5、これまでとは違う
準備は無駄にならなかった。敵が本当に現れたという意味で。
彼等はかなり大きめの馬に乗っていた。元軍人なのは間違いないとレイヴンは思った。これだけまとまって、オークの体格に合わせた馬を集めるには一般のオークには無理だからだ。
どちらにしろ、柵で村は囲ってあり、簡易の壕もある。馬から降りないと村攻めは出来ない。軍人相手でも防御側が有利だろう。
既にオークの一団が来ている事は伝えている。指揮はマルコが何とかしてくれるだろう。信じる事は大事なことだ。信じなけれなば何も出来ない。
※ ※ ※
「柵の隙間から槍を出せ! 顔は上げるな! 狙うのは太腿だ! 」
打ち合わせ通りの言葉を大きく放つ。ヘロンとヴァルカスからの指示を大きい声で出す。
最後までヘロンに指揮を頼んでいたのだが、ヘロンだけでなく、クロノスとサートゥルヌスからもマルコこそが指揮を取るべきだと話した。一番大きい正面の入り口をマルコが、反対側の入り口をサートゥルヌスが、どちらにも、それ以外にも動くのがクロノスとなった。
隣には自分と同じように震えながらも立つヴァルカスがいる。二人は指揮が取りやすいように拵えた門付近の台上にいたのだ。太腿を狙えというのはヴァルカスの意見だ。
まず、オークは腕力があるけど、動きは遅い。足元までは守りがなかなかいかない。さらに太腿には何でも血が吹き出るところがあるという。彼等の人間よりも太い太腿を庇う防具もない。なら狙いやすいし、致命傷を負わせる事ができる太腿を突くべきだと話してくれた。
オークどもが馬を降りて壕に入ってくる。大きな門は吊り板で橋にしていたが、それも引き上げた。壕を登って、柵を越えるしかない。
オークは大きな叫び声を上げて、手に持つ大剣を振り回すが、柵を越えてまで村人には届かない。村人の槍がオークに突き刺さる。槍を刺されたオークがそのまま乗り越えてこようとするが、他の村人が槍を逆に持ち、刺さずに突き落とす。
一度刺されて、さらに動くオークには刺さずに突き落とすようにと指示を出していたのはヘロンだった。
どこの位置も第一波は凌げていた。
「やれるぞー! 勝てるぞー! 」
村人の士気を上げる為にマルコは叫ぶ。自分達だけでなく、味方が同じように撃退している事を村人各々に伝えないといけない。
弓矢も村から飛んでいる。狩で使っているレベルなので矢自体は数も精度も低い。だが力強い一本の線が次々に壕の手前に置かれた大きな馬達の瞳に突き刺さる。矢の刺さった馬は暴れて、周りの馬にぶつかったり、壕に落ちたりする。
いける。本当にいけるぞ!
「俺達が行く! 」
オーク達の中でも、さらに体格の良い連中が大きな戦槌を担いで進んでくる。柵をぶち破るつもりだ。
「あのデカイ奴等を狙え! ハンマーを持ってる奴だ! 」
彼等も槍で刺されたくらいでは動きを止めずに、戦槌を柵に打ち付ける。ここまで善戦していた要がこの柵だ。これを壊されたら敵は一気に入り込んで来るだろう。
マルコは指揮台から斧を戦槌を持つオークへ投げる。
見事に的中した。オークは戦槌を持ったまま崩れ落ちる。
だが、反対側の左の柵が破られた。破れた柵からオークどもが次々に侵入してくる。
何人のオークを倒せただろうか? 残りのオークが突入し始める。半分は倒せたか……?
最初に侵入した特に大柄なオークが吠えて、後に続けと勇ましい姿を披露した瞬間、その大きな口に鋭い線が走る。口を貫かれたオークが立ち尽くした。
しかし、戦馴れしているオーク達が止まる事はなかった。柵の内側に入り込んでしまえば、村人とオーク戦士では格が違っていた。
もちろん、村人だって戦わないわけじゃない。槍を突き出している。だが、高い位置の槍は大きな剣で払われ、折られていく。
ついには後ろへ走り出す村人も現れる。もう無理だ……そう思ったマルコの目線に、それでもなお立ち向かおうとする若人が入ってくる。
ジョージだ。
「うおぉぉー! 」
叫んで槍を太腿に突き刺す。彼は教えられた通りに、ただ真っ直ぐに槍を出している。確かに突き刺さり、激しく血が飛び散る。
そして、その後ろにいた戦士が剣を振るってくる。嵐の音が響くように思えた。ジョージを狙ったその剣の軌跡へ、別の村人の槍が護る為に突き出される。
槍の柄を折り、そのまま剣はジョージの腹部に到達する。ジョージの叫び声が耳に届く。
マルコは指揮台から飛び降り、オーク達の侵入してくる破れた柵へ向かう。
ジョージは腹に入り込んだ剣を掴んだまま離さなかった。誰かが剣を持ったまま動けないオークに槍を突き立てる。
ジョージは薄れ行く意識の中で、これまでとは違うオークの吠える声が聴こえる。彼はオーク達が動揺するのを目にする事が出来なかった。




