7、昔からの言い伝え
オーク達の突撃をこの身に受ける。それも気勢をあげて。そこに意味はあるだろうか?
もちろんある。
本当は首領を殺せたら逃げるつもりだった。すぐに逃げるはずだった。
オークは首領を大事にする。ボスを、だ。だから頭を殺れたら反転してくる。村を襲うとかどうでも良くなるからだ。村の者達を押し留めるようにマルコとアグライアには話していた。オークの特異な叫び声が聴こえたなら、それはレイヴンの暗殺が成功した証だ、村から敵は引くから追うな、と。
レイヴンが逃げ遅れたのは偶々だ。ボスの側近どもが強かったのは仕方ない。
レイヴンが今から逃げてもそもそも逃げ切れない。だから……
村人達の為に死ぬ……
……なんて事は絶対にしない。
レイヴンは自分自身を強く、少しでも大きく見せようとする。
来るな! 止まれ! 逃げろ!
森の鳥が一斉に空に舞った。
オーク達は近くまで来て、足を止めた。
もちろんレイヴンがさっき割った香水の匂いが強烈なのもある。オークは鼻が利く。
ボロボロの外套は血に汚れ、中には黒い翼に見えた者もいたかも知れない。
オークの首領だけでなく、その護衛についていた猛者三人を既に倒し、返り血に染まっていたレイヴン。額からも血が流れている。
オーク達は散り散りに逃げて行った。
「な、んだ? 」
レイヴンには目の前で起こった出来事がよく分からない。
何故、オーク達は仇をほっておく?
呆然とするレイヴンの元に村の者達が近付いて来るのがわかる。先頭に立っているのは馬に乗っている三人。アグライアに、クロノス、サートゥルヌス。その後に村人達が走って来る。
「レイヴン! 」
アグライアが焦っているのがわかる。本名で呼びやがった。混乱の中の一幕だ、誰も気付かない、もしくは気付いても意味はわかるまい。レイヴンは手を振ろうと思うが、刀とともに下ろした手は上がらなかった。
「大丈夫? 」
「大丈夫に見えるか? だが、死んじゃいない」
「大丈夫ね」
そういうとアグライアが抱きついてくる。感情が昂るとよく分からない行動を取るのがまともな人間だ。クロノスとサートゥルヌスはよくやったと言いながら、少し離れている。
確かに、いつまでも女と抱擁したままというわけにはいかない。村での戦いでも傷付き、亡くなった者もいることだろう。
レイヴンがアグライアを落ち着かせるように身体から離す。そして、村人達へ宣言する。
「オークの首領を殺した。オークの略奪も阻止した……」
村人達は何も言わない。そう、数多くの犠牲者がいたのだ。村人にとって身近な者が剣で殺されることは滅多にない。
「終わりだ。もう戦う必要はない」
村人の顔色がおかしい。喜べというのは違うかも知れないが、安堵の表情を見せてもいいはずだ。
「お前は誰だ! 」
村人の一人が大きな声を出す。どちらかというと怯えているような……。
「悪魔か? 魔族なのか? 」
あぁ……。
「この黒い髪かよ……」
「俺達はもう逃げない。何も渡さない」
「悪魔の子だ、殺せ! 」
「戦うぞ、俺は戦う!」
槍を構える。立派なもんだ。オーク達は怖くて逃げ出したのかも知れないのに、こいつらは魔族と勘違いをしても槍を突き出そうとしている。
「いや、無理だ」
全員が全員ではないか……。逃げ出そうとしている者もいる。
その流れを全て止めたのは、マルコの声だった。
「槍を下ろせ! 俺が頼んだ仲間に刃を向ける奴は俺が斬る! 」
マルコは村人とレイヴンとの間に立つ。レイヴンを背に、村人達に話していく。
「本当の魔族がなんでお前達を助ける? なんでオークどもを蹴散らす? 」
マルコは村人達の目を一人ずつ見ていく。
「ヘロンは黒い髪だ。それがなんだ? 帝国は助けてくれたか? 公爵様は助けに来てくれたか? 」
「でもよ」
「黒髪は悪魔の子……昔からの言い伝えで確かにあるさ。で、悪魔の子だったとしても命の恩人じゃないのか? ジョージと俺が頼んだ、この恩人に手を出してみろ、絶対に殺す! 」
マルコの声に姿勢に村人達は何も出来ず、何も言えなくなる。
「もし、ヘロンの髪の事がカラハタスで噂になってみろ、俺はこの村の奴を一人も生かしてはおかない」




