幼馴染みの気遣い
感想やアドバイスを書いてくれた方々、本当にありがとうございました。これからも、色々な感想やアドバイスを書いてもらえると嬉しいです。
「ねぇー、いーじゃんか。一緒にどっかいこーぜ」
「嫌です。どっかいってください」
「そんな事言わずにさー。ちょっと食事しようって誘ってるだけじゃん」
「ちょっと!触らないでください」
ナンパですね。これはベタなナンパですね。俺は本当に困っている人がいたら、基本的に助ける。何度かこういう場面に出くわしてるから、穏便に解決する方法を俺は知っている。
まずは相手が本当に嫌がっているかを確認するのだが、会話を聞いていたかぎり嫌がっているのは間違いないだろう。俺はナンパ男に近づく。
「遅くなってごめん。ほら、行こ」
完璧だ。男連れと分かれば、おとなしく引き下がるだろう。今までだって、これで切り抜けてきた。
「え!?あなた誰ですか?」
「「は!?」」
は!?なんでそういう事言うかな。バカなのかな?普通分かるでしょ、助けてくれるんだって。
「おい、お前。なに嘘ついてんだよ」
「えーと……彼女嫌がってるんで止めてあげてください」
「あ?うるせーよ。邪魔すんな!」
ナンパ男が殴りかかってきた。最悪だ。全然穏便じゃない。でも俺は殴りかかってきた相手を撃退する方法も知っている。素人ならこれで一発だろう。
主人公ならカッコ良くボコボコにするんだろうけど、そんな面倒な事はしない。俺は右足をナンパ男の股間めがけて蹴りあげる。
「あふっ――ッ」とナンパ男は変な声を出して、股間に手をあてながらその場にうずくまった。言葉にならないうめき声をあげている。これで解決だ。
「あの、助けてくれてありがとうございます」
「いえ、気にしないでくだ……さい……」
助けた女の子の顔を見て、俺は絶句した。彼女も俺に気づいたのか、驚いた表情をした。
「え!?……玲翔?」
「――誰ですかそれ?俺は一郎ですけど。待ち合わせに遅れるんで、俺は行きますね」
「え、ちょっと!待って!」
その声を無視して俺は、はや歩きでその場から離れる。聞きたくも無い声、見たくもない顔から逃げるように。
待ち合わせ場所に戻ってくると、そこにはすでに麗奈がいた。
「遅い!」
「いやーごめん」
「まぁ、いいけど。というか大丈夫?なんか疲れてるみたいにだけど」
「そう?別にいつも通りだよ。いつも疲れてるから」
「そう、ならいいけど」
顔に出ていたらしい。麗奈はよく見ているな。心配はかけたくないが、ちょっと難しそうだ。この後も楽しめる気がしない。「ねぇ、ちょっと公園行こ?」と麗奈が唐突に言ってきた。
「え!?だってこの後食事するって」
「いいから、早く行こ!」
そう言って麗奈は歩きだした。強引気味に、行き先を公園に変更された。急にどうしたのだろうか?俺は有無を言わせない麗奈に、困惑しながら公園へと向かった。
公園に着いて辺りを見渡すと、思ったよりも人は少なかった。俺と麗奈は空いているベンチに座る。俺は「で、なんで公園?」と麗奈に問う。
麗奈は「ん?それはねー」と、悪戯っぽく言うと俺の頭を掴んで、自分の方に引っ張った。――世界が横になった。そして、柔らかい感触が頬に伝わった。
「なんで急に膝枕?」
「……今日の玲翔、ずっとつらそうな顔してた。だから何かあったのかなーって。迷惑?」
「迷惑じゃないけど……俺、そんな顔してた?」
麗奈は「変な顔してたよ。ブサイクだった」と、馬鹿にするように笑いながら言う。自分では、無表情を貫いているつもりだった。心配はかけたくなかった。
「……なんか、ごめんね」
「ううん、気にしないで。私は気にしてないから。だから遠慮しなくていい」
「…………ありがと」
麗奈が俺の頭を優しく撫でてくる。こんな事になって麗奈には申し訳なかった。でも、麗奈に頭を撫でられていると、少し心が落ち着く気がした。俺はそのまま、まぶたを閉じた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
