もしもあなたが無限に伸びるというのなら
ある日のこと。
「なぁ、今日の昼はラーメンにしないか?」
「ラーメン? そいつはまた随分と景気の良い話ではないか」
「いやそんな高級店に行くつもりはないけど。それで、ラーメンで良いか?」
「それは構わないが………いや、ちょっと待ってほしい」
「なんだよ、嫌に深刻な顔をして」
「ラーメンといえば時間とともに麺が伸びてしまう飲食物として不動の地位を築き上げている……そう思わないか?」
「まあー、そうかもな。それがどうしたんだ?」
「時間が経てば経つほど伸びる。つまりは時間の経過と麺の長さは比例する……この解釈、過言ではないな?」
「そりゃまあ、ほっとけばかなり伸びるだろうな」
「それはつまり、時間配分にさえ気をつければ一杯のラーメンを延々と食べ続けることができるということに他ならない……これに間違いはないよな⁉︎」
「は? お前何言ってんだ?」
「いや待てッ、それだけじゃあない!! 麺が無限に伸びるということはつまり替え玉は不要であると、これまで我々は幾度となくあの店にあの店長に騙されていたのだと! そう言えるのではないのか⁉︎」
「なに馬鹿なこと言ってんだ。大体、スープが無くなりゃそれ以上伸びようがないだろ」
「ノンノンノンスープつまるところのこれ水分! なれば無料で提供される飲料水を補充し続けさえすればッ! 替え玉などという安易かつ高価な目眩しに躍らされることなく無限にラーメンを食すことも夢ではないよなァッ‼︎」
「いやいや、それは実際に麺そのものが増えるわけじゃないし、水分を吸うにしたって限度がある。飽和状態になればそれ以上伸びることもないだろ? そもそも、水で薄めたラーメンなんか食べたくないっての」
「貴様はッ! いつまでもそうやって試しもせず論理武装してひとつ上から良い気になっているがいいッ! この御山の大将めがァ‼︎」
「なんなんだよ、一体なにがお前を駆り立てるんだよ」
「フーハハハハハいつまでも嘲笑っていろ! いつかこの私の無限の可能性を前にするときそのときこそが貴様の最期だと、あの世でこれでもかと一人孤独に味わうがいいさ!」
「はぁ……わかったから。それじゃあ今日はもう出前でも――」
「さあ行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」
スタスタスタスタスタスタスタスタスタスタ‼︎
「いや行くんかい」
またある日のこと。
「なぁ、今日はうどんでも食べに行かないか?」
「うどん? それは構わないが………いや、ちょっと待ってほしい」
「なんだよ、また深刻な顔をして」
「お前たしか、うどんを食べるときはいつもカツ丼とミニうどんセットを注文していたよな?」
「……そうだけど、それがどうしたんだ?」
「ミニという言葉は具体的な数値を示唆するものではない。つまりは基準となる通常サイズよりも小さければ問題はない……これに間違いはないよな?」
「あまり小さすぎてもどうかとは思うが、まあ普通より小さければ問題ないんじゃないか?」
「ということをよぉぉく踏まえた上で、あのラーメン屋を思い出して欲しい」
「なんだよ、ラーメンがいいならそう言えよ」
「我々がいつも注文するあの店のAセット、ラーメンと半チャーハンだが……半チャーハンとは一体なにを基準にしているのだろうか?」
「そんなもん通常サイズのチャーハンだろ。にしてもお前、あれだけ文句を垂れてた癖に何回も替え玉してさ。なんだかんだであの店が好きだよな」
「この大馬鹿ものめがッ! ふざけてないでもっと真剣に考えろ! 半チャーハン、つまりは通常の半分であるということ……これに嘘偽りはないよなぁ⁉︎」
「はいはい、半チャーハンは間違いなく普通サイズの半分です。さあ、スッキリしたところでほどよく腹も減ってきたし、ラーメン食べに行くか」
「なッ……貴様はッ! そこに大きな落とし穴が隠されていても平気であると、これほど簡単なトラップにさえ気づかずアホ丸出しの顔でのうのうと堕生を貪りくさるのだと、恥を晒して尚も生きて行こうとッ! それで構わぬとでも言うのかァ⁉︎」
「なんなんだよお前は。今日は一体何が気にいらないってんだ」
「答えろッ! 10の半分はなんだ⁉︎」
「あーはいはい5です5です。そんなことすら気づきもしませんで、いやはや申し訳ありませんでした」
「そうッ! 10の半分は5、100の半分は50、3867であれば……えーっと……1833.5ッ! 半分という概念、今しかと理解したなァ⁉︎」
「えぇえぇ、充分に理解致しました。故に我々はこれよりラーメン屋へ向かうこととしましょうか」
「なればこそさすればこそ半チャーハン、一体何を以ってして半分なのかと! 公衆の面前で堂々と半分を謳えばこそ、通常サイズのチャーハンは常に一定の分量でなければ成立しないということが理解るはズァァァッ‼︎」
「……めんどくせぇやつだな。店が半分つったら半分、それで良いじゃねぇか」
「貴様というやつはッ! 基準となるチャーハンの分量を曖昧なままにしておきながら値段は常に 一 定 額 、この圧倒的詐称圧倒的搾取を前に涼しげな顔をするなどとッ!」
「曖昧もなにもなぁ。だいたい、割り算すらまともに出来ないお前に言えたことかよ」
「こっ……このうつけ重箱の隅をつつくような真似を平然と! 貴様これまで如何な教育を受けてきた! 親の顔を見せてみろォ‼︎」
「ん……ああ〜そういうことか、なるほどなるほど」
