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07話 上級生、そしてダメなやつ。

マリアス兄様を助けるにあたり、ベティには物陰で待って貰うことにした。


ちなみにライアス兄様とレイアス兄様は母様に捕まって加勢不可能である。


兄様を囲む怖い顔をした上級生たちの間に、私は割り込んだ。


「失礼、お兄様方。」


「なんです?」


煩わしげな目で私こと小娘を見下ろすお兄さん達。王立学院に通うだけあって、身なりも顔もよろしいが、その目には険がある。


「兄のマリアスになにか御用でしょうか?」


「・・・マリアスの妹と言うことは、つまり、アリス様でしょうか」


「さぁ、どうでしょうか。」


どうでしょうもへったくれもないのだが。


リーダーと思われる奴が丁寧な口調で話しかけてくる。誰かに似ていると思えば、兄の1人に似ている。


やたらにいい顔に笑顔を浮かべ女をオトし、それなのに嫁を娶るつもりはなく、笑顔で敵をバラバラ死体にする感じの男だ。

どうか酷いと思わないで頂きたい。全部その兄の実話である。


それはそうと、私とマリアス兄様を囲む上級生は、だいたい17歳くらいか。乱闘になったら勝てるわけが無い。まぁ相手も馬鹿ではないと思うので、間違っても王家に殴り掛かることなどないだろうが。


「して、上級生のお兄様方は何かこの方に御用でしょうか?」


全人類がひれ伏すであろう私の可愛らしい笑顔にピクリとも反応せず(なんと失礼な)、そいつは胡散臭い笑みを浮かべたまま身分を用事を述べる。


「僕はメイスバル公爵家の息子、サレンドと申します。貴女のお兄さんが僕のノートを盗み見したと聞きまして、穏便に話し合いを…とお話を持ちかけましたところ、お兄さんがここまで逃げてきた次第で。咄嗟に皆で追いかけてしまったのですよ。決して集団私刑などではございません。」



こういう奴が言う「穏便に話し合いを」は言い換えれば「穏便に済ますつもりなんかあるかい」に決まっている。決して集団リンチなどではないとか言うあたり怪しすぎる。


というか、マリアス兄様に原因があるようだが、それはどうなんだ。


「マリアス兄様、ノートを盗み見したと言いますと?」


ここまで一言も発していない兄様に、話を振る。



・・・返事がない。



「兄様?」


振り返れば、器用に、そう、信じられないくらい器用に、立ったまま寝ていた。



「マリアス兄様!」



「・・・アリス?なんでいるの?」



ぱち、と目を開けたマリアス兄様がこてん、と首を傾げる。


くらくらする。やばい可愛い。ショタだ。このままでは鼻血が出て超高級ドレスがダメになりかねない。


「マリアス、君は僕のノートを盗み見したね?」


死にそうな私の代わりにナントカ公爵家のナントカさんが説明してくれる。

名前なんだっけ。


「・・・盗み見?いや、僕はただ、ペットの子ぎつねを探して、上級生のクラスに入って、そこにあったノートをめくっただけだよ?」


「「それを盗み見って言うんでしょうが」」


ナントカさんとセリフが被ってしまった。そこにあったノートをめくった=盗み見なのだが、マリアス兄様にとってはただ単に「そこにあったから」でしかない。この人、ちょっとズレているから仕方がない。

だが、兎にも角にも、マリアス兄様がノートを盗み見したのは事実のようである。

これはマリアス兄様が悪いが、この学校という空間の中、私刑はやめて頂きたい。


「上級生のお兄様。」


「サレンド・メイスバルです」


「確かに今回は私の兄が確実に悪いかもしれません。ですが、兄にはなんの悪気もなかったのでしょう。私にもどうにも兄は読めないのでなんとも言えないのですが、今回は許して頂けませんでしょうか。」


「・・・アリス様がそう言われるのであれば。ですが、あなたは下級生にノートを盗み見されてなんの怒りも覚えないと?しかもこれは3回目ですよ?」


兄様!!3回目ってなんすか3回目って!!と叫びたいところだが、一応王女の矜恃として我慢する。


ナントカさんの言う通りなのだ。ナントカさんが正しい。

だけど、だけれども、ちょっとそれは無いのではないか。。


この時点でそこそこイライラが溜まっていた私に、ナントカさんは決定打のワードを言った。


「少しくらい見逃して頂いてもいいと思うのですが。あなたも兄を思うのなら、私刑を少しくらい受けさせてもいいのでは?」




はいアウト。




少しくらいだと?

兄を思って私刑をだと?

ふざけんなよ。


「確かに上級生さんの言う通りでしょう。ですが情けないとは思われないのですか!?こんな可愛いショタをリンチにするとは、しかも集団だって!?公爵家の名が廃るとは考えないと!?そんな考え無しなら兄様と同じ学年に戻って学び直してはいかがですかね!えぇ!?」


オタク特有の早口でブチ切れた私にベティが顔を真っ青にしてこちらにくる。当のマリアス兄様はまたウトウトし始め、そしてナントカさんは面食らっていた。その周りの方々も、だ。


「・・・アリス様、」


あ まってそれ以上言わないで 引かないで 私のメンタル削らないで


「その通りです。僕が考え無しでした!」


「・・・はい?」


周りのクラスメイトの奴らが若干引いているのにも関わらず、目をキラキラさせて懺悔しだす、ナントカさん。



・・・いや、キラキラ、と言うよりは。



「公爵家の名に恥じる行為でした、アリス様。どうかお許しください・・・」



頭をたれ、跪き、その目には、





恍惚。





ダメだ。これダメなやつだ。

本能的に悟る。ダメなやつだ。



出し抜けにチャイムが鳴り、なにやら昼食の時間になったようで、途端に起きたマリアス兄様が食堂の方向に突っ走る。


それにも構わず歓喜に震えながら私に懺悔するナントカさん。


叫んだ。


もうプライドとかどうでもいい。



「ベティ、母様と合流します!」



私なりの、精一杯のHelp me!!である。


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