神殿
地球から遥か彼方の外宇宙に位置した惑星に宇宙船が着陸した。乗員は地球連邦外宇宙探査隊の五人だった。着陸してすぐに、宇宙船の周囲には、この惑星の住人たちが集まってきた。いくつかの観測装置を地面に据え付ける隊員たちの様子をじっと見ていた。
住人たちは、古代ギリシャのヒマティオンに似た衣を身にまとい、見た目もどこか古代人を思わせる風貌をしていた。
隊長は、身振り手振りで、その住人たちの中の背の高い人物とコミュニケーションを試みた。隊長はその人物を統治者と判断したのである。最初は品物を形容する単語がやり取りされ、その統治者とおぼしき人物が長く喋りだしたときに、小型の言語変換器を作動させた。
収録された音韻と全体のシンタックスの分析から言語を解明し、異星の住人の意思を読み取った。
統治者は言う。
『あなたたちはどこから来たのか』
隊長は答えて、
『地球という、遠い星からきました』
『戦をしに来たのか?』
『われわれは宇宙の調査が目的です。戦は欲しません』
統治者と話してわかったのは、この星にもかつては高い文明があって人々は平和に暮らしていたが、あるとき、別の星へと大勢の人々が旅立ってしまったということだった。今は残された住人たちで細々と暮らしているという。
探査隊の一行は統治者に案内されて彼らの住居群を訪れた。木材で作られた質素な住居が並んでいた。
統治者はキリル、と名乗った。
起伏のある土地を耕し、彼らは祖先から受け継いだ生活を営んでいた。隊長がそこから眺めると遠方に高層建築と思われる風景が認められた。地球で言うスカイスクレイパーだった。上部がまばゆい光を反射させている。
キリルは言った。
『あそこは神の黄金の神殿。誰も住んでいない。近寄ってはならない』
隊長は訊いた。
『あなたたちの神とは戦の神か?』
『いや、ちがう。私たちの心の支えだ』
探査隊一行のなかに、デニスというエンジニアがいた。デニスはこの『神の黄金の神殿』に興味をもち、ある日、スカイスクレイパーをめざして一人で出掛けた。その高層建築に近づくにつれて、それが人の住む住居でも神殿でもなく、直立したロケットを支える発射塔なのだとわかった。
予想もしなかった出来事に、デニスは発射塔と、それが支える巨大な多段式のロケットを茫然と見上げていた。
発射塔上部の輝きは確かに黄金だろう。
と、そのとき、デニスは腕をつかまれた。
キリルだった。ほかに複数の住人が立っていた。キリルは鋭い目付きで、
『なぜ、神の領域に立ち入った!』
キリルの脇にいた住人たちがデニスを縛り上げた。キリルは言った。
『あなたは神に謝らなければならない。死をもって神に償わなければならない』
キリルと住人はデニスを発射塔のエレベーターに乗せて、ロケットの先端に連れていき、強引に内部に押し込むとハッチを閉めて外側からロックした。キリルは天を仰いで言った。
『神よ! 我らの贖罪の気持ちを捧げます』
轟音で隊長が気づくと、一機のロケットが尾部から火炎を吐きながら上昇していくところだった。ロケットはこの惑星を照射する恒星、太陽に向かって推進していった。
惑星の住人たちの崇めていた神は太陽だったのである。
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