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閉じた世界の機甲兵  作者: ライザ
第一章 壊れた世界
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シミュレータルーム


 食事を終えて、マルスと別れた。

 彼は市街地へと遊びに行く、と行っていたが、俺は遠慮した。どうにも気分ではないというか、少しウェアを動かしたかった。

 

 そうとは言っても、実際にウェアを動かすわけではない。仮想シミュレーションを行うだけだ。実際のウェアのように神経接続や反応速度を高める薬物を投与するため、体感としてはほとんど実践と変わらないが。


 今回の戦闘は最後に雑な動きをしてしまったし――それに、シミュレータルームに行けば、あの人もいる、そんな気がした。


 今日の食事はパンに豚肉に野菜の入ったスープ。今日は出撃があった分、量が多く出されていた。


 人類に必要な物、例えば水や食料、衣類などは全て、タワー内部にて生産されている。

 徐々に広がってく放射能やガスといった環境汚染は、既にドーム内に広がってしまっている。 今すぐに人体に影響が現れる、と言ったことはないが、今後百年以内にはタワーの外を一日歩いただけで死に至るレベルまで汚染が進むと言われていた。

 

 その汚染から人類を守るのがタワーである。

 しかし、その維持にも非常に高いエネルギーが必要であり――超量子コンピュータの計算では、数世紀のスパンで見た時に、この地球上で維持できるタワーは一基のみだそうだ。


 建造されたタワーは十二基。その他のタワーを滅ぼさなければ、自らのタワーを存続させることはできない。


 ならば、生き残るべきタワーとはどれなのか。十二の超量子コンピュータが議論を重ねた結果、辿りついたのが――戦争による自然淘汰だった。


 人類という種を残すのならば。

 最も優れた人類が残るべきだ。

 つまり。

 全十二基のタワーの戦争を勝ち残った者こそが、生き残るべき人類だ。


 そうして始まったのがウェアを用いた戦争だった。


 この戦争はあくまで自然淘汰を行えればよく、速やかな殲滅を目的としない――


 その思想の元、この戦争にはいくつかのルールが決められていた。

 

 戦争の開始、終了時間の規定。戦争前戦力の開示。総ウェア数の上限設定など。

 戦時の作戦は超量子コンピュータが事前に決定、優秀な人間は敗戦タワーからでも殺さずに加入させるなど。


 速やかな殲滅ではなく、緩やかな淘汰を。

 より強い人間を生き残らせるために。

 この奇妙な戦争は続いていた。


 この戦争はウェアパイロットだけでなく、民間人の間でも行われていた。

 例えば生産能力、例えば雑務処理能力、例えば他者育成能力。役割ごとに指標が示され、点数付がされる。

 そして、能力値の極めて低いものは淘汰される。


 超量子コンピュータが「人類が生き残るため」に選んだ最適解。

 太陽系全土に広がった人間が、直径20㎞の塔の中で生きる、最も優れた方法――


 マルスは他の同僚と共に市街地に行ったようだ。

 ウェアパイロットの遊びは珍しいものではない。むしろ、頻繁に行われていると言ってもいい。

 今日は生きて帰って来れた。けれど、明日には死ぬかもしれない。

 だったら、せめて今を楽しみたい。そう考えるのはきっと、正しい。


 俺もそうすればいいんだと思う。

 けれど、そうしてはいけないと、そんな思いがどこかにあった。


 今は少しでも戦いに触れていたい。


 ――俺は生き残りたいのか。

 ――それとも戦う快感に溺れているのか。

 ――戦うということを楽しんでいるのか。


 自分の気持ちがよくわからないまま、俺はシミュレータルームに辿りついた。


 シミュレータルームには一人、先客がいた。

 もう夜の時間帯だ。この時間までトレーニングをしているのはきっとイヴァン――リブラのエースパイロットだ。


 丁度休憩をしていたのか、イヴァンはシミュレータマシンにもたれかかり、煙草をくわえていた。


「禁煙ですよ、ここ」


 軍事施設内での指定場所以外での喫煙は厳罰行為だ。バレてしまえば人格査定にも大きく査定されるはずだ。


「誰も文句は言っちゃこないさ」


「リブラも?」


「言われたことはないね」


 それはイヴァンがリブラのトップエースだからななのだろうか。

 イヴァンの強さは群を抜いている。与えられている機体の性能がいいことも理由だろうが、それよりも本人の腕がいい。もしかしたら、全タワーの中でも最強のウェアパイロットかもしれない。

 

「こんな時間まで、よくやりますね。疲れませんか?」


「そうでもないさ。今日、俺は出撃してないからな。それに、敵の新型のデータが入ってるって聞いたんだが」


「ああ、今日交戦した奴ですね。どうでした?」


「動きはイマイチ参考にはならないな。まだデータがそろってない。再現パターンが足らな過ぎる。つまらん」

 

「一度の交戦じゃ無理がありますよ。せめて、あと三回はやらないと」


「まあそうだな――けど、性能は大体把握できたぜ。多分、ありゃ最速だな。反応時間もなかなか短縮されてる」


「へぇ、めんどくさいのを作ってきましたね」


「けどトータルだとどうだろうな。動きが直線的過ぎだ。機体をコントロールしきれてない」


 まぁそいつはどうでもいいんだ、と言いながらイヴァンは煙草を空いたマシンへと向けた。


「シミュレータ、付き合えよ」


「いいですよ」


 俺がそう言うと、イヴァンは煙草を床に捨て、踏みつけた。


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