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黒き獣と黒の誓約  作者: 夢未多
第1章 殺し屋
17/33

17、レイヴン

 温かい。温もりが嬉しい。どこか甘い香り。優しく包んで来る香りとともに、穏やかな歌声が耳をくすぐる。聞き覚えがある響きだ。いつまでも寝ておきたい気がする。目覚めたくない。


「甘やかすな。もう起こしていいだろう。おいっ……」


「待って待って。気持ち良さそうに寝てるのに起こさなくていいでしょ」


「身体に問題は無さそうですか? 」


「ああ、身体は問題ないよ。起こして問題ない」


「待ってあげてもいいのに」


 三人の女性の声が賑やかだ。頭ははっきりしていないが、寝続けていい方に転ぶようにも思えず、瞼を開く。


 おはよう、と優しく話す、アルキュオネー。


 視線を外す、イシス。


 からかうような笑みを見せる小夜啼鳥(ナイチンゲール)


「ここ何処? 」


「ここはあたしの隠れ家の一つ。で、買い出しから戻って来たところさ」


 そういうと林檎を渡してくる。上半身だけ身体を起こして受けとる。手ぶらになった小夜啼鳥ナイチンゲール生成きなりの麻の外套がいとうを外す。暗闇だから気付けなかったと言うのは言い訳にしかならない。彼女の髪は美しい赤だった。


「知り合いだった? 」


 イシスへしっかりと身体を向ける。彼女の右腕の服がそよ風にゆらゆらとなびく。そうだ、顔に痛みは見られないが、確かに切り落とされたままだ。


「そうなの。元々の知り合い。……大丈夫よ、痛くないから」


 イシスがレイヴンの視線に対しての返事を口にする。彼女の顔をゆっくり見るのは初めてだ。大きくて丸っこい虎の目のような形をしている。瞳も大きい。その目がコロコロと表情を変えている。面白い子だ。


「ありがとう」


「別に。大事な人なんでしょ? 」


 イシスはアルキュオネーを瞳で示す。アルキュオネーの目は上まぶたにシワが重なり美しい長い目をしている。アルキュオネーがイシスに答える。


「兄妹だと思ってくれてるの。私達孤児院出身で同じ日に捨てられたの、同じ場所に……だから、殺し屋なんてしてたのよ」


 途中から口調が厳しくなるのを感じたが、二人きりではないのでそれ以上は言わなかった。今回いくつか傷が出来ただろうが、アルキュオネーからしたらどうって事ないのだろう。どちらかと言うと万能薬エリクサーが効いて体調は良いのかも知れない。


「で、身体を治したらどうするんだい? 」


「リリアンの話か? 」


「そうだ」


「殺したろ? 」


「他の連中は? 」


「リリアンが死ぬ瞬間に後悔してたなら後はどうでもいい。俺を殺しに来たら返り討ちにする、それだけ」


「後悔というか、恐怖は感じていたな。あの顔なら」


 レイヴンの()()()()の部分には笑っていたみたいだが、小夜啼鳥ナイチンゲールは返事に納得したのか、話を続ける。


「とりあえず、『黒き獣の牙(アダマントファング)』は返して貰うつもりだ」


「あれは私が……」


「あたしがアールマティだ」


 小夜啼鳥ナイチンゲールの言葉に嘘はないのだろう。あのイシスが反論出来ずにいる。アータル族当代の巫女は殺し屋らしい。


「いい眼をしているし、資格はあるかもしらん。だが今は無理だ。あの刀に飲み込まれて終わりさ」


「使いながら強くなっていくものでしょ」


「独りでどうにかしようなんて思ってる内は駄目さ。一番必要なのは心の強さだよ」


 傷だらけの自分自身を見て、イシスの失くなった右腕を見る。アルキュオネーを見てから、レイヴンは小夜啼鳥ナイチンゲールに答える。


「はい、返します」


 と言っても手にしているのはレイヴンではない。枕元に置いていた刀をイシスが再び手に取る。


「素直だな、少年。レイヴンって名前は自称かい? 」


 突然の質問の意味がわからない。


「俺が捨てられた時に、手紙があって、俺の名前が書いてあったらしい」


「レイヴンってのは古代語でカラスって意味さ」


「あの黒い鳥だろ? 俺を的確に表してるって事だ」


カラスは、知恵者で欲張りなんだがな。あんたは欲が足りない」


 そう言って、アールマティはじっとレイヴンを見詰める。そして、力強く言い切る。


「全てを欲しがってみろ! 全てを手に入れ、全てを守り抜く気概を見せろ! 」


「全てを守り抜く……」


「レイヴンは私達を守ったじゃない……」


「いや、いい。ナ……アールマティ、お願いがある」


「言ってみな」


「俺はその刀に相応しい男になる。守りたい者をどんなことをしても守り抜ける男になる。その時、その伝説の刀を受け取らせてくれ」


「ん~、イシス。本当にこいつを予定にしとくのか? 」


「ええ、彼以外には考えられない」


 アールマティが腰に差していた細い剣を鞘ごと外す。


「こいつを貸しといてやる。真の欲張りになったら返してもらう。後、例の金貨100枚の懸賞金の話も既になくなってるからそこは安心しろ」


 真犯人がニヤリと笑う。


 真の欲張りか……。全てを手に入れ、全てを守り抜く……なってやろうじゃないか。どんな事をしても、大事なものを守れる存在に。


 何も持たない人間だと思っていたが、大事なモノは意外と多い。それに善人を目指すより、神に救いを求めるより余程いい。


「立派なカラスになるさ」


「黒い豹もカラスも黒き獣だな」


 そう言うと、アールマティはイシスを連れて出て行こうとする。イシスが振り向いて最後に一言放つ。


「レイヴンは何にでもなれるさ」

12/28に修正しています。

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