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閉じた世界の機甲兵  作者: ライザ
第一章 壊れた世界
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トップエース


 仮想世界で作られたただ広い荒野の上で、俺はウェアと一体化し、イヴァンの機体と対面していた。

 

 イヴァンの機体の腕にはニードルライフルがマウントされ、腰には炸裂式ダガーがラックされている。太ももや背中には少量のミサイルポッドが取り付けられていた。そして肩や脚部にはニードルガンが装備されいる。


 俺の機体のような特殊な兵装はなく、スタンダードかつ取り回しのよい射撃と近接を取り揃えている。

 小回りの利くものが多く、一見すると使いやすいが。だが、攻撃を当てにくく感じるようなものばかり。取り回しを優先し、当てにくさは技量でカバーしているのだ。


 特殊さはない。とにかく速く。イヴァンの操縦技術に機体が反応できるように。

 そこに特殊なギミックはなく、基礎スペックを高い水準でバランスよくまとめている。

 そしてそれをイヴァンの戦闘センスで如何なく発揮していく。

 

 単純に強い、そんな機体。


 アラームが鳴り、戦闘開始の合図が告げられる。


 直後、一気に間合いを詰められた。

 俺は後ろへと地面を蹴り、イヴァンと距離を取る。


 その間にイヴァンは俺へと砲撃を浴びせてきた――しかし狙いが甘い。

 これなら回避できる。だが、そうするわけにもいかなかった。


 ある程度経験を積んだ者同士のウェア戦とは、最終的に戦術の読み合いになっていく。 

 一手一手に意図が存在し、そして相手の意図を崩していく。


 そう、例えばこの銃撃はフェイク。乱雑に撃っているように見えて、退避コースを制限している。

 これを避けてしまえば、瞬間で近接に持ち込まれるだろう。そうなってしまうと、こちらの動きを誘導し、事前にこの後の動きを決めているであろうイヴァンが圧倒的に有利になる。

 それに、近接戦は多層高位無化装甲を多く損傷する。イヴァンと戦う上で、初手からそのようなリスクは負いたくない。


 これは避けずに受けるのがベスト。大した損傷にもならない。

 避けるくらいならこちらも射撃を行い、相手の多層高位無化装甲にダメージを与えておく。これが一番いい方法だ。


 多層高位無化装甲のを持つウェアは、どのような攻撃を喰らっても一撃で撃墜されるということはない。ダメージを負っても問題はないのだ。むしろそれよりも多くダメージを与えさえできればいい。


 横方向に加速。イヴァンと大きく距離を取る。

 その間にも、円形に動きながら射撃を行い、牽制。

 イヴァンも同様にライフルで狙撃してくる。

 

 互いに互いの様子を伺う。

 今の射撃の意味は何か。

 何をさせようとしているのか。


 一手先を読むのは誰にでもできる。問題はその後だ。

 二手目、三手目――四手目、手が増えれば増えるほど、処理は複雑化して完璧に読み切るのは難しい。

 ようは敵がどう動くか。それをどう制限するか。

 そして、決定的にな場面をどのように作り出すか。


 ウェア戦は結局のところ、そういう闘いになる。


 イヴァンが前に出る。

 俺も前へ。


 互いに銃撃で互いの装甲にダメージを与えながら接近していく。

 イヴァンが腰の炸裂式ダガーを掴んだ。


 炸裂式ダガーは相手の装甲に刃を直撃させ、そのまま爆発――大量のニードルを相手に浴びせる武装だ。

 軽量で取り回しがよいため、精密操作を得意とし、損傷している多層高位無化装甲にピンポイントで直撃させる、という運用が可能である。

 一方、リーチが短すぎるという問題はあるが、イヴァンの操縦技術なら問題ではない。


 イヴァンは銃撃をものともせず、炸裂式タガーを振う。


 なら。


 右腕のパイルバンカー、多連ニードル射出機構を展開。

 イヴァンの機体のボディへと振りかぶる。


 イヴァンはそれに反応し、左腕でボディをガードする。


 かかった。炸裂式ダガーを振う腕が一瞬遅れた。


 その動作の隙に、俺は右腕を分離、着脱。

 一気にスラスターで加速。


 分離によってダガーは空を切った。

 その間に左腕のニードルガトリングを打ち込む。

 

