか?」

「さすがにそれは遠慮しておきます」

「それじゃあお姫様抱っこか?」

「いや、それはもっと遠慮しておきます」

「少し戦いづらいが、前に抱き着くか? それならお互いに鼓動を感じられるから良いけど」

「いや、抱き着く前提をやめてください」

「何だよ、抱き着きたくないのか?」

「そう言うことじゃないですよ。自分は走って行きます」

「了解、疲れたら言ってくれ。強制的にお姫様抱っこをしてやるから」

「……そうならないように頑張ります」


 スカーレットの本気の言葉を薄々気付きながらも、ブレイクは走り始めた。そのブレイクにスカーレットが軽々と並走しながら進んで行く。


「ブレイクはあたしたちを強くすることができるのに、どうして自分を強くしないんだ?」


 二人で走るという状況にスカーレットは笑みを隠しきれていないが、その状態でブレイクに話しかけた。


(えっ? 何でアレンさん、笑みを浮かべているんだ? ホーリー・ダンジョンでそんなに楽しみな要素はないと思うんだが……、まぁ良いか)

「前に自分が言った取得可能スキルというのを覚えていますか?」

「あぁ、覚えているぞ。ユニークスキルでない限り、あたしがそう願っていれば取得可能スキルになるだったな?」

「はい、そうです。スカーレットさんみたいにその拳ですべてを貫きたいと思えば、そう願ったスキルが取得可能スキルになります。でも、自分みたいに戦うスキルを望んでいなければ取得可能スキルに戦闘スキルが出ることはありません」

「どうしてだ? 強くなった方が便利だぞ?」

「……強くなった方が便利でしょうけど、自分は根っからの臆病者なので向かって戦って行く勇気がないんですよ。だから誰かの手伝いをしたりとかしかできません」

「……そうか。でもブレイクみたいに人の役に立つことは強くなるよりもすごいことだと思うぞ? 強くなることは誰にでもできることだけど、人の役に立つことは誰にでもできることじゃないからな」

「そうですか、そう言ってもらえると嬉しいです」


 ブレイクは大したことではないと思っているが、Sランク冒険者を二十一名作り上げたことは偉業であると言わざるを得なかった。


 現Sランク冒険者はブレイクが作り上げた冒険者を除けば七十六名であるため、ブレイクが約六年間でSランク冒険者を二十一名も作り上げたのは凄まじいことであった。


 ただブレイクにとってはスキルを使って指示を出して着々と実力をつけていったSランク冒険者の彼女たちを見ていたことから大したことではないと思っている。


「どうした? 速度が落ちているぞ? 抱っこするか?」

「ふぅ……いえ、大丈夫、です」


 涼しそうな顔をしているスカーレットとは裏腹に、ブレイクは少しだけ疲れていた。スキルも魔法を使っていないブレイクの身体能力は一般人よりはあるが、騎士や冒険者ギルドの同僚より劣っていた。


 その原因は自身の引きこもり体質であることはよく分かっており、これが学生時代だと体力があったと自負しているが、冒険者ギルドでの事務作業と休日の勉強がここまで響いているとは思わなかったブレイクであった。


「もう少し運動した方が良いんじゃないのか? ほら、ダンジョン調査を増やすとか」

「それは、良いかも、しれませんね。……その時は、アレンさんに、お願いします」

「本当か⁉ 約束だからな!」

「はい……」


 会話していることでどんどん体力を奪われていくブレイクであるが、自身の体力のなさに情けなくなった。これだと本当にスカーレットにお姫様抱っこされる羽目になる、そう思った。


「ぐっ……うぅぅぅっ!」

「おっ、少し早くなった」


 そんなことは男のプライドとして許せないため、ブレイクは意地を張ってホーリー・ダンジョンにたどり着くまで走り続けた。


 ☆


「ハァ、ハァ、ハァ……」

「大丈夫か?」


 神殿のような大きく豪華な建物の前で、ブレイクは汗だくになりながら息を切らしていた。それをそばで見ているスカーレットは汗一つかかずにブレイクを心配そうな顔で見ていた。


「何とか、大丈夫……です」

「それでダンジョン調査はしんどいだろうから、あたしが抱っこしてやろうか?」

「いえ……、それには、及びま……せん」


 無事にホーリー・ダンジョンまで走り抜くことができたブレイクであるが、本命はここのダンジョン調査のためここで息を切らしているようではダメであるとブレイク自身も思った。


「ふぅ……、大丈夫です。行きましょう」

「あぁ。無理そうだったら言ってくれ」

「はい」


 ブレイクは息を整えてスカーレットにそう言い、スカーレットと並んでホーリー・ダンジョンの中に入っていく。


 神殿のような入り口の建物に入り、見慣れた豪華な内装を気にも留めずに進んで行く二人の前には台座の上に乗っている正八面体の青い水晶があった。


「どこから行くんだ? 五十層か?」

「いや、今回は三十層から始めましょう」

「そんなに浅くて大丈夫か?」

「今回はダンジョン調査という目的もあるんですが、素材集めもしたいので」

「ん、分かった」


 この正八面体の青い水晶はすべてのダンジョンに備え付けられている転移装置である。指定した階層に行けるわけではなく、十階層ごとにしか飛ぶことができない装置であるが、百層以上あるダンジョンもあるためそういう時は便利な装置である。