私は今、平然を装っているけれど、物凄く顔が熱くなっているのが分かる。でも、恥ずかしがってはいられなかった。
今日の玲翔はおかしかった。会った時からなにやら思い詰めているような、つらそうな表情をしていた。だから公園に行こうと言った。
私は今度こそ、玲翔を助けると決めた。これが玲翔の助けになっているのかは分からない。でも、何かせずにはいられなかった。
私は玲翔の頭を撫でる。こんな日が来るなんて思いもしなかった。私は玲翔の頭を撫でるこの時間に、結構幸せを感じていた。
玲翔の頭を撫でていると、いつの間にか玲翔は寝てしまった。気持ちよかったのだろうか?私は玲翔の寝顔を見る。いつもみたいな無表情だった。でも、どこか辛そうな顔だった。
再会してからの玲翔は、全然表情が変わらなかった。何を思っているのか分からなかった。笑うのは空気をよまなきゃいけない時だけ。空気を壊さないように、作り笑いを浮かべるだけだった。だから今日、玲翔があんなに辛そうな表情をしているのを見て、私は物凄い不安を感じた。
今日、私と会う前に何があったのかは分からない。それを問い詰める事もしない。私は優秀じゃない。どちらかというと不器用だ。だから私があれこれと動いても解決なんてできない。むしろ悪化するかもしれない。
だから私は、玲翔が辛そうにしている時にこうやって甘やかす。少しでも気持ちが楽になるように、私ができる事を精一杯。
気付けばいつの間にか日が暮れていた。そしてお腹もすいていた。そういえばご飯を食べずに公園へ来たんだった。
私は自分で自分の事を気持ち悪いと思った。なぜなら日が暮れるまでの長い間、何をするでもなく、ひたすら玲翔の寝顔を見ていたのだから。それも日が暮れる事に気付かないほど集中して。結構重症かもしれない。
玲翔は起きた後「こんな時間まで寝るなんて、本当にごめん」と、私に何度も謝ってきた。でも私的には今日は素晴らしい一日だった。だから謝る必要は無いのだが。
家に帰ってから、スマホに玲翔から連絡がきた。また謝罪をしてきた。気にしなくていいと言ったのに。それから、何かおわびをしたいと言ってきた。
私は今日大満足だったのだから、おわびを受け取るのは玲翔に申し訳ない。だが、このチャンスを逃すほど私は善人ではない。私は欲望に忠実なのだ。
私は玲翔に“今度今日の埋め合わせをして。その時は玲翔から誘ってね“と送った。
私はベッドに横になり、幸せな気持ちのまま夢の中へ入っていった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
麗奈から今日の埋め合わせをしろと連絡があった。このくらいは当然だろう。俺が目を覚ました時には、すでに日が暮れていた。起きた直後はまだ寝ぼけていて、家で普通に寝ているのと勘違いし「まだ暗いじゃん」と二度寝をしそうになった。
頬を麗奈につねられて覚醒した俺は、すぐに麗奈に謝った。麗奈の大切な休日が、俺の枕として終ったのだ。謝罪は当然だろう。
このおわびは謝罪と、俺に気をつかってくれた麗奈への感謝の気持ちだ。でも、“別にいいよ、気にしなくて”と遠慮するかと思っていた。それが一瞬で返信がきた。なんの迷いもない。意外と現金な娘だ。
俺は今日会った女の顔を思い出す。同時に嫌な思い出が、鮮明な映像としてよみがえってくる。少し気持ち悪くなって、考えるのを止める。
俺はベッドに横になり、不快感を覚えたまま夢の中へ入って……いけなかった。どうやら昼前に寝すぎたようだった。
☆☆☆☆☆☆☆
――――玲翔はこの日から、過去ともう一度向き合う事になり、色々な葛藤の中で『死』をよりいっそう強く意識するようになる――
読者の皆様には大変申し訳ないのですが、しばらくこの作品は休載とさせていただきます。




