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閉じた世界の機甲兵  作者: ライザ
第二章 崩れる自己
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交戦




 あれから六日が過ぎた。


 俺は今、ウェアに乗って空を飛行している。俺を含め、十機のウェアでの集団飛行だ。

 リブラから俺達に与えられた命令は、敵集団及び敵新型機の迎撃。敵新型機については可能であれば撃墜を行うが、無理だと判断した場合、データ収集に徹して構わない、と告げられていた。

 

 この六日間は、いつもと変わらない日常だった。

 トレーニングにシミュレーション。そして戦術講義。


 そんな日々を経て、俺は再び戦場に駆り出された。


《えー、諸君。本日はエイプリルの敵機新型率いる集団との交戦だ》


 この部隊を指揮するリーダー、マルスが部隊のチャンセルを開いた。そろそろ敵との交戦ポイントに入る。その前の最後の確認だろう。


《ウェア数はこちら十機、敵部隊が八機。相手は切り札さんご同行のしんどい戦場だが、数的優位は確保できてる。なんとか生き残ってみせようじゃないか》


 多分、この戦闘で誰かが死ぬだろう。死人が出ない戦闘なんて、そうそうあるもんじゃない。ましてや今回は敵の新型もいる。苦戦は必至だ。

 皆もそれは分かっている。ただ、ここまで生き残ってきたような人間は皆、ある種の諦めを持っていた。

 どんなに考えたところで、結局はその時々の流れによって状況は目まぐるしく変わるわけで――ようは、蓋を開けてみなければわからない。


 だから皆、悲観的にもならないし、怯えるようなこともない。

 そう言った人間は、もう皆死んでいる。


《ただ心配することなかれ。新型は我らが第二エース、ケイが担当する。新型のスペックはなかなかのものだが、ケイの卑怯戦法には敵わないだろう――と、マズイ。リブラへの背信発言だ。諸君、オフレコで頼むよ》


 部隊の皆から笑いが起こる。俺もつられて笑った。

 卑怯戦法、確かにそうだ。意表を突いた奇襲攻撃がなんて、そう言われても無理はない。 

 

《そんじゃま、皆さん構えて。フォーメーションを崩さずに、十秒後に交戦開始だ。いくぞ》


 マルスがそう言うと同時、皆が遠距離武装を構えた。敵機集団が遠くに見える。俺ならぎりぎりライフルで狙えるかどうかだ。遠距離武装を所持している機体なら、腕前次第で直撃させることもできるだろう。

 

《撃て!》


 マルスの合図で皆が発砲。

 敵の隊列がほんの少し乱れた。こちらはフォーメーションを組んだまま敵の迎撃に入る。

 

 今日の作戦は大まかにいうと、こうだ。

 まずはフォーメーションを利用しながら、一部の相手に数的優位を作って攻撃を集中。確実に相手の数を減らしていく。その間に俺が、敵新型と交戦して可能な限り足止め。最後は残った兵力で敵新型を撃墜する。


 数的な優位が確保できれば一方的な戦果を挙げることも可能になる。

 集団戦では何よりも敵を孤立させ、数で囲むことが大事だ。

 

 俺は敵新型へ向かおうと相手を探すが――しかし、周囲にそれらしき姿は無かった。


「リーダー機、敵の新型がいない。対応を求む」


《リーダー機了解。索敵に入る》


 マルスの機体は遠距離射撃と後方支援を得意とする指揮官機だ。他のウェアに比べると機動性が低い代わりに、センサ系統が極めて強化されている。

 マルスの機体で索敵できなければ、恐らくこの空域にはいない可能性がある。


《十時の方向、遠方に一機。こちらに向かっている。恐らく敵の新型だ。二番機、迎撃に迎え》


「了解した」


 俺はマルスの指示した方向に飛行していく。少しして、敵機の姿が見えて来る。

 

 遅れて合流、ということなのだろうか。意図は読めないが、迎撃するのみだ。


 と、その時。 


 敵が、加速した。


 一瞬で、まるで弾かれたかのように。


 急激な加速。


 瞬く間に俺との間隔が詰められていく。


 何だこのスピードは。

 事前にあった情報より圧倒的に速い。前回の戦闘はフルスペック出していなかったのか?


 俺は右腕のパイルバンカー、多連ニードル射出機構を展開。

 機体の速度を調整し、迎撃姿勢を取る。


 この前の交戦時のデータによれば、敵機の武装は小型の拡散式ミサイル、取り回しの良いショートレンジのニードルバレット、そして近接装備にランスを装備していた。この他にも武装はあるだろうが、前回確認できたのはこれだけだ。

 敵新型機は、恐らく高機動戦を生かした一撃離脱型だろう。単純なスピード勝負では敵わない。なら、戦術で対応するしかない。


 相手の性能は読み切れないが、とにかくやるしかない。


 しかし、交戦に入ると思われた、その瞬間。


 敵新型は俺を回避し、過ぎ去っていった。


 ――マズイ。


「抜かれた、各機警戒を求む!」


 俺は敵機を追う。しかし、間に合わない。

 相手の目標は俺じゃないかった。

 あいつはこのためにわざと遅れてきたのだ。

 本当の目標は、交戦中の隙だらけのウェア――


「五番機、狙われている! 回避しろ!」


 俺が叫んだのと同時、敵新型が背部から二門の砲を展開。五番機へ向け放った。

 交戦中の五番機はそれに対応できず、着弾。連続した発光が起きる。その発光が終わると、大量の多層高位無化装甲が消し飛ばされていた。通常ならあり得ないほどの損傷だ。敵の武装は、何か特殊なものなのか。


 そして、敵新型機は五番機の損傷した装甲に長身の槍を突き刺す。同時、そのランスの先からニードルが連射された。

 五番機の装甲完全に貫かれ――そして、地に落ちて行った。


 敵新型は別の機体へ目標を定め、加速。そして二問の砲を打ち込み、装甲を消し飛ばしていく。


 させるか。


 ガトリングを撃つ。しかし、敵新型機は高速で移動し、それを回避した。そしてランスにて装甲の少なくなった機体を捉え、ニードルを打ち込んでいく。


 ダメだ、速すぎる。今まで戦ったどの機体よりも群を抜いて速い。


 戦場は新型機にかき乱されていた。圧倒的なスピードと破壊力で次々とウェアを破壊。瞬く間に計四機のウェアが撃墜されていった。どうにか追いつこうと機体を飛ばすが、しかしその差は埋まらない。


 と、敵新型機へホーミングミサイルが向かって行く。敵新型機はそれを回避するため、その場を離脱。


《二番機、敵新型を押さえろ!》


 マルスが叫んだ。ミサイルもマルスが撃ったものだろう。


「了解!」


 敵機は今、ホーミングミサイルの対応に意識が向いている。この隙に、近接戦に持ち込むしかない。

 俺は最高速で機体を飛ばし、敵機へ接近した。


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