2、姉さんもやるね
ブックマークもですが、評価ポイントもありがとうございます。頑張って書いていきます。
化物豚の死体を運ぼうと言い出したのはヘロンだった。通常、魔物、化物の討伐証明はその魔物の特徴的な部位を持ち帰り、見せればそれで終了、依頼料を受け取れる。
今回はこのカラハタスからすぐの村からの依頼だから、村長に化物豚の牙を見せたら終わりだった。
「これ間違いがなく新種だろ? 魔物の研究をしているところにでも持ち込んだら金になると思う。どうかな? 」
「えっと、私に聞いてる? 」
「弟さんが研究者って言ってなかった? 」
アグライアは化物豚の弱点、もし新種であったとしても変わりにくい弱点を三ヶ所、弟から聞いていたし、それをヘロンに伝えていた。
「雇われ研究者だからわからない。訊いてみないと」
「マジでこの重たそうなの持って行くのかい? 」
通常の化物豚でも重いのに、二回りは大きそうな新種を見ながら、ダンがうんざりな顔を見せる。
「いや、もちろん荷馬車を使う。村がすぐ近くだから借りてくる。金が必要そうなら、俺が立て替える。アグライアの弟さんを雇ってるのはアウルム商会だ。金払いはいいと思うよ」
もちろん力仕事担当のドズルもダンも荷馬車まで用意してくれるなら、この話に乗らないわけがない。ヘロンが荷馬車を取りに行って戻って来るのを三人で待つ。
「よう、姉ちゃん」
「アグライアです」
長身のアグライアに下から話しかけるドズルは髭面を笑わせながら言う。ドズルが特別低いわけではない。ドワーフ特有のがっちりした体格であるだけだ。
「アグライアは常に働いてる仲間ってのいないんだろ? 」
ドズルとダンは、普段別のグループで仕事に行くのがメインで今回は空き時間の小遣い稼ぎと言う形だ。
「あの小僧、なかなかやるぞ」
「私もそう思う。剣の腕も確かだし、頭も回る」
ドズルとダンは顔を見合わせてから、ニヤリとしながら、彼女にさらに言う。
「なら声を掛けてみたらいい。お似合いだぞ、なあ」
「ああ、凸凹コンビだ」
ヘロンは間違いなく背が低い。どちらかというと痩せてもいる。年齢的にも成長中というところだが、アグライアと並べば凸凹コンビで間違いがない。
アグライアももちろん言われるまでもなく考えていた。射手としての腕を買ってくれるのは嬉しいし、何より射手の必要性を認めている者とチームを組めるのは嬉しい。
「だが、あれほどの腕で今まで誰とも固定のメンバーを組んでいないんだから、断られる可能性も高いと見てるんだ」
アグライアは素直に話す。こちらとしては文句なしだが、相手側がどうかは話が別だ。
「そこはアレだよなあ」
「ああ、色気でどうにかしろ」
「小僧なんだから、大丈夫だ」
アグライアは脱力するしかなかった。真面目に考えているのが馬鹿らしくなる。まだ、アグライアは長身で自分自身でも可愛いだとか、色気があるとか、思ってもいないし、現実そうであるからなのか、こういう軽口を叩かれる事は少ないが、賞金稼ぎなんてしているとなくはないのだ。
牧場の外、雑木林の近くの開けた場所で、まだ日が高く少し暑かったが、風がしっかり通っていて気持ち良かった。
※ ※ ※
アウルム商会で無事に買い取ってもらう事になり、商会指定の倉庫まで運んだところで、ドズルとダンとは別れた。最後に小声で、二人っきりにしてやるから上手いことやれと言われたのは腹立たしかったが、あの二人がいない方がスムーズなのは間違いない。
新種であるはずの化物豚の確認には弟のヴァルカスが来ることになっている。発見した詳しい場所や倒した時の様子を伝えることが買い取りの条件に含まれていたからだ。
「結構な額になったね」
「上手くいった。待った甲斐はあっただろ? 」
「ああ、間違いない。ヘロンは遣り手だな」
「がめついだけさ」
「がめついのは賞金稼ぎとして優秀って事。ところで……」
アグライアが本題を切り出そうとしたところで邪魔が入る。いや、邪魔と言うわけではない。約束通り担当のヴァルカスが来ただけだ。
「ど、どうも。魔物の研究をしているヴァルカスと言います」
「ヘロンだ」
そう言って、ヘロンが右手を差し出す。ヴァルカスがあわてて右手を出し、握手をする。人付き合いが苦手な弟が、仕事で人と会話を交わすのを見るのは面白い。アグライアは頭を軽く下げるだけにして、話はヘロンに任せる事にする。
「まず場所からいいですか? 」
ヘロンはヴァルカスの口調にあわせるように丁寧な言葉遣いで話し出す。
「ここカラハタスから東へすぐのケニアって村です。その村の外れ、牧場があるんですが、その外の雑木林から出て来ました」
「向こうからあなた方へ攻撃してきたんですか? 」
「キノコを篭ひとつ持って歩きましたけどね」
二人でアグライアを見て苦笑する。キノコで誘きだしてみては、というのは弟からのアドバイスだからだ。
「額に特製の矢を当てるのも上手くいきました」
「特製の矢? 」
二人でアグライアを見る。アグライアは弟のアドバイスを元に自分で作った矢を説明する。
「姉さんも、やるね」
ふてくされてみる。アグライアは弟に頭では敵わない事を知っている。だが、頭を使わないわけではない。
その後も細かく二人は新種の化物豚との戦闘状況を話している。気弱な弟がきちんと話せてる事に安心しながら、その様子を見ていた。
話が終わり、アウルム商会の倉庫を出た時にはもう辺りは暗くなっていた。
「すみませんが、姉を送ってくれませんか? 」
「これでも賞金稼ぎだぞ」
「お任せ下さい」
ヘロンがそう言って手を上げる。弟が頭を下げているのを背にして歩き出す。アグライアはヘロンに言う。
「護衛は要らんぞ」
「お隣さんだからですよ」
今まで一言もそんな話を口に出して来なかったので、気付いているのは自分だけかとアグライアは思っていた。
以前から思ってたんですが、登場人物紹介とか必要ですか?
必要なら書きます。書いてる人も結構な数いるので……。