幼馴染みの家に行く
今回、少し長くなりました。
これから幼馴染みと主人公の関係性が変わってきます。
おかしいと思った箇所、気になる箇所がある場合は教えてもらえるとありがたいです。
あの騒ぎから3日が経った。さすがに火曜日は皆がよそよそしくて、クラスが変な雰囲気だった。でも俺がいつも通りなのを見てか、徐々にいつも通りの雰囲気に戻っていった。
涼真の話によると、俺が早退した後のクラスは驚くほど静かだったようだ。まぁ、そういう雰囲気にもなるだろう。そうなった原因はほとんど俺なのだが、2割くらいは涼真が原因だろう。
涼真は自分では話さなかったが、他の人の話によるとあの後涼真がキレたらしい。正直嬉しい。――あの時も涼真だけは俺の味方をしてくれた。
感謝の意味も込めて、なにかおごってあげようかな?そんな事を考えていると、一限開始のチャイムが鳴った。
金曜日、学生も社会人も皆が少し浮かれる曜日。俺も例外ではない。でも今日はイレギュラーなのだ。放課後に少し憂鬱な事があると思うと、授業がいっそうダルくなる。
ほとんどの授業を寝ながら過ごしていたら、今日の最後の授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。クラスはざわつき初め、部活に行く人やさっさと帰る人、教室に残り話をする人など放課後の過ごし方は色々だ。
俺は基本、さっさと帰るタイプの人間だ。でも今日は用事があると、涼真には先に帰ってもらった。はぁ、憂鬱だ。重い足取りで、いつもの二人と話している水瀬さんの所へ歩いていく。
水瀬さんが俺に気づいたようなので、要件を話す。
「水瀬さん、今日一緒に帰らない?」
「え!?」
ずいぶんと驚かれた。さすがに急過ぎただろうか?
「えっと、父さんから言われた事を今日やろうと思ったんだけど。だめかな?」
「えっ!あっ、あぁ。そっか、今日。……わ、分かった、一緒に帰る」
「そう?ありがとう」
水瀬さんは今日は睨まなかった。そのかわり今日は、いつもより頬が赤くなっている。隣の二人からなにやらコソコソと言われているらしい。
「じゃ、じゃあね」
「バイバーイ」 「また明日」
二人と別れて、俺は水瀬さんの隣を歩き校門をでる。視線が集まる。やはり、水瀬さんは美人なので、一緒に歩くだけで嫉妬の視線が突き刺さる。
水瀬さんはずっと下を向いたままだった。なんで下を向くんだろうか?彼女の顔を見ていると、左側だけ出された耳が赤く染まっていた。
「こ、ここが私の部屋」
水瀬さんに連れてきてもらったのは、水瀬さんの部屋があるマンションだ。
「じゃあ、どうぞ。入って」
「お邪魔します」
俺は水瀬さんの部屋に入る。その部屋は俺の想像していた女子の部屋とは違っていた。ゲーム機やラノベなど、そういう物ばかりで女の子の部屋とは思えなかった。それでも、匂いやぬいぐるみなんかは女子を強く意識させた。
「あいかわらずだね。この部屋はなんか懐かしいな」
「そ、そう?それより、どう?ちゃんと生活出来てるでしょ?」
「うん、これなら問題無さそうかな」
今日ここに来た目的は、高校入学と同時に一人暮らしを始めた水瀬さんが、ちゃんとした生活を送れているかの確認だ。
高校入学前、俺の父さんから連絡がきて、水瀬さんが同じ高校に入学する事を知らされた。そして、一人暮らしがしっかり出来ているか確認して、水瀬さんの両親に報告してくれと頼まれた。
そして今、水瀬さんの部屋にいるわけだが、やはり気まずい。だから嫌だったんだ。もう用事は済んだし帰ろうとしたら、水瀬さんに制服の袖を引っ張られた。
「え!?なに?まだなんかある?」
「あっ、えぇと……そ、そう!生活力を見るなら料理も見なきゃでしょ?だ、だから、その……夕飯を一緒に食べていかない?」
「え!?」
そんな事を、顔を真っ赤にしながら少し涙でうるんだ瞳で上目遣いをして頼んでくる。断れない、これは断れない。
