1、酒を奢られて
第3章スタート!
12/28にタイトル・あらすじを変更しています。
今年は絶対この村にやって来る。あいつらはここに来る。秋になるまで後1ヶ月。村に来た行商があいつらをあの森で見たなら、今年の標的はうちの村だ。襲われるまで、死ぬまで待っている必要なんてない。衛兵隊も公爵も当てにはならない。もう何年も知らんぷりだ。だから村長に戦うことを主張した。
村長も戦うことに賛成してくれた。どうせ殺されるのならと。だが、むざむざ殺られるつもりはない。自分達だけでは勝てないなら、一流の賞金稼ぎを雇おうと、村長は村のみんなに提案した。村のみんなも戦うことを怖れてはいるが、殺されたい訳ではない。村の会議で、戦うこと、賞金稼ぎを雇うことが決まった。
村の金だ。失敗は許されない。絶対にあいつらを追い払って、打ちのめしてくれる賞金稼ぎを見つけなきゃいけない。それも大至急!
このカラハタスに叔父がいる。酒場をやっているんだ、賞金稼ぎにだって詳しいだろう。
やっと見つけた目当ての酒場へ、青年は強い決意とともに入って行った。
※ ※ ※
薄暗い酒場ではある。高級な店じゃない、当然だ。だが、かなり気に入っている。賑やかな店だが、馬鹿な客はいない。店主は馬鹿な客を容赦なく出入り禁止にするからだ。
仕事が上手く行った後は必ずここに来る。そして、たらふく旨い酒とメシを食べることにしている。今日はレイヴンとアグライアだけだ。他のメンバーとは別れてきた。悪い奴らではなかったが、仲間にしたいと思えなかった。
「最近、盗賊ども増えてるね」
今回の道中でやり合った盗賊は五人組だった。護衛も自分達を含めて五人、商人は頭数には入れないので、五分の数だ。敵の気配に気付き、前もって対処ができたので、味方に被害も出なかった。大成功だ。
「盗賊の数が増えているのは確かだな。民の生活が苦しいからさ」
好き好んで盗賊になる奴はいない。生きていく為に盗賊になるんだ。もちろん商人が襲われてあげる謂れはないし、雇われているレイヴン達も手を抜いたりなんかしない。
「今日はこっちに座ってくれないか? 」
普段無口な主人から呼ばれる。もちろん二人で飲みに来ているのだからカウンター席でも問題はない。元々アグライアはここの常連客ではあったし、彼女と仲間になったレイヴンもよくここに来ている。
フード付きのぼろぼろの外套を着たレイヴンと、大きな弓を背に担いだアグライアという不思議な取り合わせの客を目の前に座らせた主人は二人に麦酒を出す。
「今日も仕事上手くいったんだろ? 」
「ああ、お陰様で。ここで受ける仕事はツキがいいんだ」
アグライアが返事をする。験担ぎは悪い事じゃない。レイヴンはもちろんこの主人の姿勢を買っている。だから、ここで受ける仕事は成功しやすいと思ってる。
「君らがここで失敗してないのは知っている。特にヘロンは味方に死人さえ出した事もないだろ? 」
ヘロンとはレイヴンの偽名である。彼は自分の黒い髪や黒い瞳を隠している。この世界では忌み嫌われるものだからだ。そして、その黒い髪・瞳を暗示させる『烏』を意味するレイヴンという名前を封印している。
「幸運な事にね」
「謙遜はするな、ヘロン。安く見られる」
「俺もアグライアが言うとおりだと思う。君は仕事をしっかり吟味するし、慎重だ。そこを買ってるんだ」
レイヴンは無茶な仕事をまず受けない。さらに仕事を始める前に打ち合わせもしっかりやる。死が隣にあるからこそ投げやりに仕事をする奴等が信じられない。
「酒を奢られて、ここまで煽てられると流石に慎重になるけどな」
主人は頭に手をやり、苦笑する。仕事の話があるわけだ。断られたくないんだろう。
「実は無茶な仕事を受けて貰いたいんだ。おい、ジョージ」
痩せた青年だ。身長は普通でレイヴンよりは高い。アグライアより少し低いか同じくらい。日に焼けた肌に細いながらも筋肉質な身体。特徴と言えばその目だ。余裕は感じられないが、真っ直ぐな目をしている。
「叔父さん、この人達はそんなに強いのか? 俺は失敗するわけにはいかないんだ」
「黙ってろ! すまねえ、田舎暮らしで物を知らないんだ」
「ヘロンを一目見て、強いと思えたら逆に怪しいわよ」
「気にしてないよ、マスター。あと、アグライア。失礼過ぎるよ、それ」
アグライアは笑っている。真面目なところは変わらないが、最近は明るくなったように思える。レイヴンは彼女にからかわれてそう感じる。
「とりあえず依頼教えて? 」
アグライアの質問に、ジョージと呼ばれた青年が答える。
「オークだ。オークを倒して欲しい」
「それくらい普通に請ける、マスター」
アグライアが主人に言う。持ち上げたりなんだりする必要はない。村に悪さするオークを倒すのくらい普通の依頼だ。依頼料が麦酒だけなら断るが……。
「こいつの言い方が悪いんだ。……オーク数人じゃないんだ。バロッコ国の残党どもなんだ。人数は多分50弱」
店の主人が麦酒を出すのも、レイヴンを煽てるのも当然だ。とりあえずもっと高い酒を貰いたいと、レイヴンは思った。




