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#9 死神と夏祭り(後編)

今回は書いててかなり苦しくなった話です

エンドまであとわずかとなりましたが、いろんな意味で感じてください

 金魚すくいのお店から逃げるように去った後、私たちはいろんな露店を立ち寄った。

 ヨーヨーすくいにスマートボール、くじ引きやスーパーボールすくい、それにベビーカステラなど。死神見習いになってすぐに氷堂さんに連れてきてもらって以来の夏祭り、七年ぶりのそれは私にとっては夢のようだった。だがそれも隣にいるのが福本だからかもしれない。

 私の中で福本の存在が大きくなっていくのをひしひしと感じる。自分ではそれを認めたくなかった。認めることが怖かった。


「おい、おい?」

「あっ、どうしたの?」


 うつむいていた私は、福本に呼ばれてふと我に帰った。目の前は心配そうな表情で、温かい眼で私を見つめる。それに応えるように少しだけ笑った。


「いやなんでもないけどさ……、なんかボーっとしてたから……」


 そういっているものの笑みを浮かべる私を見て安心したのだろうか、元の子供のような表情へと戻っていく。その表情がうれしかった。けれど私の心を締め付ける、それでも嫌いになれそうにない。


「ううん、大丈夫。そろそろ行こう……」


 突如として私の携帯が鳴る。この着信音はメールだな。


「ごめん、ちょっと待って」


 浴衣に合わせて選んだ巾着から携帯を取り出し、メールボックスを開いた。

 えっと、差出人は氷堂さん!? 嫌な予感がするというか心当たりはあるが開かないわけにもいかない。覚悟を決めて、メールを開いた。




FROM 氷堂さん

TITLE 無題


とうとう期限となりました

君が再びあの紅い華を咲かせるのを楽しみにしています

最後に一つ、君は死神だ

人間なんかになり下がらないでください



 見なければよかったと思った。そう思った時点でもうすでに私は人間になり下がっているのかもしれない。けれど、もしかするとそれでも良いかもしれない。私はずっと福本と一緒にいたい。そう思うと急に涙が奥から込み上げてくる。


「おい、どうした?」

「なんでもない」


 かろうじて涙はこぼれなかったものの、本当に泣けそうだったので、そっけない返事して、そっぽを向く。そして福本にばれないようにそっと右手で涙を拭う。


「そろそろ腹が減ってきたな、焼きそばでも食うか? さっきの勝負の勝利賞に俺がおごってやるからさ」


 空気を変えようと福本が言ってくれた。そんな心遣いが嬉しかった。素直にありがとうと言いたい、でも言えない。そんな自分がもどかしい。

 福本が指さしたのは一軒の焼きそば屋。ソースの焦げる香りが食欲をそそる。


「それじゃあお願いね」


 さすがの死神の私でも空腹には勝てない。二人揃って露店へと歩みを進めた。


「おっちゃん、焼きそば二つ」


 福本がVサインを前に突き出して言う。なんというか横にいる私が恥ずかしい。


「へいよ!」


 福本の勢いに負けず店のおじさんは、返事をする。鉢巻きに沿った坊主頭。ちゃきちゃきの江戸っ子をイメージさせるおじさんだ。


「お待ち! 学生さんにはちょいとサービスしといたから」


 おじさんの気遣いが、学生の財布には優しい。死神といってもほとんど自分のものとして使えるお金は持ち合わせていない。おそらく福本もだ。


「おっちゃんサンキュー、それじゃあ俺からもだ。釣りはいらねえ」


 福本も焼きそばのパックが二つ入った小さめのビニール袋を受け取り、代わりにおじさんの手のひらに五百円玉を置いた。よっぽどサービスがうれしいのか、ずっとニコニコしっぱなしである。そんな二人のやり取りを見ているといつしか涙はどこかへ行ってしまっていた。


「兄ちゃん、百円足んねえよ」

「おっとすまねえ」


 おじさんに釣られて福本も口調がおかしくなっている。ちゃんと百円を払いその場を立ち去った。

 歩きながらアツアツの焼きそばを食べる。一青海苔と少し焦げたソースの香りが絶妙に絡み合っておいしい。


「この焼きそば、おいしいね」

「うん……? ああ」


 曖昧な返事をした福本は、まだ焼きそばに口をつけずに、スライドさせた携帯の画面を見つめていた。

 私との夏祭りが楽しくないのかと少し気分を害したが、この焼きそばなら埋め合わせが十分に可能だ。


「なあ、紅。ちょっと来てくれないか?」

「ええっ! ちょっと福本!?」


 急に福本は私の浴衣の袖を引っ張り歩き始めた。そしてそのまま青済神社を後にした。

さて、神社を後にした2人はどこへ行くのでしょうか

次回が一番の山場なので、次回だけあえて前書きはなくしておくつもりです

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