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副支部長ブレイク・サリヴァン

 冒険者ギルド、それは個人、団体、ギルド、国から依頼を受け、その依頼を冒険者ギルドに所属している冒険者に発注する仲介役を主している組織である。


 主に依頼の仲介役をしているが、その他にも素材の買い取り、冒険者の支援、冒険者の見極め、依頼の調査などを行っている場所でもある。


 冒険者ギルドで働く人は主に女性が占めており、様々な方面の仕事をこなせる人が女性の方が多いという理由だけであった。


 何より女性からは非常に冒険者ギルドの受付嬢は職業としての人気が高く、有能な冒険者に会える、その冒険者を支えれるなどで人気であった。


 そんな中、一人の若い普通な男性が死んだ目をして対面に座る自らの上司に当たる長い黒髪を後頭部で結んでいる精悍な顔つきの女性、グレイス・ラミレスを見ていた。


「えっ?」

「聞こえなかったのか? ならもう一度言おう。おめでとう、今日からキミは副支部長だ」


 ソファーに座って足を組みその美脚を思う存分見せつけ、腕を組んで豊満な胸を強調しているグレイスの言葉を死んだ目をした彼、ブレイク・サリヴァンは聞こえていないわけではなかった。


(なんで俺が副支部長なんだよ! 副支部長ってこの冒険者ギルド第七支部のナンバー2ってことじゃないか!)


 心の中の叫びをグレイスが聞こえているわけではなく、ブレイクは表情を変えずにグレイスと相対している。


(そもそもおかしくないか? 俺はまだ二十三だぞ? それに俺よりも経験豊富な職員はたくさんいるのに、どうして俺なんだよ⁉ 断りてぇぇぇぇっ!)

「そ、そのどうして自分なんでしょうか?」


 ブレイクは断りたい気持ちを持ちながらも、グレイスに言葉の真義を問いかけた。


「どうして? 逆に聞くが、サリヴァン以外に誰が副支部長になると言うんだ? これまでのキミの働きを考えればキミ以外に副支部長に相応しい者はいないはずだ」


 グレイスのブレイクに対する評価は非常に高いものであった。しかしそれを聞いたブレイクは心の中で困惑していた。


(えっ? どうしてそんなに評価が高いん? 俺ってそんな評価を上げることをしていたのか? 全く分からんし心当たりがない)


 ブレイクからすれば普通に働いていただけなので評価が高い理由が分からなかった。心の中で困惑するブレイクを置いて、グレイスはある紙に目を落として言葉を続ける。


「冒険者からの人気ランキング、三年連続一位。冒険者ギルド内での信頼度ランキング、三年連続一位。担当する冒険者のクエスト達成率、百パーセント。担当する冒険者の総報酬ランキング、二年連続一位。担当する冒険者の死亡数、ゼロ。これらを見れば、誰もキミが副支部長になることに異議を唱える者はいないだろう」

「何ですかそのランキング」


 並べられた数々のランキングや数字をブレイクは全く分からなかった。ここに学生の頃から働いていたブレイクは当たり前のことをしていただけなので、何故一位になっているのか分からなかった。


「ここまで実績を積み重ね、冒険者ギルドの職員として有能だと証明してしまっているから、本部に引き抜かれそうになったことがあった時は引き留めるのが大変だったぞ」

「そ、そんなことがあったんですね」

(あぶねぇ~。本部とかに行っていたら絶対にやめるのが大変だったぞ。ラミレスさんに感謝だ。ていうかそんなに評価されているとか嫌だな)


 自身がそこまでだったとは思わなかったブレイクであるが、別にブレイクは嬉しくなかった。むしろブレイクは普通の冒険者ギルド職員であることを望んでいた。


「もう一度言うが、キミなら冒険者ギルド第七支部、副支部長になったとしても誰も異論はない。だから胸を張って副支部長になると良い」

「は……はい……」

(うわっ、すっっっっげぇぇぇぇいやだぁぁぁ……)


 本人は物凄く嫌な声音で返事をしたが、グレイスは普通に返事をしたものだと聞いて満足そうな表情をして頷いた。


「申請にしばらく時間がかかるが、数日もしないうちに正式に副支部長に任命するという書状が届くはずだ」

「はい……、了解です」

(いやだぁぁぁぁ、今すぐに断りたいよぉぉぉぉぉっ……)


 ブレイクの心の中ではとても嫌だと言っているが、グレイスに通じるはずがなくブレイクは引き受けてしまった。


「これで話は終わりだ、仕事に戻ると良い。このことは秘密と言うわけではないから、他の人に話しても構わないぞ」

「喋る相手なんていないですよ」

「いない? ……まぁ、キミがそう言うのならそれで良いが、相手も大変だな」

「何のことですか?」

「いや、独り言だ。気にすることはない」

「そうですか……、それでは失礼します」

(最悪だぁぁぁぁぁっ!)


