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幼馴染みと主人公

おかしいと思った箇所、気になる箇所がある場合は教えてもらえるとありがたいです。



 

 ――俺は、彼女の思いに応えてもいいのだろうか?


 彼女のその気持ちは、恋愛感情か、友情か。それは俺には分からないが、好意であることに違いはないと思う。


 でも俺は壊れている。普通じゃないという自覚がある。あの日、目が覚めた俺は何故だか心が軽かった。ものすごく重い物がすっぽりと抜かれたように。


 その日から、他人にどう思われていようがどうでもよくなった。何故だか、相手に対して興味や関心を抱かなくなった。気持ちは楽だった。心は軽くなった。これで良いはずだった。


 ――でも、何故か傷はよりいっそう深くなるばかりだった。


 俺は彼女の事を、他人と同じようにしか見ていない。そうとしか見る事ができない。だから彼女の気持ちに、俺が答える事はできない。俺と一緒にいれば、彼女まで傷つかせてしまうかもしれない。


 それでも俺は思ってしまった。彼女と関わる事で何かが変わるかもしれない。心にあいた大きな空洞が、少しは埋まっていくかもしれない。また、心のそこから笑える日が来るかもしれない。


「ねぇ……俺と関わったら君が傷つくかもしれない。今の俺は君に対して、その他大勢と同じ感情しかわかない」

「……うん」

「でもさ……俺は君といれば、何かが変わる気がするんだ。何でかは分からないけど」

「……うん」

「君が望んでいるものを、俺が与える事は出来ないかもしれない。俺と関わっても、ただ面倒事に巻き込まれるだけかもしれない。俺は昔のように、君に接することは出来ないかもしれない」


 取り繕うとするな。本心で思った事を、望んだ事をちゃんと伝えるんだ。


「それでも……それでも、俺と一緒にいてくれるなら。俺はもう一度君と、幼馴染みをやり直したい」


 上手く言葉にできたか分からない。相手に気持ちが伝わったかも分からない。けれど、俺の喋った事に嘘はなかった。


 ガバッと勢いよく抱きつかれた。彼女の瞳は、また涙で溢れていた。でも俺を見つめる彼女の顔には、再会した後の二週間のどの時よりも、昔一緒に過ごしたどの時よりも。今まで見てきた彼女の中で、一番魅力的な笑顔があった。


「昔のようにならなくてもいい。面倒事に巻き込まれてもいい。私は、もう絶対に玲翔を一人にしない。何があっても玲翔を見捨てない。何も見返りなんていらない。ただ私は、玲翔の隣にいたいだけだから」


 彼女はそう言って抱きつくのを止めて、俺の正面に座り直した。そして右手を俺に差し出してきた。


「だからお願いします。もう一度私の幼馴染みになってください」


 彼女は笑顔でそう言った。俺はそれに答えるように、慣れない笑顔を無理やりつくった。ちゃんと笑えているだろうか?でも、これが今の限界だ。そして俺は、差し出された右手に自分の右手を重ねる。


「ありがとう。こちらこそお願いします()()


 そう言うと彼女は、安心したように笑った。


 その後、恥ずかしそうに連絡先を聞いてきたので交換した後、麗奈の部屋を出た。


 帰り道がほんの少しだけ、明るくみえた。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆


 私は玲翔が帰った後、食器を洗っていた。無意識のうちに鼻歌を歌ってしまう。でもしょうがない。三年半も願っていた事がついさっき叶ったのだから。


 玲翔が家に来ると言って、これはチャンスだと思った。でも玲翔は部屋を見て、すぐに帰ろうとした。私は焦ってつい、玲翔の袖を引っ張った。あの時、いい理由が浮かんで本当によかった。


 玲翔に手料理を食べてもらって美味しいと言われた時は、跳びはねそうなほど嬉しかった。でも、これを食べ終えたら帰ってしまうと思うと喜んではいられなかった。


 食べ終えた玲翔は、荷物を整理し始めた。帰ってしまう。早く言わなきゃ。そう思っても、また声が出なかった。でも、ここで言わなかったら一生このままでいる気がした。それは嫌だった。だから私は玲翔の腕を掴んだ。もう私の前からいなくならないように。


 はっきりと会話を覚えている訳じゃない。頭がぐちゃぐちゃで何を言ったかも覚えていない。でも、玲翔が「幼馴染みをやり直したい」と言ったのははっきりと覚えている。そして私の右手を握ってくれたのも覚えている。


 そして玲翔がまた、私の事を麗奈と呼んでくれた。その瞬間、モヤモヤしたものが全部消えていくのが分かった。


 凄く凄く嬉しかった。また玲翔が私を麗奈と呼んでくれる。また玲翔の隣を歩ける。また玲翔と幼馴染みになれた。どれもこれも嬉しかった。


 でも、まだ玲翔が元に戻ったわけじゃない。また玲翔が傷ついてしまうかもしれない。


 次こそは、絶対に玲翔を見捨てない。私が玲翔を助ける。そう強く決心した。


 スマホの画面を見る。友達の欄に玲翔の名前がある。それを見てニヤニヤしている自分に気が付く。でも、今日くらいはこの嬉しさに浸ってもバチは当たらないと思う。


 私はベッドに寝転がり、スマホの画面を見てニヤニヤしながらその後の時間を過ごした。





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― 新着の感想 ―
[一言] 壊れてるという自覚があって、実際に死にそうな目に遭っている筈なのに親や周囲が「精神科へのカウンセリング」を打診してないのは疑問です。 「周囲に対して何の興味も持てない」という壊れ方と、それ…
[一言] 自分が普通じゃないって自覚できてる時点で壊れてない件について
[一言] どんな展開になるのか楽しみです(^^)
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