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黒き獣と黒の誓約  作者: 夢未多
第3章 勇士
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4、鍛えてもらえよ

 のどかな村だった。収穫を目の前にした麦がたわわに実っている。麦の収穫が終わると秋が始まる。それがここら辺の風習だ。当然、収穫祭も行う。たいしたものではないが、神に感謝をする、ただそれだけのお祀りだ。


 普段はお祀りと収穫の準備に追われている。今年は収穫の準備は勿論だが、オーク襲来への準備にも追われている。


 だが、実はやる事なんて限られている。村の人数とその寝れる場所を考えて、元々の柵を強化する事と、通りに通行を防ぐ柵を作ることぐらいしかない。


 村についてすぐに村長や村の人々を集めた。レイヴンは指示をマルコを通して伝える。レイヴンは見た目に貫禄が無いことを知っている。


 村の人々の中で戦えそうな人々に、クロノスとサートゥルヌスが槍での戦い方を教える。あの二人なら問題ない。


 ヴァルカスには、村の柵の周りを掘って、壕にする作業の指揮を取ってもらう。


 マルコには村人への調整と、ヴァルカスやクロノス、サートゥルヌスの手伝いをしてもらう。


 村人からは謎の人物と見られるのを承知で、レイヴンとアグライアは村の周りを探索して回った。アグライアには弓矢の射程を確認してもらう意味がある。


「なあ、あんたらは何をしているんだ? 」


 ジョージが二人を見て難癖をつけてくる。ジョージの姿を見ると、傷だらけだ。勿論、大きな傷はない。クロノスかサートゥルヌスに直接鍛えられていると聞いていた。若者の中にはただ槍を突くだけで戦えないと感じている者もいるのだ。


「アグライアさんは弓矢を使う人だからいいんだが、ヘロンは剣を使うんだろ? 敵と直接やり合うんだろ? 」


「ああ」


「鍛えてもらえよ、マジで勉強になるぞ」


 レイヴンは怒りも笑いもせずに話を聞いている。アグライアがその様子を見ながら、ひとつ提案をしてくる。


「ヘロン、一度、こいつらに稽古つけてやったらどうだ? 」


「「何で? 」」


 レイヴンとジョージが同時に答える。勿論、アグライアの質問を疑問に感じたからではある。アグライアはレイヴンに対して答える。


「余裕がある時はマルコを通しての指示で良い。だが、緊急事態でヘロンが指揮を取る時の為にさ」


 レイヴンはアグライアの言う意味がわかった。レイヴン自身はそもそも指揮を自分が取るような事態になったら終わりと考えている。だが、何事も()()()は必要だ。


「そうだな、ありがとう。アグライア」


「おーい! 置いてくな! 」


「今日はもう訓練終わりか? 」


「いや、夜もある」


「なら夜に行くよ」


 実際にクロノスとサートゥルヌスの腕を知るのも大事だ。



 ※ ※ ※



 焚き火を準備しているのは、少しでもオークの襲来を防ぐ為でもある。


 オークは種族的に人間と同じく夜行性ではない上に、夜目も効かない。ただ元軍隊所属となると、夜襲はゼロと言い切れない。その為の焚き火だ。


 そして、食事が終わって、村の若い衆が広場に集まってくる。全員ではないが、やはり若い者の方が戦意は高い。夜の訓練だ。今夜はイベントもある。


 昔、賞金稼ぎとして鳴らした村出身のマルコが一目置いているヘロンと言う男が腕を見せるとジョージが宣伝したからだ。


「最初にさあ、俺とやってくれよ」


 そう、ヘロン、つまりレイヴンに声を上げたのはジョージだった。


「いいよ」


 木の棒で相対する。剣ではなく棒を使っているというのはあるが、なかなか堂々としている。頼もしい。


 レイヴンは全神経を集中させる。勝つのは簡単だ。勿論、練習は大事だ。ジョージも真剣に取り組んでいるのがわかる。だが、レイヴンも剣の型を意識しながら素振りをかかさない。練習の量が全然違うし、実戦の経験がある。


「行くぞ! 」


 打ち込まれてくる木の棒を、力が完全に入り切らない出だしの部分で、木の棒をスッと上げ、軌道を変えるように斜めに受ける。力を受け流されて勢いの余りに体制を崩したジョージの膝裏を、左前方に抜けながら足で押すと、ジョージは前に倒れ込む。


 後方からジョージの首筋に木の棒を合わせて止める。


「私にも練習させて貰おう」


 マルコが名乗りを挙げる。ジョージは一瞬にして、背後をとられ負けていた。


 普通に打ち合いをしているとマルコの強さがわかる。剣筋ははっきりしているし、恐ろしく早いわけでもない。しかし、無駄はなく、力強い。だから、苦戦する。負けないが、勝てない。じり貧だ。


 現役を引退していて、これなのだから、現役の時はどれ程強かったのだろうか……。


 周りは静かに、この戦いの行く末を見ている。


 木の棒を使っていたのが良かったのか悪かったのか、レイヴンの棒が折れたところで試合は終わる。


「勝てる気がしないな」


 マルコがそう言って自分の棒を置く。拍手が起きたのは、村の者がマルコを元々かなり認めていたからなんだろう。誰もレイヴンに対して侮る視線を見せなかった。


「おい、兄ちゃん。味方にも手の内は見せないタイプか? 」


 偉丈夫の二人がレイヴンの後ろに立ってからかうように話す。


「実力通りだよ」


「兄ちゃんが持ってる剣は、あれ、刀だろう? 剣での打ち合いみたいな真似しやがって可愛くないな」


「ま、あれだ、大将首は兄ちゃんに任せて良さそうだな」


 幾多の戦場を生き残ってきた二人組には既にレイヴンが考えている作戦は丸わかりだったようだ。


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