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星の願いを、あなたとともに  作者: しろみりん
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とっても優しい…あの人は誰?



―まあ、本当に美味しい!ほかの人にも教えてくるわ!

―待っ…!

―あ!ねえこれを食べてみて?とっても美味しいのよ

―こんなもの見た事がないなあ、どれ…、本当だ!とても美味しいね

―ふふ、あの人が教えてくれたの。とっても優しい人ね



―お前たちは禁忌を口にした。罰として男には労働の苦しみを、女には産みの苦しみを。原罪を背負い、楽園から追い出されるがいい

―君のせいだ!君に勧められて食べたせいで…

―そんな…私、私は…本当に美味しかったから、分けてあげたくて…

―…ごめん…俺の、せいだ……

―ちが、…リンゴを持ってきたあなたを責めてなんてないわ…

―…これからは区別するため名前をつけようと思う。俺は…アダム、君はイヴ。……お前は、狡猾なヘビだ

―………ごめん…イヴ…

―…いいえ、ヘビさん。あなたは悪くないわ……





―ああ、寒い!手が痛い!楽園の外はなんて不便なんだ!

―アダム、スープを作ったわ

―ああ、ありがとう

―…ねえ、ヘビさん。あなたも一緒に…

―え…

―そんなやつには食わせなくていい!イヴ、君は俺の妻だろう!

―…そうだけど、でも…ヘビさんも料理を手伝ってくれて

―俺の家から出て行け!俺とイヴの前に、二度と現れるな!!

―…………

―…アダムがごめんなさい…。とてもお父様を慕っていたから、まだショックなの

―…いいんだ、イヴ。僕は、確かに汚い感情で…君にリンゴを勧めたのだから―――










「……………」


誰にも邪魔をされず、目を覚ました。ヴァレミーの姿はもうない。もう仕事に行ったのだろう。

ぐっすり寝たはずなのに…なぜか頭はとても疲れていて、倦怠感でいっぱいだ。

頭に残っていたのは、そこはかとない既視感。朧げな記憶の、途切れ途切れの点をどうにか線へと紡いでゆく。


"とって…やさし…人………"



……とっても、やさしい人………。瞬間、ほんのかすかに思い起こされた遥か遠い記憶。優しげな黒い目と………綺麗な銀の鱗…。はっきりとは思い出せないけれど輪郭は浮かんでくる。浮かんでくるそれは、絶対に"人"などではなかった。

なのにどうして"私"はやさしい人と言ったの……?



………私?私…私が、そう言った………。どうして?この記憶は、一体なに?











-ヴァレミラン視点-


「では、星占いの儀を始めます」

「………」


王族と、この国で最も魔力の高い者、そして補佐の魔法使い2人とともに星の巡り合わせが最も揃うこの日、1/1に星の運命を占う。

国の目的は、永遠の存続。悪い運命が出ればそのための備えをし、良い運命が出ればより繁栄させるために法改正や経済の活性化のため工作をする。

とはいえ、かなり大雑把なものしか未来を読むことができないので、例えば特定の個人の生き死になんかは分からないのだが。


王と第一王子を目の前に、手元の水晶へ3人の魔力を入れてゆく。

いつも通りであれば、開始3分ほどで見えてくるはずのものが、なぜか今年だけは…5分、10分と経っても見えてこなかった。異常事態に、タラリと汗が一粒落ちる。ここで手を離せば今年の星占いは何も読めないまま終わってしまう。そうなるわけにはいかない。


「…どうした。まだ読めぬか」


王が、痺れを切らしたように発する。


「…父上。何やらおかしいようです」


第一王子も続いて発した時。右隣からどさりという音がした。


「!」


補佐の一人が倒れたのだ。もう10分以上、全力で水晶に魔力を注いでいる。容量のある者を選んだとはいえ無理がある。横目で倒れた男の顔には、紫色の血管が浮き出ておりドクドクと脈打っていた。…典型的な魔力の枯渇による衰弱。


「父上、衛生兵を…!」

「動くな。まだ儀式は終わっておらぬ」


集中力を切らせるわけにはいかない。王の判断に感謝しつつ手元へ意識を向けた時、左側からも異変が見られた。


「っ…ヴァレ、ミラ……ッ様…」

「……っ」


もう一人の補佐も限界のようだ。右の補佐はまだ意識を失っていたから良かったが、もう一人の補佐は自分の限界以上の魔力を放出してしまいそうになっている。そうなれば生命の危険が伴う。


「後は俺がやる!早く手を離せ!」

「……ッすみ、ませ……ん」


そうして、左側からもどさりという音がした。

補佐がいない分、俺がやるしかない。注ぐ魔力の量を3倍に増やしたが、1分ももたないだろう。このままだと俺も……。


チカチカと目に光が走る。頭が鳴るように痛い。関節のきしむ音が、どうにも耳障りだ。呼吸が浅くなる。駄目だ。意識を保て。心臓が痛い。足先の感覚が消えてゆく。喉が張り付いて息が。脈が少しずつ静かになっていく。指が動かない。意思とは裏腹に瞼が落ちてゆく。もう駄目かもしれない。ああ。イヴ………。





途端、水晶からまばゆい光が発せられる。ヴァレミランは驚き、手を離した。意識を失う寸前の事だった。

けれど、光の中で見た光景に、心臓が止まりそうになった。




「………ヴァレミラン。平気か」

「……はい、王」

「なんとも力強い光であった。一体何が見えた?」

「…………」

「ヴァレミラン、父上が仰っているんだ。早く未来を」

「…申し訳ございません。私が見たのは11年後の星の姿です」

「ほぉ…いつもより少し遠いな。それで?」

「11年後……この星は、流星群ともに消えてゆきます」


正直に答えると、2人とも言葉を失い…第一王子は声を荒げた。


「…!!ヴァレミラン、何を言っている!?創生より続くこの国の王に、この代で星が滅びるというのか?不敬ではないか!」

「落ち着け、アーラム。…ヴァレミラン、続きを」

「はい。私が見たのはほんの一瞬、夥しい数の星が、この星を弔うように最後の光を放ち、そして消えてゆきました。それを合図にこの星も…全ての生き物は眠りにつき、光となり消えました。他に数点、見えたものもあります。あくまでこれは何もせずに11年後を迎えた場合。点を読み解けば回避することも可能でしょう」

「…うむ。では早速読み解く作業に入ってくれ、今後はそちらを最優先事項とし職務にあたれ。必要なものがあれば遠慮なく言うがいい」

「有難うございます。では早速…、私は衛生兵を呼んできますので、失礼します」


ヴァレミランが去り、王と王子は言葉を交わす。


「先程の未来は本当にあるのでしょうか」

「星占いが外れた事はない。あの未来は変えない限り、必ず訪れる」

「しかし……」

「信じがたい気持ちは分かる。けれど起こるのだ。…………罰、かもしれんな」

「…何か?」

「いいや、なんでもない。後は兵がやってくれるだろう、休みなさい」

「…はい」


王子も去り、王は空に向かって呟いた。



「すまない……リシューリカ…」











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