青い熱帯魚
田舎から都会に出て、街での仕事にも慣れ、愛する女性との結婚を控えたある男がいた。
彼の悩みといえば何故か最近毎晩不思議な熱帯魚の夢を見るくらいであった。
あまりに頻繁なので、ためしに小さな水槽で青い熱帯魚を飼ってみることにした。
思いのほか世話が楽しく、男は次々と自分の働いた金をつぎ込んで
家中を水槽だらけにしていった。
男のと結婚を約束した女は、今まで趣味らしい趣味のなかった
男の熱帯魚へののめり込み具合にはじめは驚き、
家の中に増え続ける水槽の数に閉口しながらも、そんな趣味を受け入れていた。
男は熱帯魚の世話に一層のめり込んでいき、外に出たり女と会うことも少なくなっていった。
そんなある晩久しぶりに女が男の家に遊びに行くと、男は家の内壁を青いペンキで塗りたくっており、
部屋には踏み場もないほど水槽が置かれており、世話の行き届かない水槽からは汚水があふれ出ていた。
男への怒りと言いようのない恐怖を感じた女はその場で男と別れて、そのときから男との連絡を断ってしまった。
男は結婚相手を失った失意から、仕事にも行かなくなるほど熱心に熱帯魚の世話にのめり込んでいった。
それから幾月か経ったある日、女は男の友人から、最近全く男の姿を見ないし連絡もつかない
ということを耳にする。心配になって女が男に電話すると電話は繋がるが、
通話口から聞こえるのは水の流れる音だけだった。
いよいよ心配になって女がアパートに行き、男の部屋のドアを開けると、
家中の水道が出しっぱなしになっておおり、部屋は水に満ちていた。
開いたドアから水が引き、女が中に入るとそこに男の姿は無く、
あんなにたくさんいた熱帯魚も一匹もいなくなっていた。
更に奥へ進むと居間に一匹の大きな青い魚が床の上に打ち上げられていた。
女が恐る恐るその魚の顔を覗くと、その青い魚はあの男と同じ目をして
にやりと笑って死んでしまった。