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#5 水も滴るいい死神(中編)

どうも、作者のとびうまです。

今回は一波乱起きます。

この辺りから彩の気持が揺れ動いてきます。

正直いうとこの話が3番目に大事な話です(微妙とかは無しでお願いします)。

 手の平サイズの小銭入れを握りしめ、行列に並んだ。さすがにこの時間ともなると、昼食を求め並んでいる人も多い。こんなことを言っているが私も同様に並んでいるのだが。

 ここはプールから上がって、階段を上がってところにある。すぐ横をウォータースライダーへ乗ろうと上る人にすれ違う。少し昼食をずらそうとするのが狙いだろうが、こうも人が多いとそこまで意味がないように思える。

 意外と回転率がよく、あっという間に私の番が回ってきた。食堂で働くおばちゃんたちに感心する。カウンターに書かれているメニュー表を確認していると、店員が声をかけてきた。


「いらっしゃいませ、何にします?」


 この文字の上ではわからない微妙な関西弁のイントネーションと、私を見ての声のトーンの上がり方をする男性を、私は一人しか思い当たらない。


「……何やってるんですか、氷堂さん?」


 顔を上げるとエプロン姿の銀髪の男――氷堂さんがこっちを見てニコニコしている。


「何って見ての通り、食堂の食券係のアルバイト。これが学校の先生とかカリスマホストに見えるか?」

「……きつねうどん五つ、お願いします」


 どうも関西人?のノリは私にはわからない。これが私の恩人で最も大切な人だと思うと泣けてくる。心の中で大きく溜め息をついた。


「なんで僕はこう彩ちゃんに嫌われるんやろうな? もしかして反抗期?」


 この人は悪気がないのが分かっているんだけど、なにかなぁ……。少し苛立ちを覚えつつ咳払いをし、食券五枚をカウンターに叩きつけるように置く。


「きつねうどん五つでお願いします」


 私の気迫と食券を叩きつけた音にたじろぐ氷堂さん。後ろのお客さんからも白い視線が注がれる。少し後悔した。


「冗談のわからん子やなぁ、ハァ……。きつねうどん五つで〜す。なぁ、それよりあれ見てみ」


 氷堂さんの指差すのは、私の真後ろのウォータースライダーの乗り場。その先頭に立っているのはあの福本だった。


「彩ちゃん、君ができんねんやったら僕がってもええねんで?」


 いつもと声のトーンが違う。私が最も恐れている本気で殺しを行う時の兵頭さんの声のトーンだった。慌てて振り返って最初に目に入った氷堂さんの笑顔が少し怖かった。確かに私の使命は福本俊輔を殺すこと。代わりに氷堂さんが殺したところで何ら問題がない。しかし何だろう、この嫌な感じは……。あいつを殺すのは私だというプライドか? いいや違う。そんな感情ではない。第一、今の私は使命こそ覚えているが、殺すことを実行に移すことなどさらさらやる気が起きていないのが現状である。


「君がホンマに自分の手で殺るって言うんなら、ここは手を引いてもええねんで?」


――手を引いてもいい。このテンションの時の氷堂さんは絶対に嘘はつかない。それを分かっているからこそ、自分があいつを殺すと言えなかった。

 私が考えている間にスライダーを滑り始めた福本。楽しそうな笑顔を見ているとす気が一層、消えていく。


「ハァ、今の君を正気に戻すには僕が代わりにるしかないようやな」


 そう言うとカメラマンがカメラのポジショニングを確認する時のように右手の人差指と左手の親指を、左手の人差指と右手の親指を合わせ横に長い長方形を作る。


「待ってください、氷堂さん!」


 必死さのあまり声が裏返る。


「もう遅いよ、僕が彼をる、ただそれだけ……」


 狐のような切れ長の眼が一瞬にして大きく見開く。その眼は血走っていた。

 福本の方も何だか様子がおかしい。寝そべって滑っているのに、手足が徐々に縮んで、関節で曲がっていく。顔の方は相当苦痛を浮かべている。おそらくだが、福本の筋肉を収縮させているのだろう。死神の中でもかなり特殊なスキルの持ち主の氷堂さんだからこそできる技だ。なんて感心している場合じゃない。私は無意識に助けようと下りの階段の方を向いていた。


「行ってもええんか? もし行ったら僕は君を死神協会に突きださなあかんって知ってるやろ。かわいい弟子をそんな目に会わせたくないねん」


 二、三歩歩いた時、氷堂さんの言葉を聞き静止した。氷堂さんを取るか、福本を取るか――。二週間前の私ならば間違いなく即決で氷堂さんと答えていただろう。そう考えたとき、私は死神の誇りを失っていることに気がついた。その瞬間わずかながら瞳が潤いを帯びた。


「わかりました……。それなら私自身の手であいつを、福本をります……」


 そう言った自分がなぜか釈然としなかった。斜め下を見つめて、その場に立ち尽くしていると、氷堂さんは指を離した。それで助かったというようにホッとしたのも束の間、筋肉が硬直したまま福本はプールへと着水した。氷堂さんにああ言った手前、ここで私が行ってやることはできない。しばらく浮かんでこない福本。私は冷たい眼をしてそれを見つめていたが本心では、心配で駆け寄りたい気持ちでいっぱいだった。しばらく上がってこない福本に気付き、監視員がようやくプールへと飛び込んだ。


「ようやく君の本心がわかったわ。三日間だけ猶予をあげるから、早いことあの子のとこ、行ったりや」


 いつものように薄ら笑みを氷堂さんは浮かべていたが、それがなぜか憎かった。氷堂さんにこんな感情を抱いている自分にも腹が立ち、同時にそんな自分が不甲斐なくも思えた。

 そんな感情を押し殺し、私は福本の元へと行くために階段を駆け下りていく。もちろん振り向きはしなかった。

この話の後編でかなり重要な伏線が入ります。

ついでに恋愛要素が急に濃くなりますので、苦手な方は覚悟を決めてください。

次回もご愛読よろしくお願いします。

アドバイスなどはいつでも受け付けていますので、そちらの方も良ければどうぞ。

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