結局俺は、水瀬さんの料理を食べる事になった。家に“今日夕飯はいらない。あと帰るの遅くなるかも”と連絡をいれる。
料理ができたのか、水瀬さんはお皿とコップを持ってきた。
「なにか手伝おうか?」
「え?いや、いいよ。大丈夫」
「そう?」
水瀬さんはテキパキと動いて、お皿に料理を盛り付け机の上に並べた。俺の前にあるお皿には、カルボナーラが乗っていた。
「美味しそうだね」
「そ、そう?ありがとう。でも、玲翔が来るって知ってたら、もうちょっと手の込んだもの作ったのに」
「十分だよ。じゃあ、いただきます」
「召し上がれ」
俺はパスタが結構好きだ。その中でも、カルボナーラが一番好きだ。一口食べたら、水瀬さんが何かを待つように、期待するようにこっちを見ていた。
「うん、美味しいよ」
「そ、そう!?良かった」
そう言って嬉しそうに笑った。その笑顔は、普段の大人なイメージとは違う高校生らしい可愛い笑顔だった。
「もしかして、俺がカルボナーラ好きなの覚えてた?」
「うん、実は。今日はパスタって決めてたけど、味は決めて無かったから。玲翔が好きだったの思い出して」
「ありがとう。美味しいよ」
水瀬さんは嬉しそうに、食べてる俺の方を見てくる。そんなに見られると食べにくい。
「ごちそうさま」
「お粗末さま」
カルボナーラを食べ終え、今度こそ帰ろうと思って荷物を整理する。そして立ち上がろうとしら、俺の腕が急に引かれて立ち上がれなかった。
「え!?水瀬さん?」
「…………」
いつの間にか水瀬さんが隣に来ていた。俺の腕を掴んだまま、無言で下を向いていた。
「帰ろうと思ったんだけど、どうしたの?」
「…………」
「えっと……水瀬さん?」
「やめて……」
「え?止めて?」
「水瀬さんって呼ぶの止めて!」
そう叫んだ彼女の瞳には、大粒の涙が溢れていた。悲しそうな表情だった。
「止めてって、え?……」
「……ねぇ、玲翔。私の話を聞いてほしいの」
「話?」
「うん、あのね……まず謝らせてほしいの」
そう言って彼女は目を閉じ、少し間をあける。そして俺の腕を掴んだ右手に、力が入るのが分かった。彼女は何かを決心したのか、開かれた瞳には、もう涙は無かった。
「小学生の時、助けられなくてごめん!力になれなくてごめん!」
そう彼女は俺に頭を下げてきた。
「……小学生の時って、あの事件のこと?」
「うん」
「なんで今さら……」
「私ね、あの日からずっと後悔してた。助けられなかった自分を責めてた。それで、次会ったら絶対に謝ろうって。だから玲翔と同じ高校に入ったんだよ?」
「…………」
「でも、再会した玲翔は私を水瀬さんって呼んだ。だから怖くなった。玲翔はもう私を幼馴染みとは思って無いんじゃないかって、拒絶されるんじゃないかって」
「それは……」
「……でも、やっぱり私は玲翔と昔みたいに仲良くしたかった。また、玲翔の隣にいたかった。拒絶される恐怖よりも、許してもらえないかもという恐怖よりも……私は、玲翔に他人として扱われるのが嫌だった!」
そう言って彼女はまた泣き始めてしまった。思いもしなかった。あの時の事を、今までずっと後悔してきて、そして俺に謝り来るなんて。俺の事なんて、どうせ皆どうでもいいと思ってると、あの事件なんてとっくに忘れていると、そう思っていた。
だから、俺が昔のように接したら相手が迷惑がると思っていた。
でも、この目の前にいる彼女は違った。忘れるどころか、自分を責めて今まで後悔していたと言っていた。そして、また俺と仲良くしたいと、昔のように隣にいたいと、そう言ってくれた。
何かが足りなくなっていた部品が、少し埋まっていく気がした。深い深い傷が少しだけ塞がった気がした。
――俺は、彼女の思いに答えてもいいのだろうか?
面白かった、続きが気になると思った方は、ぜひ評価やブックマークお願いします。感想ももらえるとありがたいです。
ダメだしなどお願いします。処女作なのでやらかすかもしれませんので……