9、黒の誓約
タイトルとあらすじを変えました。
交易都市カラハタスの北西の街区は元々は騎士団が多く住んでいた処だ。帝国の版図が広がる前はここから多くの騎士が出撃する為に集まっていたのだ。このカラハタスが既に帝国の中央近くと言った位置付けになった今は高級住宅街と言った形である。もちろん本当の金持ちは都市の中心付近に住んでいる。
そんな静かな街並みの中で、普通に広く、普通にしっかりとした建物に、アグライアとヴァルカスを連れてくる。隣が二人の実家なわけだが、魔物の大量発生を引き起こした研究者として、犯人の一味と見られるのが確定的なヴァルカスを匿わないわけにはいかない。
二人をあえて地下の部屋に案内した。今夜、ヘロンの家が調べられる事はない。一階でも、二階でも、どの部屋でも良かった。わざわざ地下室を案内したのは、ヘロンの言葉を信じてもらう為だ。
「うちの隠し部屋だ。ここで当分は身を隠してもらう」
「ありがとう」
「ありがとうございます。でも、本当になんでここまでしてくれるんですか? 」
ヘロンは、きちんと説明する、と言って一度部屋を出て行く。アグライアとヴァルカスに説明をする上で大事な人を連れてくる為だ。
ヘロンは一番大事な人を連れてきた。もちろん彼は隠すつもりがないからだ。
ヘロンと一緒に現れたのは、ヘロン同様にフード付きの麻の外套を纏った人だった。室内であるのに、フードを深く被り、顔を出来るだけ見せないようにしている。
「まず見て欲しい」
そう言うとヘロンはぼろぼろの外套を脱ぐ。そして、ターバンも外した。
同じようにヘロンが連れてきた人も生成りの外套を脱ぐ。
黒い髪と黒い瞳を持つ、まだ幼さが残る青年と、輝くような群青色の髪を持つ美少女がそこにはいた。
「俺の元々の名はレイヴン。彼女はアルキュオネー、俺の唯一の家族だ」
レイヴンは静かに告げる。彼等の容姿はこの世界では異端だ。黒い髪と黒い瞳を持つ人間などいない。魔族の血を引く、悪魔の子と呼ばれている。アルキュオネーの群青色の髪もかなり珍しいものだ。
「俺は悪魔の子供ではないんだが、生まれた時からそう言われている。まあ、両親を見たことないから、本当に悪魔が両親だって可能性もあるがな」
レイヴンの目の前に座るアグライアとヴァルカスは驚きの余り何も言えずにいる。アグライアは黒い瞳に気付いてはいたが、急に告白されて戸惑っていた。
「俺は生きる為に何でもやった。それこそ、ヴァルカスがした事より非道い事をしてきた。生きる為に、守る為に……」
そう言って、レイヴンはアルキュオネーを見る。
「だが、俺1人では難しい。どんなに力を付けても難しいだろう。俺は仲間が欲しい。真の仲間がね」
この世界は非情だ。人質を取る奴だっている。裏切る奴だっている。
「俺は君ら二人を救う。これは確かだ。嘘は吐かない。だが出来たら、二人には仲間になって欲しい」
「仲間を得る為だけに、あんな危ない話を渡ったのか? 」
「アルパゴンを殺した事かな? ヴァルカスに初めて会った時にすぐわかったよ。大切な人を守りたいという意志と、その為に嘘を平気で話せることに。だから絶対に仲間にしたいと思ったのさ」
レイヴンは今度はアグライアに向けて話す。
「アグライアにヴァルカスを逃がす準備を頼まれた時、二人を仲間にすると決めた」
「私達を仲間にして何がしたいの? 彼女を守る事? 」
「アルキュオネーも守る。……そして、アグライアもヴァルカスも守る。そして全てを手に入れる。自由が欲しいだけ、幸せが欲しいだけさ」
レイヴンは二人に宣言する。
「俺が悪魔の子でも、アルキュオネーが禁断の子でも、アグライアやヴァルカスが聖人でも犯罪者でも、俺が大切にしたいと思った人達を守る為なら、公爵だろうが、帝国だろうが潰してやる」
レイヴンの口調に、言葉に、アグライアもヴァルカスも圧倒されている。
「だって、帝国が何をしてくれた? 神が何をしてくれた? 」
アグライアが答える。
「いいわ、あなたは確かに弟を逃がしてくれた。私を助けてくれた」
「ああ、僕も何にも文句はない」
じゃあ、と言って、レイヴンはアルキュオネーに酒を準備を頼む。アルキュオネーが酒を持ってくる。
「これはここの元々の持ち主が置いていった酒だ。多分、かなり旨いと思う」
全員が酒を手にした所で、レイヴンが話す。
「最後に仲間として、絶対に約束して欲しい事がある」
レイヴンは首を振る。
「いや、違うな。……まず俺をリーダーとして認めてくれ」
全員が頷く。
「約束は3つ。一つ、絶対に仲間を見捨てない事」
全員が頷く。
「一つ、責任は上に立った者が必ず取る」
全員が頷く。
「一つ、裏切りには死を」
最後の言葉に冷たい決意が溢れていた。
「最初の仲間に、乾杯! 」
これが本当の意味での第一歩だった。
この3つの約束は後に『黒の誓約』と呼ばれた。
第2章は完結です。こんなテイストのお話ですが、読み続けていただけたら幸いです。




