05話 心の傷、またの名を黒歴史
「っっああああ・・・」
ライアス兄様達の学校見学。
その学校の医務室で私は悶えていた、二つの意味で。
まずその一。
例によって上流階級の方々は美しい。または可愛らしい。
ショタの質が思ったより高かった。
学び舎に響くショタボと軽い足音、膝下の短パン。
ちょっと異世界に来た甲斐があったと初めて思った。
そしてその二。
私の、というよりは前前前世、1度目の人生での「兄の」黒歴史を抉られた。
〜回想〜
ある夏の日のこと。
中学生だった私は兄の部屋に入ろうと、ドアノブに手をかけた。
と、その時!
「熱き太陽よ・・・それに伴う暗き影よ・・・我、汝らに命ず・・・この魔法陣の神、ゼウスの名において!今日のあの子の下着の色を答えよ!!!」
・・・イタかった。
ただひたすらに、イタかった。
聞いてるだけで恥ずかしいことこの上なかった。
しかも好きな子の下着の色を聞くのかよ。
あまりのいたたまれなさに私はそっとドアの前を立ち去ろうとする。が。
「あら、何してるの、お兄ちゃんの部屋の前で。」
タイミング悪く母さんが来た。
バレちゃった。
この時点で終わっていれば、私の傷はそんなに深くならなかったはずなのだ。
兄の洗濯物を抱えたふくよかな母は、あろうことか思いっきり兄の部屋の戸を開けたのだ。
見てしまった。
床にしかれた白い紙に書かれる魔法陣、周りに立つ無数の蝋燭、その中心に立つ兄、そして───
あの子、のものであろうパンツ。
この出来事は兄だけではなく、私にも深い傷を残したのであった。
〜回想終了〜
何故これが今更出てきたかといえば、ショタ達が、もとい学生らが、魔法陣を書いて魔法を発動させていたからである。
案内役の教頭先生によれば、最終的には無詠唱へとたどり着くらしい。
が、あの時のいたたまれなさが蘇り、私は医務室で休憩中だ。
最高級の綿や皮を使ったソファに沈み込み、隣のテーブルには冷たい飲み物という至れり尽くせり感。
私が王家だからだろう。
「アリス様、ご気分はいかがですか。」
ベティが優しく聞いてくれる。母様の遠縁、地方貴族の未亡人らしい。
私にとっての第2の母様だ。
「一応復活しました。そろそろ母様と合流したいのですが」
私も見学しておきたい。何しろ通うかもしれない場所なのだ、事前情報は、あって困るものでは無い。
そう思って希望を伝えると、ベティは、少し困ったように眉を寄せた。
「申し訳ございません、ライアスお兄様たちから、ここに居て欲しいと仰せつかっております。」
「ライアス兄様たち・・・なら仕方ないですね、待っておきます」
兄様と聞いて、あっさり私の心はそっちに従った。
兄様の頼みであれば致し方あるまい。
案外私、兄様大好きなのかもしれない。
ショタであることもひとつの要因ではあるのだろうが。