#2 死神の憂鬱
転校した経験のある方なら、非常に共感できる始まりだと思います。
またこんなことしてくれる異性がいたら、なんて妄想してくれても結構です(笑)。
さっきまであんなに素っ気なかった福本の微妙な心境の変化をお楽しみください。
「はぁ、何でこんなことやってるんだろう……」
転校生のお約束、質問攻め。私にマニュアルでもあるのかと思わせるほど、どこへ行っても毎回毎回同じことを聞き続ける。そりゃ、溜め息もつきたくなって当たり前だ。それでも私は我慢して無表情で答えていく。こうしていれば大抵、飽きて離れていく。だがやはり『ああ、面倒だ』、そう思ったときだ。
右側の席に座る瞳に輝きのない男が私の左手を突然握り走る。福本だ。驚きながらもここぞとばかりに、私も手を握られたまま走る。やはりこの男は普通の人間と違う。変わり者と言ってしまえばそこまでだが――――
私の好奇心を心の底から刺激し、背筋をぞくぞくとさせ、鳥肌を立たせる。こんな男に出会いたかった、そして殺したかった。
「ここで大丈夫か」
立ち止ったのは一階の下駄箱の前。三階の教室から一気に下り、ここまでやってきた。途中、手を握って走る男女に多くの生徒が目を奪われていた。自分で言うのもなんだが、私も福本も容姿が悪いわけではない。むしろいい方だと思っている。それゆえに目立ったのだろう。
福本はそれだけ言うと息を切らせたまま、立ち去ろうとする。
「待て。確かに感謝している。だが、何で助けた?」
下駄箱にもたれかかりながら、そう言った。すると福本もどこかへ行くのをやめ、私の右側の下駄箱へともたれかかる。思いっきり走ったので二人とも、息が荒れている。
「あんたが憂鬱そうに見えた。ただそれだけだが」
簡潔な答えである。だが、無性に腹が立つ。こっちが向こうの考えが分からないのに、向こうはこっちの考えが読まれているように思えた。そんなことを考えていると福本はまた口を開いた。
「フン、すまんな」
下駄箱にもたれかかりながら、上向き加減に福本は鼻で笑って言った。また私の考えが読まれてる……。こいつ、超能力者か何かか? さすがにそんなわけはないか。
「さすがに超能力者じゃないぜ」
……また読まれたか。今度改めてポーカーフェイスの練習でもしてみよう。気を取り直して再び切りだした。
「……本当にそれだけの理由で助けたのか?」
下駄箱を両手で強く押すように背中を離すと、ゆっくりと行く手を阻むように福本の目の前に回り込む。それでもやや上を向いたまま視線を落とさず、福本は言う。
「俺と同じ眼をしている奴に興味が湧いた、じゃダメか?」
「聞き返さないでよ。私はそれで十分だから」
――同じ眼をしている……か。ますます興味が湧いてきた。福本が私に興味を抱いているのは厄介だが、取り様によっては好都合だ。
福本に考えが読まれないうちに、立ち去るとしよう。体を九〇度ひるがえし、歩き始めた。足音で福本もどこかへ別の方向へ行ったのがわかる。
普通の人間とは違う感性。それでこそ殺し甲斐がある。そう考えると笑いが込み上げてくる。誰もいないのを確認し、私は高らかに笑った。
「何が面白いんだ、紅?」
「!! 福本!? お前、何でここに?」
明らかに違う方向へ行ったはずなのに、右脇の通路からひょっこり現れた福本。
「俺が出てきちゃ悪いか?」
確かに悪くはない。悪いと思う必要すらない。しかし、何か気にくわない。
「でも、タイミングというか……」
「それよりなんで笑ってたんだ? もしかしてお前俺のこと!?」
こいつがあの冷めた眼をしていた福本か? 最初に見た時のあの人を見下した眼……。いや、今も冷たい曇った眼をしている。水に紺の絵の具を溶いたような曇った眼を。表情と瞳がまるで噛み合っていない。なんというか違和感とでもいうのか。
「どうした? やっぱり俺に見惚れてたか?」
「そんな訳ないだろ! というか、やっぱりってなんだ、やっぱりって」
こいつの死神よりも冷めた眼と子供のような笑顔。ミスマッチだからこそ、さらに興味をそそる。だからこいつを殺すのは私だ。
「ほらそろそろチャイムが鳴るぞ」
「……わかってるよ」
やはりこいつの考えは読めない。殺したいのは山々だが、もう少しこいつを見ていてもいいかもしれないと一瞬思った。
「ほら紅、行くぞ」
マイペースな福本に嫌気がさしそうになりながら、私たちは駆け足で教室へ戻った。
いかがでしたか?福本という少年をどのように認識ししましたか?変わり者ですか?それとも不思議なやつですか?それとも……。その答え合わせも兼ねて次回以降も読んでいただけると、より一層楽しく読めると思います。