自問
イヴァンと別れて暫くして、俺は自室で床に就いていた。
ここはウェアパイロットたちの宿舎。各個人にはそれぞれ部屋が与えられ、そこでの生活が強制されている。
部屋は一人が生活するのに余裕がある程度のスペースしかない。生活に必要な物はある程度備えられているが、バスやトイレは共用のものを使わなければならなかった。
俺は瞳を閉じながら、イヴァンとの会話を思い出していた。
他人に、興味が無い。それは多分、合っている。
戦え戦うほど、自分の感覚が麻痺していくのがわかる。
人を殺すことに抵抗が無く。
味方が死ぬことに迷いを感じなくなり。
日常の一部として、受け入れられるようになっていく。
目の前で味方が撃墜されそうになっていても、頭の中では次の動きを考えている。救うのではなく、どう動くべきか。その命を駒にして、どう動くべきが最適なのか。それしか考えられない。
そんな俺が、誰かを大切になんて考えられるのか。
ドアの向こう側から、男たちの笑い声がかすかに聞こえてきた。
きっと、酒を飲んで酔っているのだろう。陽気な笑い声だった。もしかしたら、マルスもその中にいるのかもしれない。
ウェアパイロットは通常、七日に一度ほどの出撃しかない。次の出撃に合わせ、パイロットはコンディションを整えていく。
翌日に持ち越してしまうほど大酒を飲めるのは、帰投後の時間だけだ。その日以外は調整に支障が出る。それを守れない奴は、大体碌な目に合わない。
きっと、怯えているから。
馬鹿をやって、忘れていたい。
その間は恐怖をしないでいられるから。
この戦争が続くうちはきっと、みんなそうなんだ。
今は何かをして楽しんでいられても。
明日には死んでいるかもしれない。
その恐怖を忘れるために、何かに縋るか。
もしくは、恐怖を感じないようになってしまうのか。
そうしなければ、生きてない。
この世界は理不尽なのだろうと思う。
けれど、どうすることもできやしない。
俺の運命は生まれた時から決まっていた。
脳も、身体も、戦いの為に変えられて。
選択肢などなかった。
ウェアパイロットとして育てられ。
そのためのトレーニングを積み。
他には何も知らない。
ただ敵を倒して、他人を蹴落として、生き残る。
俺はそうすることでしか生きられない。
皆だって、そうだ。
だから、自分がたまたま生き残っていることを理解している。
人よりほんの少し、恵まれていただけ。
けど、何時そのバランスが崩れるかわからない。
だからと言って、俺達にはどうすることもできやしないんだ。
そして、死に怯える奴ほど早く死ぬ。
どうでもいいと思っている奴だけ、生き残っていく。
それがきっと、生きるということ、戦いに適してるということなのだ。
他の事は一切が関係なく。
生きるために、戦うためだけに集中できる。
死を目の前にしても。
死を意識しないでいられてしまう。
人として壊れているのではないかと――俺は思う。
それが生き残るというのは優れているということ。しかしそれは、生命として正しいのか?
それを決めるのは俺達ではなくリブラで――そうすべきと言われれば、そうせざるを得ない。
理不尽の世界で生きていくには。
合理的は判断の元で生きていかなければならない。
それが例えどのようなものでも。
受け入れて、時には死ななければならない。
そこに個人の意思など関係なく。
絶対意志に従って生きなければならない。
だけど――
あの夢が現実ならば。
あの風景には、あの女には。
こんなことは関係なければいいと、そんなことを俺は思った。