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黒き獣と黒の誓約  作者: 夢未多
第2章 賞金稼ぎ
20/33

3、『保留』

2日に一回以上のペースでは更新していく予定です。少なくとも年末までは……。頑張ります。新たなブックマークもありがとうございます。

「知ってたのに話さなかったんだ」


「ドズルとダンに家を知られたい? 」


 そう、話すとさっさと歩き出す。アグライアもヘロンの言葉にそれはそうかと、頷きながら続く。前衛の二人はゲスだったからな。


 アグライアが黙って歩き出したのを確認したかのように、ヘロンが口を開く。


「弟さんはかなり仕事が出来るようだ」


 アグライアは弟が褒められたのを嬉しくは思いつつ、自分に対してそんな言葉をくれないヘロンに不満も持つ。そんな思いを含みつつ謙遜する。


「ただの気弱な奴だよ。お勉強が少し出来るだけの」


「お姉さん、てのは、弟に厳しいものなのかね」


 歩きながら、弟のこんな話を暢気にしている場合ではない。あのお馬鹿な二人が折角くれたチャンスを無駄にするなら自分もお馬鹿だ。アグライアは無理矢理流れを変えることにする。


「弟は軟弱者、それは間違いない。私は気弱な奴とは仕事したくないんだ。その部分で弟はダメ。ヘロンは、固定で一緒に動いてるメンバーいないんだよな? 」


「……いない」


「どうかな? ヘロンは腕もあるが、腕だけでなく、賞金稼ぎとしての気概を持っている。私と一緒に仕事続けて見ないか? 」


 沈黙。


 アグライアは、今回の仕事でそこそこ役に立つところを見せたつもりだ。射手しゃしゅとしての腕も悪くなかったはずだ。今回は一度も外していないし、タイミングよく決めれたと思っている。戦闘技術だけでなく、情報収集への意欲も見せたし、情報の共有も出来たと思っている。


 だから拒否されるのが苦しい。あと、何が必要だと言うのか? それとも女だからか?


「……信頼できる仲間を探している……ア」


「私は信頼できない? 」


「アグライアは信用している。ヴァルカスの方が信頼できそうかな、と感じただけさ」


「信用と信頼って何か違うの? 私の何が足りない? 」


 アグライアは訳がわからない。ライバルが弟?


「アグライアに足りないとこなんてないさ。今回仕事して知った限りではアグライアに文句つけるとこはない。ヴァルカスの方が信頼できそうってのは俺の勘でしかない」


 弟が誉められて嬉しくないわけではない。だが、何か複雑だ。アグライアの顔を見て、ヘロンがさらに続ける。


「アグライアに誘われて俺は素直に嬉しいよ。本当に優秀な射手しゃしゅだと確認出来たし、そんな人から誘われたんだから。どうだろう、もう一度仕事してみないか? 長く一緒に仕事していくかも知れない固定のメンバーを急いで決める必要はないだろ? 」


 ヘロンの答えは、『保留』って事になる。アグライアは自分の何が足りないのか考える。弟の方を信頼できそうと云うのが、鍵なんだとは思うが……。


「次の仕事の当てもあるんだ」


「なら酒を飲みに行く」


 このまま家に帰っても、悶々として眠れそうにない。それなら、次の仕事の話を聞くのがいい。酒を飲みながらなら、ヘロンの本音ももう少しわかるかも知れない。


「仕事が成功したのに、飲んでもいなかったな」


 よし、とことん訊いてやろうじゃないか。酒には自信がある。ドワーフの飲んだくれなら話は別だが、ヘロンが多少飲める口でも負けるわけがない。アグライアは力強い足取りで前に出る。


「私の行きつけがあるんだ。そこでいいか? 」


「任せる。景気よく行こう」



 ※ ※ ※



 アグライアの馴染みの酒場に、ヘロンを連れてくる。じっくり話すならここ以外はない。


 アグライアは既に五年の歳月を賞金稼ぎとして過ごしているが、分け前をぼったくられたり、言いように少ない配分にされる事が何回もあった。お金の問題だけでなく、甘い計画で仕事を行い、命の危険に晒された事も何度もある。


 その中で、頼りになる酒場、というのが存在するのもわかってくる。ここの主人は普段どちらかというと無口で穏やかだが、何か問題を起こすような輩はしっかりと出入り禁止にする。だから、ここで仕事仲間を探しているグループに混じれば、そういうトラブルがほとんど発生しないのだ。


「どうも」


 そう言って中に入る。何組かの賞金稼ぎらしきグループが酒を飲んでいる。


「感じがいいな」


 そう、ヘロンが呟く。賑やかではあるが、暴言が飛び交うような酒場では無いことを見てとってくれたのだろう。アグライアは安心してお気に入りのテーブルに座る。ここが空いているのは()()ている。


 とりあえず麦酒でいいかを尋ねると、ヘロンは弱い酒の名を口にする。


「いつもこの酒なんだ。不味いが昔から飲み慣れててね」


 彼自身を晒す表れだと、アグライアは思うことにして、ヘロンの言った蒸留酒と、自分の為の麦酒を頼む。


「ヘロンは酒強くないのかい? 」


「そうだな、すぐ眠くなる」


「ははっ、なら仕事の話を先に聞いとくか。あ、でも潰れてもきちんと連れて帰るぞ」


 アグライアは自分の声が上擦っているのを自覚する。悟られないでいる事なんて無理だろう。慌てるように麦酒を飲み込む。


 ヘロンが追加の麦酒を頼んでくれて、何事もなかったかのように仕事の話を始めてくれたのが嬉しかった。


「実は、公爵家から出てる依頼なんだ。知っているかも知れないが魔物の大量発生に関しての情報集めだ」


「もちろん知ってる。情報の中身次第で報酬はいくらでも出すっていう? 」


「そう、それ」


「ああいうのでまともな金が支払われるの? 」


「どうかな? でも、俺達にはかなり有利な部分がある」


 アグライアは酔いが回る前にこれくらいは答えたいと思う。実際に発生した魔物、新種の化物豚に出会っているのは有利かも知れない。だが、ここ最近魔物が増えているのは事実で、この交易都市カラハタス近郊で遭遇している人もそれなりにいるはずだ。


「俺は魔物には詳しくないんだが、ある種の人間には凄く詳しいんだ」

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