6、哀しむなよ
激しい音が村外れまで届いていた。村から少し歩いた位置にある森の外縁部に四騎のオーク戦士がいた。どれも大きな馬であり、その中の一頭に乗る、装いからして目立つオークが呟く。
「これだけ毎年になると、準備している村もあるか……」
「申し訳ございません。先月の情報では何もなかったのですが……」
「だが、正面の門ももう落ちそうだ」
柵の片側が、戦槌で破られているのが見えていた。そして、後方で戦況をしっかりと見ていたこの四騎が動き始める。止めを刺す為に。
赤い羽根を兜に着けた大将格の一騎が連れの三騎に声をかけ騎馬を走らせる。
その瞬間に馬が崩れ落ちる。
他の三騎は既に走り出している。大将が落ちたのを信じられないと振り返った時、そこには大将の首へ刀を刺したレイヴンがいた。
「隊長! 」
「た、たいちょー! 」
レイヴンは突き刺した刀を喉の肉を斬りながら引き摺り出す。そして、その隊長から信じられない程の叫び声が響く。
叫び声がレイヴンの頭を殴る。死ぬ訳にはいかない。目的は果たした。だが、果たしたからこそ生きて帰らないと意味がない。
レイヴンが大音量を間近に聞いて、バランスが取れない程フラフラしていた。
ヴァルカスから聞いていた。大将格等、責任ある立場のオークは戦死する時、大音量で吠えると。
1つは、仲間に自分の死を伝える為。もう1つは、自分を殺した相手の行動を封じる為。
耳栓を準備していたのにレイヴンの頭はフラフラだ。残りの三騎が彼に向かってくるのは見えているが、頭が働かず、身体は思い通りに動かない。
哀しんで怒っているオークが剣を振り下ろしてくる。刀を上手く上げられない。
「哀しむなよ……」
大事な首領が討たれて怒るのはよく分かる。しかし、こちらも既に何人もの村人が殺されている事だろう。レイヴンは笑ってしまう。
剣はレイヴンの額に当たる。レイヴンは態勢を崩し、倒れていた大きな馬に足をとられ後方に倒れた。
「鉢金……だった……かな」
ヴァルカスから教えてもらった。ターバンの額の部分に鉄を一枚入れていたのだった。それが怒りに満ちたオークの一撃からレイヴンの命を救っていた。
「魔族? 」
頭のいいオークで助かったと言うべきだろうか? 人間の文化についての知識がレイヴンを生かし、このオークの命を失わせた。
魔族と呼ばれたレイヴンは朦朧とした意識から一瞬で覚醒した。怒りによってだ。彼が真に魔族であったなら、人間とオークの諍いなど放って置いて高見の見物で良いのだ。何故、魔族だと思う? そう、鉢金とともにターバンが取れ、彼の黒髪が現れたからだ。
そして、彼をいつも蔑んできた者達を思い起こさせる。
レイヴンは右手の刀を走らせる。オークが戸惑いながらも剣で応じる。彼がまともな状態であったならオーク戦士を斬れていただろう。だが、脳が起きたとはいえ、耳から轟音を受け、額に剣を受けているのだ。
レイヴンの攻撃でオークは逆に冷静さを取り戻す。オーク達はまだ三人いるのだ。魔族かどうかなんて事より人数を生かして囲んで殺すべき。
オークが剣を押してレイヴンを突き飛ばす。態勢を作り直し、オーク達が囲もうとしたのは運が良かった。オーク戦士は怒りのまま押し切るのが正解だったのだ。
ボロボロの外套の中の肩から提げている小さな鞄から瓶を取り出し、地面に叩きつける。
オーク達は呻く。その大きな鼻こそ彼等の強みであり弱みだ。
レイヴンは前から順に斬り捨てていく。一人目の内腿を下から斬り上げ、二人目の横に周り膝裏を、最後の一人の首を刺す。
それぞれが匂いのせいではなく、痛みの声を上げているところに確実に止めを刺していく。その頃には村での戦いは終わりに向かっていた。
こちらへ向かって来るオークは約20。その後ろから追い立てるように進んでくるのは三人だけ。凸凹コンビの二人と、あれはアグライアだ。いや、そのさらに後ろから村人達の姿も見える。
「さあ、あともう少し……」
レイヴンは片刃で緩やかに反った剣、美しい煌めきを放つ刀を天に突き上げ、迫りくるオークを睨み付けた。そして叫ぶ。
「死にたい奴から掛かってこい! 」