「ムッ⁉︎ なんだどうした! 私のこの崇高な思考をそのちっぽけなプリン脳でようやく理解したとでも言いたげな顔ではないか⁉︎」
「はっはっは、そう照れるなって。なんだかんだでお前も可愛いとこがあるもんだな」
「フンッ……妙に強がりおって。しかしまあ、兎にも角にもわかってくれたのならそれで良しとしてやらんでもない」
「はいはい強がってすみませんねぇ。親の顔を見せろ……つまりお前はうちの定食屋に行きたかったわけだな。やれやれ、こんな周りくどいことしなくても親父はいつだってお前を歓迎してくれるのに。それじゃあ、飽きるまで親父の顔でも眺めに――」
「いざ行かんッ! ラーメン屋ッ‼︎」
スタスタスタスタスタスタスタスタスタスタ‼︎
「いやそっちかい」
そしてまた、とある日のこと。
「なぁ、今日もうちの店で昼飯にしよう」
「ん? なんだどうした? いつも必ず昼食の最終決定権をこの私に委ねてくる情けないお前らしからぬ物言いではないか」
「まあ、ちょっとな。どうしてもうちの店に来てほしいんだよ」
「なんだよ、いつも必ず昼食の最終決定権をこの私に委ねてくる情けないお前らしからぬ物言いで、一体何を伝えようというのだ?」
「それはその……色々あるんだよ。だからさ、うちで昼飯食おう、なっ?」
「おいおい気になるだろう? そんな風にいつも必ず昼食の最終決定権をこの私に委ねてくる情けないお前らしからぬ物言いをされてしまってはな」
「別にとって食おうってわけでもないんだからさ。それに今日は俺のおごりだぞ?」
「はぁ………お前は気前良く振る舞えればそれで良いのかもしれないがな、いつも必ず昼食の最終決定権をこの私に委ねてくる情けないお前らしからぬ物言いをされた私の気持ちを、考えたことはあるか?」
「まあまあ、騙されたと思ってついてこいよ」
「待てよ、私はお前に騙されるかもしれないと疑っているわけじゃあない。ただ、いつも必ず昼食の最終決定権をこの私に委ねてくる情けないお前らしからぬ物言いが酷く気になっているだけなんだ」
「そこまで気にしてたとは知らなかった。いつも必ず昼食の最終決定権をお前に委ねてしまってすまなかったな。それで――」
「そういう事じゃあないだろ! 私はいつも必ず昼食の最終決定権をこの私に委ねてくることそのものを気にしているわけじゃあないと、そう言っているだろう!!」
「あーもう! 昼飯おごるってんだからつべこべ言わずに黙ってついてきたら良いだろうが!」
「なんだと⁉︎ お前というやつは、他人に対しいつも必ず昼食の最終決定権をこの私に委ねてくる情けないお前らしからぬ物言いをしてモヤモヤする感じにするだけしておきながら、それで上手くことが運ぶとでも思っているのかァッ‼︎」
「さっきからうるせぇんだよ!! っていうかこの間から何なんだよお前、わけのわからん話をこれでもかと並べ立てやがって!!」
「なっ………やはりお前は予てより私のことをそんなわけのわからん話をこれでもかと並べ立てる人間だと思っていたのかァッ!?」
「やっぱりそういうとこだよ!! なんでいちいちウンザリするような説明口調でしか会話が出来ねぇんだよお前はッ!!」
「おっ………お前という奴はァーーーッッッ!!!!」
スタスタスタスタスタスタスタスタスタスタ‼︎
「いや行かせねぇ!」
「…………なッ!? 回り込まれただとオォッ!?」
「フンッ……俺がそう何度も同じパターンに振り渡されると思うなよッ!!」
「何ッ!? お前はそう何度も同じパターンに振り回されるような人間では無いのだと、今そう言ったのか!?」
「てめぇそれがしつこいんだって言ってんだろうがァァァァ!!!!」
「なんということだッ!! お前がそう何度も同じパターンに振り回されるような人間では無いのだとすると、私はもう何度も同じパターンを使えないということになるじゃあないかッ!!」
「だからそれが――」
「もうダメだアァァアァァァァ!! 私にはそう何度も同じパターンに振り回されるような人間では無いお前を出し抜く術が何一つ無いということに、そういうことになるじゃあないかァァァッ!!!!」
「うるせぇってんだよオォオオォォォ!!!!!!」
パーン!
「ぐわああああああ……ん? クラッカー?」
「……まったく、折角準備してたってのに」
「え? 準備? 何だ、貴様一体何の話をしているのだ! 包み隠さず今すぐに答えろォ‼︎」
「はぁ〜……お前、流石に今日が何の日だかわかるだろ?」
「今日? 今日といえば私の誕生日だが……それと準備とに何の関係があるというのか……くっ!」
「いや『くっ』じゃねぇから。わかるだろわかってんだろ誕生日にいろいろ準備するといったらもうアレしかねーだろ。ほらさっさと行くぞ、みんな待ってんだよケーキ作って待ってんだよ」
「クソォッ……わからない、この私の完璧なる頭脳を以ってしても遠く想像の及ばぬことがこの世に存在するなどと、してしまうなどと……」
「いやだからね、誕生日にケーキ用意してるの。わかるわからんの話じゃあないからね。誕生日会をしようってだけのことだからねああもう言っちゃったよもう」
「それを貴様のような男に、まさかこの私が負けようとは……」
「頼むから聞いて? 人が話してるときはちゃんと聞いて? 習ったよねお母さんとか言ってたよね?」
「フッ……貴様もいよいよやるようになった……あとのことは、まかせた、ぞ……ウッ!」
バタンッ……
「し、死んでる……」
おわり。
伸びつきたぜ……まっすぐによ――――。




