08話 母様の結婚裏話
公爵家のナントカさんのせいで酷い目にあった後、食堂に走ったマリアス兄様を他の兄様2人に回収してもらい、その場で母様と合流した。
「あら、お疲れみたいね。なにかあったの?」
優しく労わってくれる母様。
昼時、普通の生徒らもいるのだが、その視線をものともせずにライアス兄様が目をキラキラさせ自分の事のように自慢しだす。こちらは純粋なキラキラだ。この純粋さは守らねばならないと、ナントカさんをみたせいで強く思う。
「アリス凄かったんだぜ!サレンドを論破して跪かせたんだ!」
「サレンドと言えば・・・メイスバル公爵家のご子息かしら?」
「そうだよ。マリアスがまたやらかして、絡まれてるところをアリスが助けに行ったんだ。」
そうだ、なんかそんな名前だったと思っていれば、レイアス兄様まで口を挟み、ベティも頷いている。そして話が聞こえていたらしい近くの席の生徒から、賞賛の目線が向けられている気がする。
しかも元気そう、いや騒がしそうな女子、凡そ14歳。
まずい。
入学する前にこの学校の人間に覚えられるのは気まずい、気まずすぎる。
ベティに目線で訴えても、にこにこしているだけでなにもしてくれない。
「そう。アリス、頑張ったのねぇ。」
美しきお顔で微笑んで褒めてくれるのは嬉しいのだが、頑張った末のあの結果は最悪すぎる。
頑張って助けたマリアス兄様は、バイキング形式の学食を片っ端から取っている最中であり、十数分前のことは何も気にしていないように見える。
ライアス兄様もレイアス兄様もマリアス兄様を追いかけて昼食を取りに行ってしまった。
・・・盛大に溜息をつきたい。
それ以上に頭を抱えて机に突っ伏したいのを堪えていると、母様が気になることを言った。
「それにしても、メイスバル公爵家は変わらないわね、頑張って、アリス。」
「・・・変わらないとは???」
公爵家は変わらない、ということは、あれが代々の血筋、あんなのが公爵家に何人も・・・!?
今にもふらりと倒れそうな感じに真っ青になった私の顔を哀れみの目で見てくる母様。
「私の結婚相手、貴女のお父様か、メイスバル公爵家の現当主か選べって言われたのだけれど、まぁ当然お父様を選ぶわよね。出会い頭に寝転がって踏んでくれとか抜かす奴に嫁ぐなんて有り得ないわ。」
はぁ、と美しいため息をついていつの間にか現れていたピアラさん(王家末娘起床直後暴言事件でぶっ倒れた女王付き侍女さん)が取ってきた食事を口に運びはじめる。
いつにも増して優雅なその姿に、ナントカ公爵家への拒絶が現れているのかもしれないと思うのは考え過ぎだろう。
とにかく、母様の結婚裏話を聞いたところで、王立学院の見学は終わったのである。