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#8 死神と夏祭り(前編)

さて、この物語も終盤に差し掛かってきました(全12話構成です

恋愛の裏側に潜む様々な思いを感じ取ってください

「ごめん、待った?」


 私が走っていくと、すでに待ち合わせの鳥居の足下に福本はいた。携帯電話を片手に鳥居にもたれかかっている姿は、まさに現代の若者と言った感じで、この行き交う人混みの中でも立ち止まっているその姿を見つけるのは容易なことだった。


「別に待ってないけど、なんだよその格好」


 水色をメインとした浴衣と金魚のように真っ赤な帯。珍しく自慢の長い髪を後ろで一本に縛って、ポニーテールにしてみた。なんでこんな格好をしているのか私自身にはわからない。もしかして福本に気に入られようとしているのか? そんな風に自問自答してみる。


「どう、似合ってる?」


 自分でも馬鹿かと突っ込みたくなる一言。自分では気に入ってはいるけど、こんな格好をした意味が分からない。それに福本の性格上、照れくさくて似合ってるや可愛いなんて言うはずもない。なのに私は何を期待しているのだ。


「……いいんじゃないの? 俺は可愛いと思うぜ」


 まさかの解答。私の顔はトマトのように赤らんでいるのだろう。一気に顔面が熱くなるのを自分で感じる。やはり福本と言う人間が分からない。


「そんな冗談言ってないで。ほら、行くぞ」


 そう言って福本の手を握って、人混みの中へと進んでいく。手を握った瞬間、福本の口から「えっ」という声が漏れたのを聞き逃していない。よくよく考えると恥ずかしいが、今更握った手を放すのも変な感じだ。

 人の流れに乗り露店の前を通り過ぎていく。スーパーボールすくい、りんご飴、綿菓子などよくある露店が並んでいる。手を握り私が先導するような形で歩いていると、突然福本が歩くのをやめた。


「なあ、金魚すくいやらねえか?」


 何事かと思った直後、私は呆気にとられた。だが福本は乗り気だ。


「しょうがないなぁ、でも一回だけだからね」

「よっしゃ、勝負だ! おっちゃん、二人分ちょうだい」


 屋台のおじさんは福本の手から百円玉を六枚受け取り、ボールとポイを二つずつ福本に手渡した。

 子供みたいなことをしたがる福本とあの冷たい眼をする福本。一体どちらが本当の福本なんだ?

 そんなことを考えていると福本の手が私の右肩をトントンとノックする。


「ほら、受け取れよ」


 私の方へ、ポイを一本突出してくる。顔を見ると本当の子供みたいに笑っている。私はそれを受け取りボールに水を少しだけ入れ、水面へ浮かべる。

 水槽を優雅に泳ぐ金魚を見て私は思う。この福本が本当の姿ならいいなと。


「おらぁ! 一匹ゲット」


 見ると福本のボールの中で金魚が一匹泳いでいる。


「なに! あんた、フライングだってば!」


 慌てて福本の方を向いて言う。しかし福本は悪戯を成功させた悪ガキのような達成感に満ちた顔をして言い返してくる。


「へへん、早い者勝ちだよ〜だ!」

「えい! へっへ〜ん、これでおあいこだよ」


 福本の目の前で私も一匹すくってやった。おかげで達成感の満ち溢れた顔は、いつしか闘争心に満ち溢れた負けず嫌いの子供の顔へと変わっている。どこかしら漂う子供っぽさは消えるどころか強まるばかりで――――


「なら、これならどうだ!」


 なんと福本のポイの上には二匹の金魚がぴちぴちと力なく跳ねている。私が驚くと、福本の顔はいかにも「どうだ」と言わんばかりに誇らしげなものとなっている。


「絶対負けないからね」

「俺の方こそ」


 私たちは大人げないほど子供のように金魚すくいではしゃいでいた。途中ふと見た福本の顔に少し見惚れそうになったのは、福本には気付かれていないだろう。


「ふう、私の勝ちね」

「くそう、なんで紅なんかに負けるんだ」


 結果は私の勝ち。福本が調子に乗ってまた二匹同時にすくおうとして、紙を破ってくれたのが勝因だ。子供のようにはしゃぐ私たちを見て、ボールを返す時に店のおじさんが笑っていた。

 恥ずかしさから二人とも俯き加減で慌ててその場を立ち去った。

平和な日常――それはかけがえのないものです

それを一番感じているのは彼女自身かもしれません

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