 この転移装置は誰かが置いたものではなく、ダンジョンが生成された時から置かれているもので踏破された階層も示してくれるダンジョンと同様に神々の産物であった。


「転移、三十層」


 ブレイクがそう言うと、ブレイクとスカーレットは青い光に包まれてその場から消えた。


 次にブレイクが目を開いた先には、神殿の中ではなく洞窟の中であるが光源がなくても周りが見える状況になっている。


「それよりも素材集めとかして良いのか? 仕事で来ているのに」

「それは大丈夫です。自分とアレンさんがいれば仕事はすぐに終わるはずです。Bランクダンジョンと言っても、まだ百層に到達していないので脅威度はそれほどではありませんから」

「それもそうだな。〝あたしとブレイク〟ならすぐに終わらせれるな」


 スカーレットの二人の名前を強調して言ったことにブレイクは気付きながらもスルーして歩を進める。ブレイクはこのダンジョンの鉱石がある場所を知り尽くしているため、いつも同じルートを通っている。


「ブレイクって、よくダンジョンの中にある鉱石の場所を覚えておけるよな」


 ブレイクが光の属性が付いている黄色く光っている鉱石〝ライトストーン〟を採掘している中でスカーレットが話しかけてきた。


「ダンジョンに生成される素材やモンスターは固定されていますからね。覚えるくらいなら自分にでもできますし、得意分野ですから」

「いやいや、得意分野とかそういう問題じゃないぞ。ブレイクは第七支部の管轄のダンジョンすべての情報を頭の中に入れているだろ?」

「はい」

「それがおかしいんだよ。そんなこと誰にも真似できないぞ」

「そうですか? 普通に覚えるだけですから誰でもできると思いますけど……」

「いや、誰でもはできないからな」


 スカーレットが言うように、ブレイクはこれまで手に入れた知識をすべて覚えている。ブレイクの強みは知識の量でありそこから導き出せる答えの量でもある。だからブレイクは手に入れた知識を忘れないように刻み付けている。


「っと、ようやくお出ましか」

「位置からして、そのようですね」


 スカーレットとブレイクが同時に向いた先には騎士のような剣と防具を装備している骸骨、〝スケルトン・ナイト〟が十体現れた。


「ブレイクもやるか?」

「はい、ウォーミングアップも兼ねていますから四体くらいはもらいます」

「危なくなったらすぐに助けるぞ? それかあたしが倒し終わったら」

「それは勘弁してください。自分が倒せなくなりますから」


 スカーレットは構えずにスケルトン・ナイトに歩いて行き、ブレイクは異次元空間から取り出した二本の短刀を構える。


 そしてブレイクは水面に落ちるように自身の影に入り込み、スケルトン・ナイトの影から出てきて背後に立った。そこで的確にスケルトン・ナイトの首に一撃を入れたことで一体のスケルトン・ナイトを倒した。


 さらに近くにいるスケルトン・ナイトが反撃して来る前に再び首に短刀を入れてスケルトン・ナイトを無力化することができた。


(次!)


 あまり戦いたくないブレイクであるが、それでも体を慣らすためには必要なことだと思い積極的にスケルトン・ナイトを倒している。


「あっ、ごめん。つい全部倒してしまった」

「……ルイスさん」


 三体目を倒そうとしたブレイクであったが、スカーレットが残りの八体をいつも通りに一気に倒してしまった。


 そんなスカーレットにブレイクは何をしているんだという目を向けたが、スカーレットもわざとではないがために、本当に申し訳なさそうな表情をしている。


「ほ、ほら! ここはダンジョンなんだからまた来るぞ!」

「そうですね、まだ腐るほどモンスターは出てきます。それに、本当に無意識みたいなのでそんなに謝らなくて大丈夫です」

「……本当にごめん」

「もう謝らないでください。大丈夫ですから」

「あぁ、次から気を付ける」


 基本的にブレイクは仕事の時に身内が何をしても怒りなどの感情を出すことはない。仕事だと割り切っているため、そういう思考の切り替えがしっかりとできている。


「魔石も回収していきましょう。Cランクに近いBランクとは言え、魔石は魔石ですから」

「そうだな。何か魔法性質を持っているかもしれないし」


 そう言ってブレイクとスカーレットはスケルトン・ナイトから人間でいう心臓部分に埋め込まれている魔石を取り出していく。


 ブレイクが倒したスケルトン・ナイトはもちろん魔石に傷一つ付いていないが、Sランク冒険者のスカーレットが倒したスケルトン・ナイトも魔石は無傷だった。


「どうだ? 魔法性質はあるか?」

「……三つですね。三つとも≪ホーリー≫ですね」

「ホーリーか。ここだと一番のはずれだな」

「それでもかなり使える魔法性質ですからね」


 このホーリー・ダンジョンでは聖なる属性を使える≪ホーリー≫の魔法性質がモンスターの魔石として比較的多く出現するため、その魔法性質はここでは珍しくない。


 だがダンジョンという場所は七割が闇属性が付いて回るため、ホーリーの魔法性質はそれなりの値段で取引されていることで、ここにホーリーの魔法性質を求めてくる冒険者はそれなりにいる。


 ちなみに通常の魔石の値段はモンスターのランクごとに値段が変化し、スケルトン・ナイトの魔石はBランクのモンスターの中でそれほど高くはない。


「よし、行くか」

「はい、行きましょう」


 ブレイクは魔石を異次元空間に入れ、スカーレットと並んで目的の階層まで鉱石などを採取しながら最短ルートで向かった。

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