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星の願いを、あなたとともに  作者: しろみりん
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神様仏様、ヴァレミラン様



―ああ、なんて良い天気なのでしょう。洗濯日和ね

―やあ、そこで木の実を見つけたんだが一つどうだい?

―変ね、一度も見たことがない木の実だわ?こんなもの、いつからあったのかしら―――








ドアをノックする音が聞こえる。またいつもの、簡素な朝餉の時間か。


目が覚めたのはいつもの朝7時。一体何時間寝たのだろう。生まれて初めて熟睡できたかのように、頭も体もスッキリと目覚められた。


「失礼します」


声と共に、いつもの嫌味おばさんが入ってくる。口を開けばネチネチと重箱の隅をつつくような嫌味ばかりで嫌になる。早く担当が変わってほしい。絶対姑にしたくないタイプだ。

そういえばさっき、ノックしていたような…、今までそんなもの全くしてこなかったのに急にどうしたんだろう。


「………チッ。朝食をお持ちしました」

「ど、どうも」


あれ、いつもの嫌味が来ない。その代わり舌打ちは聞こえたけど。てかめちゃめちゃしかめっ面で機嫌悪そうだなあ、皺になるぞババア。


「……………」

「……………!」


無言で料理を机に並べるメイド。なんでかいつもより少し美味しそうで量も多い。


「…おいしそー…」

「………チッッ」


思わず感想を呟くと、途端に上から舌打ちが飛んでくる。嫌味ババアから舌打ちババアに進化でもしたんだろうか。まあいつもより静かに食事出来そうだからいいんだけど。


タマゴサンドにたっぷり野菜のミネストローネ、ベーコンポテトとホットミルク。味も量も申し分なく、とても美味しく頂いた。

食べ終わるや否や1秒でも早く去りたいとばかりに食器を回収し、机に干し肉のようなものとライ麦パン1つを置いて速攻メイドは出て行った。力任せに扉を閉めたので少々うるさくはなったけど、メイドに暴言や嫌味を言われない朝は初めてだ。というか、もしかしてお昼ご飯も置いていってくれた?マジ嬉しいんだけど。


ヴァレミランが何かしてくれたんだろうか。今度来た時はお礼言わなきゃ。


ハテナが浮かぶが取り急ぎ朝支度を整える。



「飯は食えたか?」


洗濯物を干し終えた頃、ヴァレミランが部屋に現れた。


「ヴァレミラン!やっぱりあなたのおかげなの?あんなに美味しいご飯出てきたの初めて!しかも今日はお昼ご飯まであるの!ありがとう!」

「あ、ああ。満足したんならいい」


ヴァレミランの手を嬉しさのあまりぶんぶんと振り回す。

手を取られたヴァレミランはどうしたらいいのか分からないのか、視線が彷徨っていた。


しっかしヴァレミランにそんな力があるとはすごいな。やっぱり若くして王宮勤めしてくるらいだから、身分も高かったりするのかな?


「じゃ、俺昼寝するから」

「昼寝って…、まだ朝の9時だよ?ていうか仕事とかないの?」

「あー。やっと一仕事終わったとこなんだよ、休暇中」

「ふーん?」


裁量労働性の職場なんだろうか、日本より進んでるなあ。


「じゃあ私は掃除するね」

「メイドがやってくれるんじゃねーの?」

「そんなことしてくれないよ!だから自分でやらないと汚くなっていっちゃうし」

「…そうか」

「まーすることも無いからいんだけどねー。本棚の本も全部読んじゃったから」

「俺が持ってきてやろうか?」

「うーーん…すごく有難いけど………メイドにバレたら面倒だから大丈夫」

「…お前はさあ。ここから出たいとか思わねーの?」

「……そりゃ、もちろん出たいよ。すごくね。…でも仮にここから出てもさあ、死んじゃうでしょ。頼れる人なんかいないし。魔力すらないし。家族どころか国中から嫌われてるし。そもそも抜け出す前に見つかって捕まって、死刑にされる可能性の方が高いし。ここから出たいとは思うけど…まだ生きてたいから…、もう少し大きくなったらその時にまた考えるよ」

「……」


ヴァレミランは少し難しい顔をしていた。

私だって飼い殺されるのを我慢したくない。でも現状、たかが5歳の女の子に出来ることなんて無いに等しい。

うまく出られたとして……その後どうする?きっと国中に犯罪者として手配書が出されて、似顔絵も出回って、いろんな人たちから追いかけられて。森の中には危険な魔法生物や野生の動物たちだっている。一人で切り抜けられるほどサバイバル慣れしていない。街に定住なんてもっと出来っこない。

一度捕まったが最後、即死刑台送り。良くて縛り首、最悪石投げの刑。


今はまだ耐えるしかない。毎日暴言を吐かれても。毎日嫌味を言われても。毎日自尊心を傷つけられても。毎日、自分の出生を恨んだとしても。

せいぜいご飯を運んでくるがいいさ。大人になるまで、大人しくしててあげる。


「…もう寝たら?」

「あ、あぁ」

「おやすみ、ヴァレミー」

「……変な名前で呼ぶな」


…本当は、誰かに助けて!!って叫びたい気分だよ。

大人の私ですら思ってしまう劣悪な環境。こんな所、本当の5歳のナシュティリカに耐えられるはずがない。本音を言えば叫びたい。逃げたい。投げ出したい。死んだ方がましかと思ってしまう。それでも生きているのは…なぜなんだろう。自分にもよく分からない。確実に言える事は、ヴァレミランがいてくれる事でどれだけ救われているか分からないってことだ。もしかしたら今はそれが、生きる理由なのかもしれない。






