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黒き獣と黒の誓約  作者: 夢未多
第1章 殺し屋
15/33

15、禁断の子

 レイヴンは身体が潰される気がした。返り血の入って見えにくくなった視界が暗くなっていく。意識が遠のいていく。


「「レイヴン! 」」


 どちらの声が届いたのか、レイヴンにはわからなかった。わかったのは自分にちからが流れ込んで来ること。


「なんだあ? これなんだあ? 」


 オーガの疑問に答えはしないが、レイヴンは自分が燃えているのだけはわかった。彼を圧迫していた巨体な腕が外れる。彼は床に落とされる。


「間に合ったみたいだね」


 レイヴンはその声に身体を震わせる。何が間に合っただ、絶対に許さない。


 オーガがテーブルを投げ付けてくる。レイヴンの身に確かにぶつかる。彼は強い痛みを感じるが、オーガどころの話ではない。


 目の前に、あの女がいる。リリアンがアルキュオネーの首にナイフをあてて立っていた。アルキュオネーは縄で縛られ、リリアンの手下が縄を持っている。さらにもう一人の手下は処刑人用の剣を持っていた。刃先が尖っていない、突く必要のない、首を切り落とす為だけの剣を持っていた。


「そうよ。そのまま死んでちょうだい」


「リリアンっ! 貴様」


「レイヴン……」


「レイヴン、後ろ! 」


 レイヴンはイシスの声に反射的に身体を転がす。どこから持ってきたのか、オーガがハンマーをレイヴンがいた位置に叩きつけていた。


「避けたら駄目よ、この娘がどうなってもいいのかい? 」


 リリアンがそう言うと、手下がアルキュオネーをひざまずかせる。もう一人の手下が処刑人用の剣を振り上げる。


「俺が死んでも、どうせ殺すだろ。なら人質にはならん」


「殺さないわよ、売れるもの」


「貴様! 」


「そうね、お前が黙って、殺されたら、この娘も殺してあげる。で、お前が歯向かうなら、売ることにしようかしら? 悪魔の娘で、これだけ美少女なら、きっと皆悦んでいたぶる事でしょう」


 そう言うと、リリアンはアルキュオネーの群青色の髪をかき上げて耳を見せる。


「貴様~! 」


 尖った耳があらわになる。イシスがその耳を見て驚くのが、レイヴンには見えた。アルキュオネーの耳の形は紛れもなくエルフのものだ。だがアルキュオネーの髪の色は金髪ではない。


「この娘は禁断の子だろ? エルフとドワーフのハーフ。ふふっ、これは高く売れる。……さて、売るも殺すもどちらでもいいが、黙って死んでくれるなら、お前の希望を聞いてやろうじゃないか」


 決して大きな声ではない。だが、リリアンの声が響く。


 オーガがリリアンの話など関係ないと、レイヴンに突っ込んでくる。


 レイヴンは時の流れが恐ろしくゆっくりと感じられた。


 左側にいた赤い髪の少女がリリアン達の元へ走り込む。突然の事に、リリアンも、手下も反応が遅れている。縄で縛られたアルキュオネーが横に飛ばされる。


 レイヴンは反射的に後ろへ振り向き、オーガの首筋へ黒い短刀を振り切る。そのまま回転して、リリアン達の方へ向き走り出す。


 彼の目の前に振り下ろされた処刑人の剣が見える。


 そう。既に振り下ろされていた。


 血塗れになった外套を羽織った少女。


 床に落ちた右腕。


 少女が崩れ落ちるように倒れる。


「イシス! イシスっ! 」


 レイヴンは少女の前に屈む。彼女の頭を抱える。


「なんで……」


「失敗した? 」


 突き飛ばされたアルキュオネーは酒場に元々いた男の一人に取り押さえられている。


 リリアンの前には、オーガ以外の手下達が集まってきている。


 レイヴンは首を振る。失敗したなんて言えない。イシスに笑顔を見せる。彼は見せることが出来たと思った。


 彼はイシスを床にゆっくりと降ろす。そうだ、最終的に成功すりゃいい。


「ああ。お前ら皆殺しだ」


「わ、笑わせる。お前に何が出来るってんだ」


 男の一人が反応する。最後列にいたから声が出たのだ。


 レイヴンの身体からは黒い炎が上がっている。自分の身を焦がし、同時に相対する者には死を予兆させて燃えている。


「彼女を助けたくないのかい? お前が歯向かうから余計な血が流れる。別に殺さず、売らず、ほっぽり出すのを約束してやってもいい」


 リリアンがアルキュオネーを顔で示す。


「レイヴン、間違わないで」


 アルキュオネーがはっきりと伝えてくれる。レイヴンはわかっていると頷く。既に自分もどうなるかわからない。このまま死ぬならせめて、あの女だけは殺す。化け物に、本当になってしまったっていいだろう。


 彼を裏切り、彼の大切なものを奪っていこうとしている。ああ、簡単には殺さない。今まで生きてきた事の全てを後悔させてやる。


「あああぁ! 」


 リリアンの手下の一人がレイヴンに斬りかかる。既に満足に身体を動かせないレイヴンは左腕で剣を防ごうとする。避ける自信がないからだ。


 剣は彼の左腕で止まる。剣はグニャリと曲がっていた。だが、彼の左腕も折れていた。


 剣の異常に、男は引き下がる。しかし、彼はゆっくりとしか前に進めない。


「動くなあ! 絶対に動くな。本当に殺す。絶対に殺す」


 アルキュオネーの首元に剣が当てられている。


 レイヴンはアルキュオネーからリリアンに視線を戻し、一度目をつむる。もう一度、目を開けてゆっくりと前に進む。


 男はアルキュオネーに当てていた剣を引いて切ろうとした。


「ひとりでは限界があるのさ、少年」


 男は剣を動かせなかった。男の喉から剣が突き出ていた。そして、彼女は現れた。

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