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#1 死神の掟

夏休み前ということで浮かれている生徒や教師と、任務のことしか考えずに冷静でいる紅彩の感情を対比して面白おかしく見てもらえればいいと思います。

アドバイスや感想があれば、簡単なことでもいいのでお願いします。

 私は世界を赤に染める死神。正しくは見習いであるが、後一人殺せば正式に死神になれるところまできたので、細かい話には目をつぶってほしい。

 死神には絶対三法ぜったいさんぽうと呼ばれる大きな掟が三つ存在する。まず一つは指令された人間しか殺してはいけない。もう一つは自ら直接手を下してはいけない。最後の一つは絶対に死神と悟られてはいけない。一応今まではこれをクリアしてきている。他にも細かい掟は山ほどあるのだが、殺すはずの人間に恋をしてはいけないなんて、破るものはいないだろう。

 最近の死神もデジタル化していて、死神としての司令は携帯電話のようなもので下される。通称“キル・メール”と呼ばれているメールが来るとそのターゲットに悟られぬよう、そっと忍び寄り殺し、そして次のキル・メールが来ると言った風に繰り返される。気の弱い死神は時々嫌になり、鬱になるものもいるらしいが、私にとってはただの紅い華を咲かせることにしか過ぎない。

 そして、今度もキル・メールに従い、次なるターゲットのいる高校へとやってきたところだ。青済高校と言っただろうか。私のターゲットは、いつも私と同じくらいの学生が多い。それだけ若い死神が不足しているということなんだろう。そういえば私より若い死神に会ったことがない。他の死神に会ったことすらほとんどないのだが。



 セーラー服姿で上履きを履きかえ、職員室へと向かう。職員室の扉を開けたところにある観葉植物の右のデスクでコーヒーを飲んでいるメガネの男が私の担任らしい。


「やあ、君が紅彩クレナイアヤ君か?」

「……はい」

「元気がないな。あつはなついからね。無理はない」


 笑いを取ろうとボケをかます。愛想で笑いを浮かべるが、明らかに苦笑いだとわかるように笑ってやった。

 担任はそれに気付き、一瞬眉をしかめた。が、それでも認めることなく話は続く。強がりな人間は嫌いだ。弱いくせにそれを認めず、進歩する道を自ら断つ。私も人間のままだったならどうなっていたか――――。


 キーン、コーン、カーン、コーン。朝のホームルームの始まりを告げるチャイムが私を救った。これ以上、この教師と話しているとキル・メールも関係なしに、殺していたかもしれない。


「おっと、もうそんな時間か」


 チャイムが鳴り、担任の男は腕時計を見つめる。残ったコーヒーを一気に飲み干した担任と職員室を後にする。担任に連れられて横切るのは、私と同い年の高二の教室の前。男の話を無視し、窓から教室の中を横目で覗くと、数人の生徒と目が合ってしまった。見慣れない生徒を中の生徒が見つめる。夏休み前のこの時期に転校生など珍しいので不思議ではないが、いくらなんでも全員が全員見つめすぎな気がする。人間のこういうところが嫌いだ。見慣れないものに興味が行き、そして最後には見捨てる。子供のころは命よりも大事だと思っていたぬいぐるみと同様に……。

 朝っぱらから嫌悪感を抱きつつ、立ち止ったのは何の変哲もない木の引き戸。扉を開けるとクーラーの冷たい風が私を包む。セミの鳴き声のする湿度の高い廊下とはまるで異世界の様である。

 教師が部屋に入ってくると、立ち歩いていた生徒が一斉に席に戻る。全員が着席し、黒板の方を向いたのを確認するとようやく教卓に立ち、口を開いた。


「はいみんな、おはよう! 期末試験も終わってもうすぐ夏休みだが、今日は転校生を紹介する」


 そう言い、私の方を向く。生徒たちの視線も私に注がれる。別にいつも殺人のために転校してるし、いつも同じ反応なので気にはしない。型どおりの動きばかりの人間に嫌気がさしそうだが。

 フッと鼻で笑い、生徒たちに背を向け適当な長さのチョークを手にすると、黒板に自らの名前を書く。


「はじめまして、紅彩です。よろしくお願いします」


 表情を変えず言い切る。軽く会釈のように頭を下げると、どこからともなく拍手が起こった。それにつられ、拍手は教室中に広がっていった。いつも思うが拍手する理由がまったくわからない。この際「よろしく」と声をかけた方が、距離は縮まるだろうに、ほとんどの奴は拍手するだけで満足する。少しくらい馬鹿がいた方がそれなりの学園生活を送れるだろうに。

 しばらくして自然に拍手がやむと、運動場側の一番後ろの席の一人の男子が気になった。それは私が毛嫌いする人間とはどこか違う。何に興味を抱いているのかわからない目をしており、拍手もせず、ただ頬杖をつきながら左側の窓の向こう側をじっと見ていた。彼が何を見ているのか、逆に私の方が興味を抱きそうだ。


「それじゃあ、紅は福本の隣にでも座ってくれ」


 担任が指さしたのは、その彼の横の空白の席。やや速足で歩き、指刺された席の脇に鞄を置き、椅子に腰掛ける。


「福本君、よろしくね」


 周囲の視線に見守られながら感情を込めずに、そう言った。私の見込み違いで変に意識されたらたまったもんじゃない。なぜなら彼――福本俊輔フクモトシュンスケが今回のターゲットなのだから。

 その福本は左手で頬杖をついたまま、目線を軽くこちらに向けて「ああ」と言った風に返事をすると、再び目線を運動場へ戻す。

 この瞬間、彼の態度から私は彼に特別な感情を抱いた。もちろん恋愛感情のようなものではない。どちらかというとこの人間らしくない人間に好奇心を覚えたというのが、最も的確だろう。もしかしたら、私は彼のような人間を求めていたのかもしれない。


「そんなに気にしないでね、シュンは昔っからいつもああだから。あたし、岩崎紗綾香イワサキサヤカ。よろしくね、紅さん」


 特に気にしているわけでないが、そう見えたのだろうか。

 突如話しかけてきた、通路を挟んだ右隣の席の岩崎紗綾香という彼女はセミロングの赤茶の髪に、崩してきている制服からおそらく問題児かなにかだろう。だが話し方や振る舞いからは気品が漂う。よく見ないとわからないほどの微妙なグレーの目がとても美しい。しかし彼女からはいつもの人間より少し気遣いができる程度の印象しか受けなかった。

 しかし彼女はいろいろと利用価値がありそうだ。さっきの簡単な会話からでも福本と彼女が、昔から親しかったのがわかる。キル・メール以外の情報を得るのが私のやり方。それは何があっても貫き通す気だ。


 こうして私の新たな生活は始まりを迎えた。そして終わらせるために福本を殺す。私の名前の通りあの男――福本俊輔を紅に彩る、ただそれだけ……。

基本的には主人公の紅彩、そして今回登場したターゲットの福本俊輔の2人と、後々登場するもう1人の死神の計3人でこの『死神に幸あれ』という作品は回っていきます。

現在はぶっきら棒な福本ですが、話が進むにつれてその態度も変わっていきます。

思春期独特の感情の変化も楽しんでいただけると、ありがたく思います。

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