 全く顔に出さないところはこの冒険者ギルドの受付をしているおかげなのだろうが、今回に限って言えばそれは最悪の形を招いてしまったと言ってもブレイクにとっては過言ではない。


 支部長室から退室したブレイクは少し歩いた後、大きく長いため息を吐いた。そしてグレイスの言葉を思い出したブレイクは、再びため息を吐く。


「どうしよう……」


 もはやどうしようもない状況だが、ブレイクはそう言わずにはいられなかった。どうこう考えても仕方がないと思考を切り替えたブレイクは仕事場へと戻っていく。


 冒険者ギルドの主な仕事は、受付と担当冒険者の対応である。担当冒険者がいつもいるわけではないため、基本的には受付をしているが、受付の他にも事務作業や依頼書の作成などすべきことは他にもある多忙な職場である。


 今日のブレイクの担当は依頼書の作成であった。裏方仕事をする事務所の扉を開けると、そこには一人の女性が机に向かって仕事をしていた。


「やっほー、支部長からのお呼び出しはどうだった?」


 ブレイクのことに気が付き手を上げてブレイクに話しかけてきたのは、茶髪が鎖骨ほどまで伸びている人づきあいが良さそうな笑顔を浮かべている軽そうな雰囲気の女性、レヴェン・ジェームズだった。


「まぁ、疲れました」

「あははっ、あの支部長が相手なら仕方がないよね~」


 ブレイクはレヴェンの隣の机の椅子に座り、机に突っ伏せながらレヴェンの質問に答えた。


「もしかして、支部長の話って副支部長の昇格の話だった?」

「知っているんですか?」


 レヴェンの言葉に少しの驚きがあったが、隠さなくて良いというグレイスの言葉があったため隠さずに答える。


「噂になってたよ。もしかしたらブレイクくんが副支部長になる顔痴れないっていう噂がね。前の副支部長が寿退社してから、支部長がブレイクくんのことを色々と聞き回っていたから余計に」

「そんな噂知らないんですけど……」

「だって噂を知った支部長から口止めされていたから。何より面白そうだったし!」

「ジェームズさんの場合は後者が本音でしょうね」

「それはどうかな~」


 レヴェンはブレイクの言葉をケラケラと笑いながらはぐらかした。ブレイクは疑問に思ったことをレヴェンに問いかける。


「そもそもどうして支部長が口止めしていたんですか? その意図が分かりません」

「ブレイクくんを驚かせようとしたからじゃない? たまに支部長ってそういうところがあるよね」

「まぁ、確かに。あの人は真面目なのか冗談が通じるのかよく分からないです」

「あの人って私生活すら謎だよね。彼氏がいるとかそういう浮いた話もないし、仕事が彼氏なんじゃないかっていうのが専らの噂だね」

「それ、本人が聞いたら怒られますよ」

「大丈夫大丈夫! そこのところはよく気を付けているから!」

「そうですか……」


 気を付けているという割には、自身の噂は聞かれていたのではないかと思ったブレイクであるが、そこは深くつっこまずに顔を上げた。


「それよりも他の人たちはいないのですか?」


 ブレイクは事務所にレヴェンしかいないという状況に疑問を抱き、レヴェンに尋ねた。


「他は担当冒険者の対応とか、ダンジョン調査とか、依頼の対応でここにいるのはあたしたちだけ」

「……つまり、この山のような仕事を自分たちだけでやれと?」

「そうとも言うね」

「そうですか……」


 ブレイクとレヴェンの視線の先には二人でやる量ではない大量の紙の山が机の上に置かれていた。決して何日も置いていたわけではなく、これが一日の量なのだ。それを二人でやるかどうかは別として。


「やりますか」

「終わるか分からないけど、終わらせないと明日がきついからね~」

「そうですね。早速取り掛かりましょうか」


 レヴェンは元々取り掛かっていた仕事を再開して、ブレイクは紙の山から仕事を適当にとって机に持っていくと仕事を始める。


 この事務作業は冒険者ギルドにて一、二位を争うくらいに重要な仕事、クエスト書類の作成が主であった。


 クエスト掲示板に張り出す紙は冒険者ギルドの職員が作成するが、ただクエストの詳細と報酬を書くだけではない。


 まずそのクエストの内容と報酬が見合っているかを精査し、クエストの内容に応じたランクを定め、クエストの内容に不備がないかを確認する。


 これらをするためにはモンスターや植物などの知識はもちろん、周りの地域の地理やモンスターの生息情報、さらにはクエストを依頼した相手の情報など、膨大な情報が必要となる作業になっている。