 そしてすぐに退避。

 欲張りはしない。隙を作ればそのまま打ち込まれる。


 奇襲戦特化型――俺の機体の強みは、この一連の流れに尽きる。


 単純な人型では実現不可能なトリッキーな動き。分離合体による自由度の高さ。俺の機体の動きは他の機体のパターンを大きく超えるため、次の動きが極めて読みにくく、そして対応パターンが多い。

 また、他の機体にない動き、というのは同時に、初見での動き――いわゆる、初見殺しを発生させやすい。

 事前に知っているのとそうでないのでは、雲泥の差がある。

 ウェア戦は如何に一瞬の隙を作り、ニードルを叩き込むか――その際に敵の動きを遅れさせるというのは、極めて強烈なメリットだ。


 イヴァンが追ってくる。逃がしてはくれない。当たり前か。


 だったら。


 脳内で戦闘パターンを展開。

 右腕を分離してる今の状態に対応する、四手先のパターン――全三十三通りの流れをイメージし、行動を起こす。


 先ほどニードルを打ち込んだ場所に、再びガトリングを放つ。

 イヴァンは機体を右へ僅かに動かした。着弾点をずらしつつ、接近。


 あくまでも近接か。

 

 俺はガトリングを連射。イヴァンは装甲の減少を恐れずに突撃していくる。装甲の着弾点を細かく変え、一部の大幅な損傷を防いでいるのだ。これなら致命傷にはならない。

 イヴァンの背後から右腕をへ突撃させたが――しかしイヴァンは機体を屈ませ、間一髪でそれを回避する。

 読み通り。

 身を屈めたイヴァンの機体に、ガトリングを放つ。この至近距離なら、そろそろ連続被弾は避けたいだろう。


 こちらの思惑通り、イヴァンは左へ飛びのきガトリングを回避。それと同時に、俺はその場で左腕を切り離し、跳躍した。

 その間に右腕を操作し、イヴァンの死角で機体と合体させる。

 イヴァンの背後に着地。更に残りの砲門で銃撃を放つ。


 イヴァンの意識に、今俺の右腕は無いはず。

 そして切り離したガトリングの砲撃で退路は塞いでる。

 なら、反射的に左へ攻撃を回避するはずだ。その位置に相手が来ることを想定して、多連ニードル射出機構を展開。

 イヴァンは読み通り、左へ。回避しようとするイヴァンに、多連ニードル射出機構を向ける。回避する反応はない。直撃できる――と思ったその瞬間、それは寸前で防がれてしまった。


 イヴァンの機体の腕が、射出機構の砲身を掴む。一瞬、俺の機体は硬直。その隙に、ボディに炸裂式ダガーを喰らってしまった。

 俺は各ボディを分離させ、離脱。その間にも右腕にダガーを突き刺される。

 銃撃でけん制しながら距離を取って体勢を整え、俺はボディを合体させた。しかし、その間にも銃撃を何発も喰らってしまった。


 ――しくじった。


 俺の想定した通りの流れ、展開だった。

 直前までイヴァンは予測してなかったはずだ。分かっているのならもう少し速く対応できたはず。

 完全に反応は遅れていた。なのに、強引に対応してきたのだ。

 

 これがイヴァンのトップエースたる所以だ。

 圧倒的な経験値と感覚により、瞬時に最適解を導き出す。

 多少の反応の遅れをリカバーできる、超速対応能力。そして、その対応を確実に成功させる高レベルな操縦技術。

 隙が隙ではない。大量のパターンをもって仕掛けても、攻撃が入るかどうかは、イヴァンが反応してしまうかどうかの運頼みになる。


 相変わらず底が知れない。十八年連続のトップエースは伊達じゃない――


 イヴァンが再び接近戦を挑んで来る。休む暇を与えさせない気か。

 いいだろう、付き合ってやるさ。


 俺は両腕を分離させ、イヴァンへ向けて射出した。

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