-ヴァレミラン視点-




城の廊下を歩いている途中、近衛兵を連れた男が見えた。邪魔にならぬよう壁際で頭を垂れていると、男に話しかけられる。


「ヴァレミラン。昨日の件は父上に進言しておいたぞ」

「…感謝いたします」

「私はいささか気にいらないが、父上もお前と同意見だったようだ。昨日のうちにナシュティリカの食事を盗んでいた厨房の者たちは鞭打ち後国外追放となった。本日から早速改善されたはずだ」

「ご尽力、痛み入ります」

「…いくら忌子といえど仮にも王族。威厳を損なわないためには仕方あるまい。それに、せいぜい成長させておいた方が処分に困らないというお前の意見ももっともだ。あれの母親は見目は良かったからな」

「…ええ。私風情が口を出すのも憚られましたが、不敬は見逃せません」

「何を言う。我が国で魔力のあるお前は貴重な人材、成人すれば爵位も与えられるだろう。今後も頼む」

「有り難き、お言葉」



去っていく男の背を眺めて、ふつふつと腹の底に黒いものが湧いてくる。けれどそれを表に出す資格なんかないな、と一人ごちる。

それに、アーラム第一王子に逆らえる者など、王以外にはこの国にいない。



-------------*





「ヴァレミー」

「おう、チビすけ」


更に3ヶ月が経って。草原は雪化粧に包まれ冬将軍の季節になった。

ヴァレミランは相変わらず唐突に現れる。それも、ほぼ毎日のように。


「いい加減チビすけってやめてくれない?」

「お前こそ変なあだ名を俺につけるなよ」

「長いからめんどくさいんだもん。いい名前でしょ」

「あーそー、俺寝るから」

「えーっ暇だから構ってよー」

「うるせえ、疲れてんだ。ほっとけ」


確かにフードを取った顔には隈が滲んでいた。

よく昼間に来れるなあとは思ってたけど、もしかして夜に仕事しているのかも?

思い立って、小鍋とはちみつを戸棚から取り出した。


「…何してんだ」

「寝る前にホットミルク作ってあげようと思って」

「魔法で火花すら出せないのに?」

「むっ…この前視察?だかしに来た兵士の人に頼んで火打ち石貰ったからできるし!」

「原始人かよ」


彼はふふっと笑みを零しつつも目線はずっと私を見ていた。細々動くのがたいそう面白いらしい。絶対嫌味だ。自分が全部魔法で解決できるからって…。


そうそう、変わったことといえば今後は1年に一度、兵士の人が私の部屋を視察しに来ることになったらしい。

この前クルノヴァという立派なヒゲのおじさんが兵士2人と一緒に来て、何か欲しいものはないかと聞いてきた。

そんでここぞとばかりに調理道具やら調味料やら本やら新しい服やらをお願いしたところ気前よく次の日に届けられた。

兵士の方はなんだか怖かったけど、クルノヴァって人はあまり怖くなかったからまた来て欲しいなあ。


小さな竈門に火を灯す。火力に気をつけながら、沸騰するかしないかの温度で牛乳に少しはちみつを足していく。


「はい。できたよ」

「おー」


なんとなくの勘だけど視察の件もヴァレミーが関わっているんじゃないかなと思う。きっと聞いても違うって言うだろうし、ぶっきらぼうで口も悪いけど根はいいやつだ。


ホットミルクを飲み終えると、そのままヴァレミーは眠りに落ちたようだった。

10歳そこらで仕事してるとは、魔法を使える人間も大変そうだ。しかも王室付きってことは実はすごい人間なのでは?


話している時とは対照的に年相応の寝顔を見て、お疲れ様、とだけ呟く。好きなだけ寝かせてあげることにしよう。




とは言ったものの、まさか0時過ぎまで寝てるとは思わないじゃん。


「ヴァレミー、もう0時だよ。私も寝たいから帰って」


体を揺さぶって起こせば、不機嫌そうな目つきで射抜かれる。


「うるせえねみーから起こすな。勝手に寝ればいいだろ」

「あそっか」


ベッドは広めだしヴァレミーもそこまで大きくないし、十分一緒に寝れるだろう。

いそいそと同じ布団の中へ潜る。いつものひんやりしたシーツではなく、温かな体温が伝わってきて変な感じだ。


「おやすみヴァレミー」

「、!…何してんの、お前」

「何って、隣で寝るんだよ。ヴァレミーが言ったんじゃん」

「別に引っ付くことないだろ…」

「寒いからいーじゃん」

「部屋は魔法で適温にしてるだろ!」

「ヴァレミーあったかいし!くっ付きたいの!いいじゃん!」

「あーー!うるせえうるせえ!もう分かったからさっさと寝ろ!」

「え?あ…」


ヴァレミーは反対側を向いたまま、私の瞼へ手をかざした。そのまま意識がゆらりと遠のく。










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