「そう言えば、西にある森のモンスターがまた活発化しているみたいだね」

「またですか? これで三回目ですよ」

「何だか二度目よりも活性化が増えている気がするね」

「……調査に向かった方が良さそうですね」


 こういう会話でも、西の森に異常があるという判断材料になり西の森のクエストが一時張り出されないという状況になることもある。


 そう会話している中で、レヴェンは一枚に対して三分という時間をかけているが、ブレイクは一枚に対して二分という時間をかけていた。どちらも早いが、ブレイクの方が早い。


「相変わらず早いね、ブレイクくん。その調子でジャンジャンやっちゃって!」

「頑張ります。とりあえずやれるところまでやりましょう」

「そうだね~。……それにしてもブレイクくんは頑張り屋さんだよね。惚れちゃうくらいに」

「いきなりどうしたんですか?」


 レヴェンは仕事をしながら突然ブレイクのことを褒めた。ブレイクはそのことに資料に目を通しながら答えた。


「いやね、冒険者ギルドに入れば、ブレイクくんみたいな良い人が山のようにいるのかと思ったけど、それほどじゃないと思って」


 このレヴェン・ジェームズは冒険者ギルドで良い人を見つけるという理由で入ってきた女性であった。冒険者ギルドには将来有望、もしくは有名な冒険者、顔が良く金を稼ぐことができる男性とたくさん出会えると思っていた。


 だが現実ではそう上手くいかず、レヴェンが出会う冒険者はことごとくがレヴェンの譲れない一線を越えている冒険者ばかりであった。


「あの人はどうしたんですか? あのBランクの剣士の人は」

「あぁ、ライトね。一回食事に行ったけど、自分のことしか話さなくてつまらなかったからそれっきり」


 レヴェンは冒険者ギルドの中で有能な部類に入り、その容姿ゆえに冒険者から人気があるためよく誘われるが、ことごとくレヴェンにフラれている。


「それで何回目ですか?」

「さぁ、そんなこと覚えてないよ。でも、もう冒険者に夢を見るのはやめようかなって思うくらいにはお誘いを受けたと思うかな」


 そもそも冒険者ギルドに受付嬢として入り、冒険者に恋をする、冒険者を支えるという話が少女や乙女に広がったのは、おとぎ話での勇者と受付嬢との恋物語や、最近では五十年ほど前に実際にあった汚名を着せられた冒険者と冒険者の無実を信じた受付嬢の話であった。


「まぁ、冒険者たちは良くも悪くも冒険者ですから性格に一癖二癖はありますよね」

「はぁ~、すぐ結婚できると思ってたんだけどなぁ。あたしって有能で美人だから人気が出て、そこから選り取り見取りだと思ったけど、そうじゃなかったな~……」

「ジェームズさんなら良い人がきっといますよ」

「そう言うならブレイクくんがもらってくれても良いんだよ?」

「また冗談ですか。勘弁してください」

「今回は冗談じゃないって~。どう? 今度一緒にご飯でも食べに行かない?」

「すみません、少し忙しいので」

「そっかぁ……はぁ」


 このレヴェン・ジェームズという女性、ブレイクがここに男手要因として呼ばれている頃にこういう手の話でからかっていたことがあったため、今ではブレイクに本気になっていたとしてもこうして軽くかわされている自業自得な結果になった。


「ふぅ……」

(何で俺、冒険者ギルドで働いているんだろ……)


 一方のブレイクはレヴェンのことを全く意に介しておらず、こうして仕事をしていることに憂鬱な気分になっていた。


(冒険者ギルドで働くことも悪くはないが、やっぱりやりたいことをして生きていきたいと思ってしまう)


 ブレイクは冒険者ギルドで働くのではなく、魔導具技師として働くことを望んでいた。だがブレイクにはその才能が一切なく、働くことは困難だった。


 それでも夢を諦めきれないため、こうして冒険者ギルドで働きながら魔道具を一人で開発するという生活をしているが、ついに冒険者ギルドで副支部長になるにまで至ってしまった。


 そんな少しの表情の変化を見逃さないのが好きになってからこっそりと見ているレヴェンであった。


(どうしたんだろ? 何か悩み事でもあるのかな? もしかして副支部長になったことが不安なのかな?)


 当たらずも遠からずな考えをしているレヴェンは横目でブレイクのことを見ている。そんなブレイクの横顔を見ていると、段々と自身の顔が赤くなっているのが分かってくる。


(やだ、どうして顔を見ているだけで熱くなっているの⁉ 乙女じゃないんだから!)


 何とか顔の熱を収めようとするが、それでもブレイクの横顔から目が離せないでいた。


(あたしって、本当の恋をしたことがなかったのかなぁ~。こんなに目が離せないでいたことなんてなかったなぁ。って、乙女か! あたし!)


 レヴェルは自分の気持ちにツッコミながらも仕事を進め、何とかブレイクとレヴェルの二人で大量の仕事を一日で終わらせることができた。

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